357 拍手の裏で揺れる耳
しばらく、フォルテ視点です<(_ _)>
ヘスティアが行方不明――ジークが告げた言葉に眩暈を覚え、私は机に手をついた。
「大丈夫かい、フォルテさん」
心配そうにこちらを見るジークに、私はすぐに答えることができなかった。ゆっくりと呼吸を繰り返す。次第に気持ちは落ち着き、思考もはっきりとしていく。
「ええ、心配をかけました。申し訳ないのですが、私は――」
そのとき、学校のチャイムが鳴った。入学式が始まる三十分前だ。ジークを見ると、彼は首を横に振った。
「悪いけど、確認は後だね。それに研究室は、すでに昨日、先生たちが見に行ったと聞いているよ」
彼はそれだけ言って、足早に部屋を出ていった。生徒会長として、式の最終確認をしなければならない。私は引き留めようとした手を戻し、視線を落とした。
「フォルテ。気持ちは分かるが、お前も行け。新入生代表だ。他の生徒たちに迷惑がかかる」
スカイが静かに告げる。正直、入学式なんてアークに比べれば、どうでもよかった。だが、ヘスティアの研究室に行っても、何も見つからないかもしれない。
まずはサラとミザリーに、このことを共有するほうが先だ。私はアークの万年筆をしまった胸元に手を当てた。
そして、顔を上げて短く息を吸い込み、入学式が行われる大講堂へと歩き出した。
――――――――――――
私が大講堂に着くと、すでに新入生は綺麗に整列していた。先頭には引率役のミザリーが立っている。
「遅いにゃ、フォルテ。すぐに並ぶにゃ」
腰に手を当て、ふんと鼻を鳴らす彼女に頭を下げ、新入生代表として列の先頭に並ぶ。
教師らしいところを見せようと張り切っているミザリーの袖を軽く引っ張り、小声で伝える。
「……もし聞こえているなら、獣耳のほうを動かして」
大講堂の向こうから溢れる人の気配に、私の声は掻き消される。彼女に届かなかったのかと唇を噛みしめる。だが、ミザリーは獣耳をぴくぴくと二回動かした。
さすが獣人だ。その中でも高い身体能力を持つ獅子族。聴力もずば抜けていた。私は安堵し、言葉を続ける。
「ヘスティアも行方不明らしいです。昨日の始業式で、教師の間に何か話はありませんでしたか。何かあったなら、今度は三回動かしてください。なければ二回で」
じっと彼女の頭を見つめる。ぴんと立った耳は二回揺れて止まった。分かっていたが、ため息が漏れる。もしミザリーが知っていたなら、すでに私たちに言っているはずだ。
だが、これで彼女とは情報が共有できた。あとはサラに伝えるだけだが、彼女は学生として大講堂で席についている。
どうしようか考えていると、聞き覚えのある声が耳に届く。
「おぉ、なかなか様になっているな、ミザリー。それにフォルテの学生服姿も初めて見た。これだけでも、今日は来た甲斐があったな」
振り向き、目を見開く。そこには正装をしたガリュウが立っていた。彼は笑顔で手を振り、近づいてくる。
「なんで、ガリュウ兄上がここにいるにゃ。ベストレア獣王国の代表として、来賓席にいなくていいのかにゃ?」
「まあ、まだ少し時間があるからな。それに獣王の試練では世話になった仲間と、大事な妹に直接挨拶がしたくて、抜けてきた」
ガリュウらしい理由に笑みが零れる。だが、もしかしたらサラに伝えてもらえるかもしれない。
そう思い、私が口を開きかけたとき、ミザリーが胸元からメモ帳を取り出し、胸ポケットに差したペンを抜いて、素早く走らせる。
「兄上、ならサラとスカイにも挨拶をするといいにゃ。まだ式も始まっていないから、大丈夫にゃ。ついでにこれをサラに渡してほしいにゃ」
彼女はメモを綺麗に畳み、ガリュウに差し出した。彼は首を傾げながらも受け取って頷いた。
「アーたんなら、今日は休みにゃ。獣王の試練やら、私たちのデートやらで疲れたみたいにゃ。兄上のことは、ちゃんと家に帰ったら伝えておくにゃ」
早口で告げられ、ガリュウは目を丸くする。だが、すぐに苦笑いを浮かべ、メモをポケットにしまうと、この場を後にした。
その背中を見つめながら、ミザリーがぽつりと呟く。
「これでサラに情報は共有できたにゃ」
その言葉に頷き、口を閉じる。しばらくすると、大講堂から盛大な拍手が聞こえ、目の前の扉が一気に開かれた。
私たちは扉を抜けて会場に入る。多くの拍手を浴びながら進んでいくと、上級生が座る席へと差しかかった。
右には三年生が並び、左には二年生が座っている。彼らからも祝福の拍手を受けて歩いていく。そのとき、サラと視線が重なった。
彼女は小さく頷き、ちらりとメモを見せた。私は目配せだけをして視線を前に向ける。そこには、大きく耳を揺らすミザリーの姿があった。
晴れやかな拍手の中を進んでいく。だが、私たち三人だけが見えない闇の気配を感じ取っていた。
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