359 魂の残滓と、救われた姉
連日投稿も明日が最後です。本当に読んでいただき感謝です<(_ _)>
私は壇上から下り、横たわるアークのコピーを見つめる。二つの深淵が、こちらを覗いているように感じた。
そのようなことはないと分かっていても、指先は冷たくなる。短く息を吐き、震える足を強引に前へ出して、サラの隣に並ぶ。
「魔力も神気も感じないわ。それに骨や臓器もない。コピーというには、お粗末な代物よ。だけど――」
「ああ、たしかにあの瞬間、アーたんの気配を感じたにゃ」
ふと視線を上げると、私たちの向かいに立つミザリーが、アークのコピーを覗き込んでいた。やはり彼女たちも、彼の存在を捉えていた。
「このコピーを操ることは簡単です。ですが、アークの気配……いいえ、魂の残滓を纏わせることは容易ではないはずです」
私が言葉を引き継ぎ、三人でアークのコピーを見つめる。今はもう彼を感じることはなく、ただの物体にしか見えない。恐怖が薄まっていく。
サラに視線を向けると、彼女は小さく首を横に振った。
もうこれを調べても何も得られないと察する。私は神銃アクケルテを向け、そっと引き金を引いた。
一瞬でそれは粒子へと変わり、霧散して消える。私は周囲を見渡し、大講堂に私たちしかいないことを確認した。
「これからについて、話し合いたいと思います。申し訳ありませんが、付いてきてください」
その言葉に全員が頷く。獣王の試練に挑んだころを思い出した。あのときは、アークとライデンさんもいたが、今は二人はいない。
だが、代わりにミザリーがいるし、ジークもいる。少しだけ希望が湧いてくる。
そっとアークの万年筆を仕舞った胸元に手を当てる。サラは簪に指を這わせ、ミザリーは獣耳を動かし、子猫の形をしたカーネリアンを揺らした。
私たちは頷き合うと、大講堂を出て、生徒会室を目指した。
――――――――――――
生徒会室の扉を開けると、ジークの姿が目に入った。ミザリーの話では、彼は生徒と来賓が避難する教室の割り振りをしていたはずだ。
もう少し時間がかかると思っていたが、やはりジークは優秀だ。中に入ると、その傍らにひとりの女性が俯いて立っていた。
――ヘスティアだ。
咄嗟にアクケルテを抜き、銃口を向けると、ジークが私とヘスティアの間に滑り込んで、両手を広げた。
「フォルテさん。ちょっと待ってほしい! 正直、僕には今の状況は分からない。だけど、先生を傷つけることは許さない」
たしかに彼には、私たちのことを詳しく教えていない。以前、天使化した姿を見せたことはあるが、それだけだ。詳しく話をしたいが、時間が惜しい。
私は魔法を展開してジークの背後の空間を穿つと、天井にアクケルテを向け、引き金を引いた。
銃口から火花が迸り、天井に浮かぶ空間の裂け目に吸い込まれる銃弾。それはジークの背中に現れ、寸分の狂いもなくヘスティアの眉間へと迫る。
とりあえず、邪魔者は排除した。そう思ったとき、彼女の目の前に小さな亜空間が現れ、銃弾を飲み込んだ。
「フォルテさん、さっきも言ったはずだ。先生を傷つけることは許さない」
その瞬間、私は悟った。ジークの収納魔法だ。
目を見開き、呆然とする私に、ジークが冷たく告げた。どうして、そこまでヘスティアを庇うのか理解できない。
「フォルテ、ここはジークを信じよう。あいつは人間だが、馬鹿じゃない。むしろ俺たちよりも頭は切れる。何か考えがあるんだろう」
「そうね、私もスカイとジークの意見に賛成よ」
私はスカイとサラを睨む。ベルゼガの宿主であるヘスティアを、このまま放置していいわけがない――。そこではっと顔を上げ、彼女に視線を向ける。
「ち、ちょっと待ってください! ベルゼガはさきほど魔界に還りました。なら、ここにいる貴女は何者ですか!?」
そこでようやく気づく。ヘスティアは父親の悪魔召喚で死にかけ、ベルゼガとヘルネストの肉体の中で、その魂を繋ぎ止められていた存在だ。
ベルゼガが魔界にいる以上、ここにいることはできない。私がじっとヘスティアを見つめると、彼女は静かに口を開いた。
「私はベルゼガと弟から切り離されたの。『真の一体化』をするには、邪魔だからと言われて」
その言葉に息を呑む。まさかベルゼガも『真の一体化』をしていたとは、気づかなかった。
二つの魂と肉体の融合も困難なのに、三つの魂なら不可能に近い。ベルゼガがヘスティアを切り離した理由も分かる。
だが、それなら彼女の魂を消滅させるなり、切り捨てればいいだけだ。わざわざ肉体を準備し、学園に残す意味が分からない。
「弟がベルゼガにお願いしたの。すべての主導権を譲る代わりに、私を救ってほしいって」
語り終えたヘスティアの目から涙が溢れて頬を伝う。彼女は感情を抑えきれず、その場に崩れ落ちた。
その姿を見て、ふと思い出した。『真の一体化』を口にしたときの、ベルゼガの寂しそうな横顔を。
あの一瞬だけ、ベルゼガではなく、ヘルネストに入れ替わっていた。もしくは、彼の感情が溢れ出たのかもしれない。
私は床に手をつき、嗚咽を上げるヘスティアに頭を下げる。すべてを許したわけじゃないし、油断するわけにはいかない。
相手はベルゼガだ。彼女の意志とは関係なく、何か身体に罠が施されているかもしれない。やつが素直にヘルネストの願いを叶えるとは思えない。
それでも彼女の言葉に、嘘はないと思った。私はアクケルテをホルスターに戻すと、全員を見渡し、席に着くよう目配せをした。
次の瞬間、扉が勢いよく開き、二つの人影が飛び込んできた。
暑い中、読んでくださり感謝です(//Д//)
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