367 白銀の羽と鴉眼の術(アーク視点)
こちらは16日連続猛暑日です。
9月になりましたが、皆さま熱中症にはお気をつけて<(_ _)>
アークの出番は今回だけです(≧∇≦)
俺はゆっくりと瞼を上げた。真っ暗な部屋に、わずかな光が差し込んでいた。ここがどこなのか分からない。少なくとも地下ではないようだ。
ため息を漏らし、自らの体を確かめる。神気も魔力も、練ることも循環させることもできない。
理由は分からないが、ベルゼガとメフィストが俺の体に何かしたみたいだ。ギリッと奥歯を噛みしめる。
そのとき、心臓の横にある魔核がずきずきと痛み出した。魔族にしかない器官だが、『真の一体化』を果たした俺には後天的に現れた。
そっと胸に手を当てる。鼓動は規則正しく刻まれている。ほっと息を吐き出す。
魔力も神気もなく、魔法が使えない俺では、肉体を強化することも、癒すこともできない。疲労が溜まった重い体を起こし、周囲を見渡す。
牢獄だと思ったが、設備はちゃんとしていた。ベッドや家具も備え付けられている。ただ、どこか無機質で、心が落ち着くような部屋ではなかった。
ほとんどが壁に囲まれ、天井近くの高い場所に小さな窓がひとつあるだけだった。そこから見える夜空を見上げる。そこには二つの月が並んでいた。
(……どうやら魔界の最奥から移動したわけじゃないようだな)
ベッドから起き上がり、扉へと近づき、手をかけた。思い切り力を込めて押したり引いたりしたが、びくともせず、すぐに諦めた。
ベッドに戻り、座禅を組んで目を閉じて神経を集中させる。次第に五感は鋭く研ぎ澄まされ、空気の流れや匂いを捉え始める。
「鴉眼の術」
その瞬間、上空から見下ろすパンデモニウムが視界に映る。安堵の息を吐き、さらに意識を高めると、ゆっくりと景色が動き出した。
(よかった。魔界でも八咫烏の眷属は召喚できたようだ。魔法が使えない俺にとって、この忍術だけが頼りだ)
とはいえ、互いの位置や距離を把握できるわけじゃなく、捜索には時間が掛かるだろう。
だが、鴉が近くに召喚されたのは間違いない。ならば、ここはパンデモニウムの中で間違いないだろう。
今すぐ鴉にパンデモニウムの内部を探らせたいが、強力な悪魔に見つかれば、一瞬で殺されてしまう。どうすべきか迷う。
一か八か、翼を広げようと試みる。刹那、胸の魔核に激痛が走った。だが、唇を噛み、背中に意識を集中させる。
限界だった。膝から崩れ、胸を両手で押さえて蹲る。翼が生えた気配も、手応えもなかった。激痛が治まるまで、床に額を擦り付け、必死に耐えた。
どれほどの時間が経ったか分からない。だが、ようやく痛みは消えていた。額に滲む汗を拭いながら、起き上がる。
倒れそうになる体を必死に堪え、後ろを向く。そこには白銀の羽が二枚、床に落ちていた。
その羽を拾い、懐にしまう。神気を使えない以上、天使化は無理かもしれないと思っていたが、まさか魔核に激痛が走り、邪魔されるとは予想できなかった。
とはいえ、翼が現れようとしたことは間違いない。この体にどんな異変が起きているのか分からないが、今は脱出することを優先する。
鴉眼の術が解けていないことを確認した俺は、上着を脱いでテーブルへと歩く。そして、その上に置かれていた水差しを取り、手に持ったジャケットへとかけた。
水分を含み、ずしりと重くなる。乾いた布では届いても絡まないが、この重さなら格子に巻き付かせられるかもしれない。
俺は上着を真っすぐ伸ばし、袖口を持つと、天井近くの小さな格子窓まで歩いていく。
高さは約三メートル。これなら届く。俺は腰を沈め、一気に跳び上がると、格子を目掛けて上着を振り抜いた。
その瞬間、バシッと格子にジャケットの袖が巻き付く。その刹那を逃さず、思いっきり引っ張り、壁を蹴って手を伸ばした。
ぎりぎりで格子に手が届き、握り締める。すると、上着はするりと床へ落ちていった。安堵の息を吐き、もう一方の手でも格子を握ると、上体を引き付けた。
格子窓から見える景色に目を見開く。ここは七罪の天壇よりも高い。こんな場所がパンデモニウムにあっただろうか。
だが、俺が生まれ変わるまでに、かなりの時間が経っている。ベルゼガたちが造り変えていても不思議ではなかった。
考えても仕方がない。懐から白銀の羽を一枚取り出し、そっと窓の外へ落とす。そして、すぐに床へ降りて目を閉じた。
再び視界は鴉と共有され、パンデモニウムが見える。鴉は上空を静かに飛んでいた。俺は近づくように意志を飛ばし、ゆっくりと下降させる。
パンデモニウムの鋭く尖った屋根の周りをぐるりと旋回しながら近づくと、月光を反射し、きらりと光る羽を見つけた。ゆらゆらと下に落ちていた。
慌てて、その羽のもとまで向かうよう意志を送った。鴉は風を切り、まっすぐ進む。すると、屋根から伸びる棘の隙間に小さな格子窓を見つけた。
すぐに鴉をその格子窓へ向かわせ、中に入らせる。バサリと羽音が俺の耳に届き、視界には壁に背を預け、座り込む俺の姿が映った。
瞼を開き、術を解く。鴉は肩に止まり、小さく鳴いた。俺は笑みを零し、その頭を優しく撫でる。
(ここがどこなのかは分かった。だが、パンデモニウムの屋根裏にいるとは思わなかったな。ならば、この下が七罪の天壇なのか……)
じっと足元を見つめる。床には紫紺の絨毯が敷かれていた。部屋の隅に行き、その端を掴んで捲ろうとしたが、しっかりと固定されていて無理だった。
ため息をつく。場所は分かったが、脱出するための手立てが思いつかない。せめてナナシだけでもあれば、状況を打開できるかもしれない。
顎に手を当て、思考を巡らせる。そのとき、カチャッと金属音が鳴り、部屋の扉が開いた。
暑い中、読んでくださり感謝です(//Д//)
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