366 虚飾の別れ
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次話は久しぶりに主人公が登場する予定です。
どれほど時間が経ったか分からない。ただ、言葉を交わすことなく、じっと見つめ合うリリスとエジェイルを、私たちは見守った。
ちらりとサラに視線を向ける。彼女の眼差しは柔らかく、敵意は感じられなかった。私がほっと息を吐き出すと、リリスがこちらへと歩いてくる。
「見られたくないところを見られてしまったわね、フォルテちゃん」
彼女は気まずそうに呟く。その目元はわずかに腫れ、瞳は紺碧に戻っていた。そんな彼女に向かって、私は黙って首を横に振った。
「ふふ、貴女らしいわね。まあ、お礼は言っておくわ。けど、勘違いしないで。すべてを許したわけじゃないから」
リリスは肩口から覗く大蛇の刺青――その頭に指を這わせ、静かに告げた。その瞬間、彼女の瞳は青にも赤にも見える、不思議な色を宿した。
目を瞬かせ、もう一度見るが、瞳の色は紺碧に戻っていた。リリスはエジェイルを呼び、私の前へそっと押し出した。
「フォルテちゃん、この子と会わせてくれたことには感謝しているわ。だけど、私はベルゼガにつく。だから、もし私がアー君の救出に手を貸すと思ったのなら、はなはだ見当違いよ」
彼女は青く輝く目で、真っすぐ私を射貫く。だが、その声は私たちを突き放すほど冷たくはなく、どこか覚悟がこもった熱い響きがあった。
どうしようもない不安がよぎった。エジェイルも何か感じたのか、リリスを心配そうに見つめる。
「ふふ、そんな顔までそっくりなのね。まあ、いいわ。ひとつだけ忠告してあげる。メフィストには気をつけなさい。あの男は、命を命だと思っていないわ」
その言葉に、アークのコピーを思い出す。もしかしたら、ベルゼガの近くにメフィストがいるのかもしれない。
私はリリスに頷き、サラとミザリーに目配せをする。二人とも真剣な表情で首を縦に振った。
「じゃあ、私は一度、リリンのところに戻るわ。あの子にも伝えておきたいから。じゃあね、フォルテちゃん。それと、エジェイル」
リリスは片目を閉じ、背中の翼を広げると、広間にある大窓から外へと飛び立っていった。その背中をじっと見つめていると、ミザリーの声が聞こえた。
「とりあえず、エジェイルは帰すにゃ。もう目的は達したにゃ。それにここからは、私たちでも彼女を守れるか分からないにゃ」
彼女は床に手を当て、素早く転移のための魔法陣を構築する。私とサラも頷き合い、エジェイルのほうに顔を向ける。
「ありがとう、エジェイル。本当はリリスには敵に回ってほしくなかったのですが、あなたを会わせることができました。それだけで今は十分だと思っています。ここからは危険ですので、ワンストに戻ってください」
私が頭を撫でながら告げると、彼女はこくりと頷き、胸元からペンダントを取り出した。
「これは以前、アーク様がクラウディアに渡したペンダントです。どうやら通信ができるようです。何かあったら使ってほしいって」
「ああ、そうだにゃ。人界に戻るとき、たしかにアーたんが渡してたにゃ。うん、ちょっとだけど、アーたんの匂いがするにゃ!」
エジェイルが差し出したペンダントを横から奪い、鼻を近づけ、すんすんと匂いを嗅ぐミザリー。その姿に困ったように笑うと、サラが彼女に詰め寄る。
「ミザリー、勝手にエジェイルのペンダントを取らないの!」
彼女はミザリーからペンダントを奪い返し、エジェイルに返す。私たちは再び、彼女を見つめ、笑顔で伝える。
「エジェイル、怖かったのに、ここまでついて来てくれてありがとう」
「そうだにゃ。感謝だにゃ」
「本当にあなたのおかげです。リリスも私も救われました」
サラは優しく彼女の頭を撫で、ミザリーは親指を突き出す。そして、私は深々と頭を下げた。
「そ、そんな、やめてください! 私はただついてきただけです。何もしていません。それよりも、どうかアーク様を助けてあげてください」
エジェイルは深紅の瞳で私たちを真っすぐ見つめ、ペンダントを差し出した。今度はミザリーも奪うようなことはせず、私は両手で受け取った。
「それじゃ、エジェイルは帰るにゃ。ここに立つにゃ」
そう言ってミザリーはエジェイルの手を引き、魔法陣の上に立たせた。その瞬間、床から光の柱が現れ、彼女を包み込む。
「それでは帰りを待っています。皆さん、お気をつけて」
エジェイルが頭を下げると同時に、魔法陣とともにその姿が消えた。私はしばらく、彼女がいた場所をじっと見つめる。
「これで、心置きなく暴れることができるにゃ」
ミザリーが拳を作り、もう片方の手を添えると、ポキポキと指を鳴らしながら獰猛に笑った。その姿に、サラはため息交じりに注意する。
「もう、アッくんを助けるのが目的なのよ。それまでは慎重にね」
「分かってるにゃ。だけど、助けた後は、もう二度と手を出さないように徹底的に潰すにゃ。それはサラも同じにゃ」
その言葉にサラは目を丸くするが、すぐに意味深に微笑み、小さく頷いた。たしかに、平穏に過ごすためには必要なことだと思う。
だが、まずはやはりアークの救出が最優先だ。そのためにも、パンデモニウムの最上階にあるテラスに向かう必要がある。
そこはアークや私、ベルゼガ――七大悪魔が魔界を統治するため、日夜話し合った七罪の天壇。あそこなら、やつがいなくても他の悪魔がいるかもしれない。
彼らもかつて神界から堕天した同胞であり、魔界を支配する上位の悪魔だ。何か知っている可能性が高い。
ベルゼガとはいえ、魔界をすべて掌握しているわけではない。他の悪魔なら私たちに協力してくれるかもしれない。
広間の奥にそびえ立つ漆黒の扉を見つめる。
あれは七大悪魔しか通さないゲート。その先には七罪の天壇がある。魔王サタンだった私を迎え入れてくれるかは分からない。
だが、これが一番安全で早く辿り着く方法だ。私はわずかに不安を覚えつつ、静かに歩き出した。
そのとき、リリスが飛び去った大窓から白銀の羽が一枚舞い込んできた。
暑い中、読んでくださり感謝です(//Д//)
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