361 帰る場所を託して
まだまだ暑いですね。体調にお気をつけてください<(_ _)>
私たちは生徒会室で打ち合わせを終えると、校庭へ向かおうとした。だが、玄関の扉や窓の前には机や椅子などが積まれ、バリケードが出来上がっていた。
「これじゃ、外には出られませんね」
眉を下げて振り向くと、ミザリーが床に手を当てていた。
「よく考えたら、わざわざ外に出る必要はないにゃ。ここから向かえばいいにゃ」
その言葉に苦笑いを浮かべる。たしかにその通りだ。空間を捲り、魔界に繋げればいいだけだった。
以前なら無理だったが、サタナルと完全にひとつとなった今では、魔界の各所に刻まれた座標が、私の記憶として残っている。
しかし、私が万物変化魔法で魔界へのゲートを開こうとする前に、ミザリーは魔法陣の構築を終えていた。
「フォルテの魔法でもいいけど、ゲートは向こうからも来られるにゃ。こっちの方が安全にゃ」
その言葉に頷き、スカイたちに視線を向ける。皆が心配そうに見つめる中、サラがジークに声をかけた。
「ジーク、分かっていると思うけど、あなたは生徒や来賓の人たちを教師の方々と一緒にまとめるのよ。間違っても、戦っては駄目よ。正直、人間のあなたには辛い役目だけど、スカイやガリュウを上手に使ってあげて」
「はい、分かりました。ヘスティア先生もいますし、僕は指示に徹します」
ジークは頷き、ヘスティアに視線を向ける。彼女は真剣な表情で彼を見つめ、小さく首を縦に振った。
ヘスティアを信じていないわけではないが、彼女は不安要素でもある。しかし、ここで口にするのは野暮というものだ。
それに万が一に備え、スカイを残したのだ。私が彼に声をかけようとしたとき、ミザリーの声が耳に届いた。
「兄上も頑張るにゃ。この機会にさっさと本当の力を目覚めさせるにゃ。兄上の中にいるバロンとランダが可哀そうにゃ」
魔法陣を安定させたミザリーは、私たちのもとに戻ると、ガリュウに拳を突き出した。
「抜かせ、ミザリー。頑張るのはお前たちも一緒だろ。それに本当の力って言われても分からん。俺は全力で戦うだけだ」
そう言いながら、ガリュウは拳を伸ばし、彼女の拳をこつんと叩いた。ケビエルと『真の一体化』を果たしても、ミザリーは変わらない。
笑みを零すと、タルロスとアドニスが駆け寄ってきた。
「本当にお気をつけて、フォルテ様」
「アークのことは頼んだよ、フォルテ様」
心配そうにこちらを見つめるタルロスと、笑顔を浮かべるアドニス。対照的な二人の頭に、そっと手を置く。
「二人には、ここのすべてを守ってほしいの。アドニスは治癒と運命を変える力で。タルロスは破壊と魔剣ティルフィングを使って」
私はあえてすべてを伝えず、その真意を伏せた。だけど、二人は黙って頷いてくれた。そんな彼女たちを見つめ、そっと頭の後ろに手を伸ばす。
綺麗にまとめていた髪がはらりと崩れ、腰まで垂れた。そして、手に持つ金と白金の簪を、タルロスに差し出す。
「これはあなたが持っていて。アークから貰った、私にとって一番大事な物よ」
彼女は目を見開き、ぎゅっと手を握り締めたまま、受け取ろうとしない。私は小さく首を横に振ると、優しく彼女の指を解き、簪を握らせた。
タルロスは目に涙を浮かべた。これが今生の別れというわけではない。それでも不安は募る。その気持ちが分かり、途方に暮れていると、スカイが静かに歩み寄る。
「安心しろ。何があろうと、俺が必ず守り抜く。たとえ、ベルゼガ本人が襲ってきてもな。だから、お前たちも絶対にアークを連れて帰れ」
スカイは神槍バハムートを肩に担ぐと、私、サラ、ミザリーと順に視線を走らせ、力強く告げた。私たちはスカイに向かって頷く。それから仲間たち一人ひとりの顔を見渡す。
「じゃあ、行ってくるわね。ジーク。ヘスティア先生、彼をお願いね」
「兄上、死ぬにゃよ。それと真の力も目覚めさせるにゃ!」
「では、皆さん、行ってきます。帰ってくるときは、必ず四人で」
サラはジークとヘスティアへ、ミザリーはガリュウへと言葉をかけ、それぞれの視線を繋ぐ。そして私は、必ずアークを連れて帰ると全員に力強く宣言した。
私たち三人は魔法陣へと向かう。もう振り返ることはない。帰るべき場所は、彼らがきっと守ってくれる。憂いはなかった。
魔法陣を囲むように立った私たちは頷き合う。そして一斉に足を踏み出し、つま先が魔法陣に触れた途端、景色が一変した。
乾いた風が頬を撫で、埃っぽい枯草の匂いが鼻腔をくすぐる。私は目の前に広がる光景に、そっと目を細めた。
久しぶりの魔界。ルキフェルと過ごした時間は短かった。けれど、彼から託され、ずっと守ってきた世界だ。
つい郷愁にふけってしまう。
「おお、久しぶりでもないが、懐かしいにゃ。ここでアーたんとキスしたにゃ」
ミザリーが、目の前に屹立する魔界の門を見上げながら呟く。彼女はここでリヴィアエルから命を懸けてアークを守り、堕天しかけた彼を救ってくれた。
「もう、ミザリー。もっと魔界の奥に転移できなかったの? ここからじゃ遠いわ」
サラが腰に手を当て、頬を膨らませる。
「そうは言われても、私の記憶には魔界の座標なんて、ここしかないにゃ」
私は眉を下げる。ケビエルも魔界への遠征に参加したのは数えるほどだ。彼女が魔界の門近くの場所しか知らなくても仕方がない。
だが、私にとっては都合がよかった。アークを助け出すためには、ワンストに住む彼女の協力が必要になるかもしれない。
私は魔界の門に背を向け、遥か先にある小さな村をじっと見つめた。
暑い中、読んでくださり感謝です(//Д//)
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