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転生忍者は忍べない ~今度はひっそりと生きたのですが、王女や聖女が許してくれません~  作者: 黒鍵


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356 主なき部屋、戻らぬ影(フォルテ視点)

ここからしばらくは、フォルテ視点となります<(_ _)>

 始業式当日。学園に向かうサラとミザリーを見送り、私はアークの部屋へ向かった。一縷の望みを込めて、扉を叩く。


 だが返事はなく、しんとした静寂だけが落ちる。私はそっと扉を開け、中へと入った。主のいない部屋は、窓のカーテンが閉じられ、冷たい空気が漂っていた。


 机に近づき、その上に転がる万年筆を見つめる。彼が愛用しているものだ。その万年筆を手に取り、両手で握り締める。


 ほんの少しだけ、アークを感じることができた。けれど、それは不安と寂しさを膨らませるだけだった。目を閉じ、胸元に万年筆を押し当てる。


「……フォルテ様。あ、あの、明日は入学式です。制服の準備や、代表生として挨拶の確認をしなくては――」


 目を開き、振り向く。扉の前には、心配そうにこちらを見つめるタルロスがいた。私は優しく微笑み、頷く。


「そうですね。明日は私の晴れの舞台です。きっと、それまでにはアークも帰ってくるでしょう。ミザリーは残念ですね。せっかく新任教師の代表になったのに、アークに花束をもらえなくて」


 私が努めて明るく告げると、彼女は安堵の息を吐き、笑顔で頷いた。


 両手に握り締めた万年筆を見つめる。返すのは、彼が戻ってきたときでいい。そう心の中で言い訳をして、私は胸元にしまった。



――――――――――――



 翌朝、私たちは三人一緒に学園へと向かった。馬車に揺られながら、学園都市の街並みを見つめる。いつもアークは嬉しそうに、この風景を眺めていた。


「もう、アッくんたら、どこにいるのかしら。せっかく昨日は、プレゼントしてくれた簪を付けて、三年生代表として挨拶したのに」


 サラはわざとらしく頬を膨らませる。その青い髪に、ルビーが施された簪が輝いていた。


「本当にゃ。私が新任教師代表として、学生に向かってビシッと決めたのに、いないなんて許せないにゃ。帰ってきたら、放課後は個人授業にゃ」


 腕を組み、何度も頷くミザリー。獣耳に付けた金色の耳飾りが煌めき、その下で子猫の形をしたカーネリアンが揺れていた。


 二人は明るく会話を交わすが、その表情はどこか浮かない。そんな二人に苦笑いを浮かべ、外へと視線を戻すと、ガラスに映る私を見つめる。


 寂しげに揺れる瞳。視界の端がきらりと光る。綺麗に後ろでまとめられた黒髪に挿さった金と白金(プラチナ)の簪に、私はそっと指を這わせた。


 窓から差し込む春の陽光を感じながら三人で会話をしていると、馬車が大きく揺れた。どうやら学園に着いたようだ。やがて、静かに扉が開いた。


「おはよう。フォルテさん、サラ先輩、ミザリー先生」


 笑顔で出迎えてくれたのは、ジークだった。生徒会長の彼は、昨日の始業式に続き、入学式でも準備に追われていたはずだ。


 わざわざ出迎えてくれたことは嬉しいが、申し訳なくも思う。眉を下げる私に、彼は小さく首を横に振った。


「気にしないで。新入生代表をお願いしたんだ。出迎えるのは当然だよ。それに――アークはまだ帰っていないの?」


 今度はジークが眉を下げた。彼もアークがいないことを心配してくれている。頭脳明晰で優秀なジークだが、いつもアークが、それとなく支えていた。


 アークは決算書作りで苦労する会計に算盤の使い方を教えたり、運動場の使用時間で揉めている部活の仲裁をしたり――隠れて彼の仕事を手伝っていた。


 もちろん、ジークはそのことを把握していたが、直接礼を言うことはなかった。アークがそれを望んでいないことを知っていたからだ。


 私たちの間に沈黙が落ちる。そのとき、ミザリーの声が届いた。


「フォルテ、いつまでもそこにいたら、馬車から下りられないにゃ」


 咄嗟に振り返る。彼女は腰に手を当て、笑顔で告げた。私とジークは困ったように笑みを浮かべ、横へ避ける。すると、彼女は元気よく馬車から飛び降りた。


「ジーク。アーたんは必ず帰ってくる。お前は生徒会長として、しっかり学園と生徒をまとめるにゃ。いつまでもアーたんに頼っては駄目にゃ」

「そうよ、ジーク。あなたならできると思って、会長の座を譲ったんだから」


 二人に告げられ、彼は申し訳なさそうに頭を掻いた。ミザリーたちは、アークが不在だからこそ、自分たちがしっかりしなければならないと伝えたのだ。


 私とジークは頷き、入学式の打ち合わせをするため、校舎へと歩き出した。



――――――――――――



 私が生徒会室でジークと式の流れを確認していると、扉が叩かれた。入場にはまだ時間がある。ジークは首を傾げ、入室を許可した。


「おはよう。フォルテ、ジーク。打ち合わせの邪魔をして悪い。その顔じゃ、まだアークは帰ってきていないのか」


 部屋の中に入るなり、スカイは挨拶もそこそこに私たちの顔を見た。そして、返事を待たずに答えを察したのか、苦々しく眉を曇らせた。


「えぇ、まだ帰ってきていません。どこに行ったのかも告げずに出かけたので、正直困っています」

「言うほどの用事じゃないと思ったんだろ。もしくは、フォルテたちに知らせたくなかったのか――」


 私とスカイが顎に手を当て、考え込んでいると、ジークが思いつめたような顔で告げる。


「一昨日、アークと会ったことは伝えたんだけど、あのとき、彼は研究棟のほうへ向かっていたんだ」


 ジークは顔を上げ、目を細めた。視線の先には廊下があった。それは教師たちに用意された研究棟へと、真っ直ぐ伸びている。


 春休みの宿題で何か聞きに来たのだろうと、そのときは彼も気にしなかったらしい。だが、昨日の始業式に続き、今日も欠席する教師がいることに気づき、少し不安を覚えたと伝えた。


 とくりと胸が跳ねた。やがて鼓動は早くなり、背中に冷たい汗が伝う。私はジークに、その教師が誰なのか尋ねる。


「実は、ヘスティア先生も行方不明なんだ……」


 その瞬間、私の頭の中に最悪の盟友の名――ベルゼガが浮かび、どうしようもない不安が視界を塗りつぶした。

暑い中、読んでくださり感謝です(//Д//)

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― 新着の感想 ―
 フォルテさん視点ーーさすがです╰(*´︶`*)╯♡  鏡に映ったフォルテさんの容姿の描写、そのアイデアがとても参考になりました。  ジーク君やスカイ君の登場もホッとします。  最後にジークくんが…
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