362 魔神気の果実
まだまだ暑さが続きます。皆さん、健康には気をつけてください。
私たちはワンストの村に向かう途中、不思議な場所を見つけた。そこは荒廃した魔界にできたオアシスのようだった。
木々の幹は太く、枝は力強く伸び、深緑の葉が隙間なく生い茂っていた。足元に生えた草もぴんと伸び、確かな生命力を感じさせる。
そして、その周りには様々な動物や魔物が集まっていた。
「……まさか、これはアークの魔神気!」
その地に立ち、息を呑んだ。周囲に漂う優しく温かい、わずかな粒子。間違いなく彼の魔神気だった。私とルキフェルで、魔界を救うために考えて生み出した力だ。
だが、まだ完成にはほど遠かったはずだ。一時的に魔力を介して神気を渡すことはできる。だが、それが定着することはなかった。
時間が経過するにつれ、力は失われていった。しかし、この場所の植物たちは、この過酷な環境の中でも力強く生きている。
思わず近くにアークがいないか探すが、気配はなかった。私が足元に視線を落とすと、サラの声が聞こえた。
「理由は分からないけど、いつの間にかアッくんは、魔神気を完成させていたようね」
サラはひと際大きな木に手を触れると、神気を送り込んだ。その途端、その木はさらに成長し、無数の果実を実らせた。
私は言葉を失う。彼女の聖なる神気は、魔界の植物にとって毒でしかないはずだ。それが力となり、成長を促して命を育んだ。
ぽとりと落ちた赤い果実を拾う。その肌は艶やかで、甘い香りが漂っている。一口かじり、確信した。これは魔界の植物で間違いない。
けれど、その果肉は魔力を帯び、わずかにサラの神気も含まれていた。しかも、魔力が神気を包み込み、自然と体内に吸収されていく。
まさしく、私とアークが求めた力だった。嬉しいはずなのに、胸が苦しくなった。これほどの力を完成させた彼が、今はベルゼガの手の中にいる。
「う~ん、たしかにアーたんの魔神気だけど、ここにはいないにゃ。匂いがしにゃいにゃ」
顔を上げると、ミザリーが果実を食べながら呟いていた。そして木に登り、果実をいくつか取って下りてくる。
「ワンストに寄るなら、エジェイルたちへのお土産にゃ」
相変わらずなミザリーに、口角が上がる。この明るさが、苦しかった心を少しずつ解きほぐしていく。私は膝をつき、草に手を触れた。
一瞬で草は伸び、蛇のように意志を持つと、空中で互いに身体を交差させていく。一瞬で編み上がった籠を手に取り、私はミザリーの前に差し出した。
彼女は目を見開いたが、すぐに笑顔に戻り、赤い果実を入れた。そして私から籠を奪い取ると、ワンストの村に向かって駆け出した。
――――――――――――
小さくなっていくミザリーの背中を見て、私たちも彼女の後を追った。やがて、ワンストの村が、はっきりと見えてくる。
彼女はすでに門の前に立ち、私たちを出迎えてくれた。
「遅かったにゃ、二人とも」
「もう、先に行かないの。罠があるかもしれないでしょ!」
サラが肩で息をしながら文句を言うが、ミザリーは気にした様子はなかった。彼女は私たちに親指を立てて言い放つ。
「大丈夫にゃ、罠があったら殴るにゃ」
その言葉にサラはため息をつき、私は困ったように笑った。そのとき、門の扉が開き、青い翼を持つハーピーが現れた。
「もしかして、ミザリー様ですか!?」
彼女は目を見開き、私たちのもとに駆け寄ってきた。ミザリーは笑顔を浮かべ、籠を差し出す。
「久しぶりにゃ、フルヴェル。といっても二か月ぶりかにゃ? まぁ、いいにゃ。これはお土産にゃ。アーたんお手製の果実にゃ!」
フルヴェルは眉を曇らせながらも、それを受け取った。彼女の顔を見て、私は肩をすくめる。さすがに説明が足りなすぎる。私はそっと近づき、声をかけた。
「フルヴェル、初めまして。私はフォルテです。その果実はさきほど、アーク――ルチーフェが作ったオアシスから取ってきたものです」
その言葉に、彼女はますます困惑する。たしかに言葉にしてみると難しい。魔神気も知らず、オアシスと言われても、どこを指すのか分からない。混乱するのも当然だ。
私は短く息を吐き出し、彼女をじっと見つめる。そして、背中に漆黒の十二翼を広げた。
「私は、かつての魔王――サタン。今はフォルテと名乗っています。この果実はルチーフェが作ったもので間違いありません。あと、今後は彼のことをアークと呼んでください」
その瞬間、フルヴェルは地面に膝をつき、臣下の礼をとった。色々と説明したかったが、時間がない。
かつての地位を示し、少し強引にでも話を進めたかった。私は首を垂れる彼女に、静かに告げる。
「すみませんが、村長のエジェイルに会わせてください」
フルヴェルははっと顔を上げ、こちらを見つめる。私は頷き、彼女を立たせると、村へ案内するよう促した。
暑い中、読んでくださり感謝です(//Д//)
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