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転生忍者は忍べない ~今度はひっそりと生きたのですが、王女や聖女が許してくれません~  作者: 黒鍵


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355 空席の円卓、忍び寄る毒

お盆休みなので、5日間ほど毎日投稿したいと思います<(_ _)>

 魔界の最奥にそびえ立つ漆黒の巨塔――パンデモニウム。門の前には、巨大な三つ首の魔犬が鎮座していた。


 俺たちを見ると唸り声を上げて威嚇するが、ベルゼガがそっと手を伸ばすと、首を垂れた。彼はその額を優しく撫でる。


「ふふ、行こうか。中へ」


 目を細め、喉を鳴らす魔犬を一瞥し、ベルゼガはさらに腕を絡ませてきた。俺はそれを無視し、パンデモニウムを見上げる。


 魔界の門の近くに城ができるまで、俺が住んでいた場所だ。多少の懐かしさを覚え、思わず息を吐く。


「懐かしいかい。君がいた部屋はそのままにしてある。いつでも戻ってこれるようにね」


 ベルゼガは声を弾ませ、俺の肩に頭を預ける。俺はそっと彼の頭を持ち上げ、首を横に振った。


「もう、ここに俺の居場所はない。安らかな暮らしを求めた悪魔たちは、ワンストや近くの村に連れていった。ここに残るのは――」


 そこで口を閉じた。悪魔のすべてが平穏な生き方を望んでいるわけではない。己の欲望のためなら、他人の人生すら踏みつぶすような者もいる。


 だが、彼らを恨むことはできない。それは人間も同じだ。悪魔だからといって、一方的に敵意を向ける気にはなれなかった。


「何か考え事かい。でも、まずは昔の仲間との再会を済ませよう」


 妖艶な笑みを浮かべ、再びベルゼガは俺の肩に頭を預ける。俺はため息をつき、前を向くと、そのまま門をくぐった。


 無言で階段を上っていく。やがて最上階へと繋がるゲートに辿り着く。そこには巨大な蛇の刺青を体に刻んだ銀髪の女性が立っていた。


 リリスだとすぐに気づく。たしか彼女はサラと戦い、負けたはずだ。だが、メフィストもデミウルゴスも生きていた。彼女が生きていても、おかしくはない。


「ルーちゃん、お久しぶりね。フォルテちゃんはいないのね。寂しいわ」


 たしか彼女は、フォルテ――サタナルと親しかった。あのころはまだ、力を持たない悪魔だった。


 サラを追い込むほどの力を、彼女がどうやって手に入れたのかは気になる。だが、今は早くベルゼガとの約束を果たし、人界に戻りたかった。


「ああ、久しぶりだね。君にも色々と事情があるのだろう。昔の友のよしみだ。フォルテたちを襲った件は見逃すよ。でも、次は――」

「分かっているから、言わなくていいわ。ルーちゃん」


 彼女は肩をすくめて横にずれると、胸に手を当て、もう片方の手をゲートへ向けた。少し芝居がかった仕草だが、彼女らしいなと苦笑する。


 隣ではベルゼガが、わずかに頬を膨らませて睨んでいる。どんな表情を浮かべていいか分からず、眉を曇らせると、彼は俺の腕を引き、ゲートへ入った。


 視界が一気に開け、魔界が一望できるテラスに出た。巨大な円卓の周りには、七つの豪奢な椅子が並んでいる。


 俺はベルゼガの腕を解き、歩き出した。そして、部屋の一番奥にあるひと際豪奢な椅子へ腰を下ろす。


 別の席でもよかった。だが、すべての席に座るべき者が決まっていた。ベルゼガが後に続き、隣の席に座ると、頬に手を当てて吐息を漏らす。


「はぁ~、やっぱり君はその場所が一番似合っている。そう思うだろ、みんな?」


 ゆっくりと周囲を見渡す。だが、俺たち以外の席には誰も座っていない。俺は首を傾げ、ベルゼガを見つめる。初めてその瞳が悲しく揺れた。


「君とサタンが抜け、リヴィアエルも行方不明なんだ」


 その言葉に目を見開く。たしかリヴィアエルとは魔界の門で戦った。その後、誤解が解け、敵ではなくなった。ワンストの村を守っていると思っていたが――。


 彼のことも気になるが、残りの仲間はどうして不在なのだろうか。一緒に魔界へ堕ちた天使たちの顔を思い出す。


 智天使のバール、ムバエル、アーガル。彼らは俺と一緒に、悲しき悪魔たちを救うために堕天した。そして、魔界の統治に尽力し、凶悪な悪魔から弱き者たちを守ってもらっていた。


 今は悪魔公ベルフェ、マーモン、アデウスと名乗っているはずだ。誰もいない席をじっと見つめる。


「ベルフェ、マーモン、アデウスの三人も行方不明なんだ。リヴィアエルと違って、一切の消息が分からないんだ……」


 悲痛な表情を浮かべるベルゼガ。こんな顔は見たことがなかった。魔界でいったい何が起きているのか、一気に不安が膨らむ。


 急いでエジェイルたちがいるワンストへ戻り、無事を確認しないといけない。それにリヴィアエルのことも気になる。俺たちと別れたあと、彼はどこへ向かったのだろうか。


 様々なことを告げられ、思考がまとまらない。できれば、フォルテやサラ、ミリーと相談がしたい。


 俺が万物変化魔法で空間を穿とうとしたとき、ベルゼガに腕を掴まれる。


「どこに行くんだ! 今、魔界の危機なんだ。君はここに残って、僕たちを導いてくれないのか!」


 鋭く睨まれ、言葉を失う。魔界を見捨てるつもりはない。だが、力を持たないエジェイルたちのほうが心配だ。それに、ここにいても俺にできることはない。


 魔王として生きる道は、俺には選べなかった。そっとベルゼガの手を握り、首を横に振った。


「それが答えなんだね。なら、仕方ないか。本当は使いたくなかったけど」


 ベルゼガの瞳から涙が零れた。その瞬間、胸が苦しくなる。思わず手で押さえると、鼓動が伝わる。それは乱れず、規則正しく刻んでいた。


(……なら、この苦しさはなんだ)


 苦悶の表情を浮かべ、顔を上げる。すると、ベルゼガの隣に山羊の頭蓋骨が浮かび、顎を不気味に揺らしていた。


「メ、フィ、スト……」


 そこで俺は力尽き、意識が途切れた。

暑い中、読んでくださり感謝です(//Д//)

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明日からは夜に投稿します。

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― 新着の感想 ―
 振り返りの堕天使たちーー悪魔公ベルフェ、マーモン、アデウスの名前に思わず、  エピソード85くらいからを読み返してしまいました。  メフィスト登場で一気に緊張感が増しました。  次話も楽しみにし…
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