表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生忍者は忍べない ~今度はひっそりと生きたのですが、王女や聖女が許してくれません~  作者: 黒鍵


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

356/357

349 気づかなくても、愛はそこに

酷暑日、本当にその通りだと思います。皆さんもお気をつけてください<(_ _)>

 私はアーたんから離れ、頬を伝う涙を拭うと、思い切り背を伸ばした。


「あー、これでやっとゆっくりできるにゃ。これからどうする、アーたん?」


 彼は優しく微笑み、静かに告げる。


「そうだね、落ち着ける場所で話がしたいね」


 その表情は穏やかで、どこか嬉しそうだった。いったい、カナリアとどんな話をしたのか気になる。


 二人きりで話がしたいと思った私は、彼の手を握って走り出した。


「いいところがあるにゃ。ついてくるにゃ!」


 少し驚くアーたんだったが、すぐに笑みを浮かべた。そして、私の手をしっかりと握り返した。



――――――――――――



 頬を撫でる春風が気持ちよかった。私たちは城の見張り台に昇り、その屋根の上に並んで座った。眼下にはワストの街並みが広がっている。


「なかなか、いい場所だね」

「うん、何かあったら、ここに来るにゃ」


 アーたんは目を細め、風を感じている。その横顔は眩しく、目を奪われる。じっと見つめていると、アーたんが懐から小さな木箱を取り出した。


「これを渡したかったんだ」


 彼はそっと蓋を開け、私に差し出した。そこには翼を象った金色の耳飾りが二つ並んでいた。


 その翼の根元にはマンダリンガーネットが施され、太陽の光を浴びて輝いている。


 そして、耳を挟む留め具の部分には色鮮やかな組み紐が垂れ、可愛らしい子猫の形をしたカーネリアンがぶら下がっていた。


「……きれい」


 その耳飾りは大きく、獣耳につけるものだと察する。目を輝かせてアーたんを見つめると、彼は耳飾りを持った手を伸ばし、私の耳につけてくれた。


 視界の端で揺れるオレンジ色の子猫。可愛らしい姿に笑みが零れる。アーたんは私をじっと見つめながら、口を開いた。


「この子猫は、本当はカナリアさんがミリーに用意したものだよ。東洋連合国の根付っていう装飾品なんだ。彼女は俺から渡してほしいって。そのほうが、ミリーは喜ぶからってね」


 思わず視界が揺れた。せっかく収まった涙が、また溢れそうになる。私は青空を見上げ、大きく息を吐き出した。


「ふぅ〜、さすがは私の母親(・・)にゃ。よく分かっているにゃ」


 笑顔で口に出す。やはり少し恥ずかしい。頬を染め、俯いてしまう。沈黙が満ち、小鳥のさえずりだけが耳に届く。私は我慢できなくなり、声を上げた。


「そ、そういえば、母とは何を話したにゃ?」


 アーたんはくすっと笑い、遠くに見える地平線を見つめながら、話し始めた。


「カナリアさんは虎族で、開国の祖――オウコの直系なんだ」


 私は目を見開き、呆然とする。ずっと母も獅子族だと思っていた。だが違った。しかも、王家の血を引いているのは母で、父は婿入りしていたとは――。


 そんな大事な話を、私ではなくアーたんに伝えるとは、本当に非常識な人だ。苦笑いを浮かべる私に、アーたんは言葉を続ける。


「その獣訛りも、気性が荒い虎族の古い習わしらしいよ。少しでもお淑やかになってほしいって願いを込めたものだって。――ただ、そのあと、笑いながら『私は絶対に喋らないけど』って言っていたけどね」


 彼は口元に手を当て、笑い出した。その姿に私は頬を膨らませ、けれどすぐに、一緒に笑い合った。


(……やはり、母にはかなわない)


 そう思い、私は心の中で苦笑いを浮かべた。



――――――――――――



 母の話を聞き終えた私は、ただ黙って街並みを眺めていた。言葉は交わさず、肩から伝わるアーたんの温もりを感じていた。


(ずっと母親に会えなかった寂しさを隠していたけど、母には分かっていたんだな。だから、最初にあんな乱暴な挨拶をしたのかも……)


 私も不器用だが、母も不器用だなと口元から笑みが零れる。


 ちらりと彼の横顔を見る。その漆黒の瞳が揺れていた。気のせいかもしれないが、私の知らない誰かの面影が見えた。


 その瞬間、胸が苦しくなり、口を開く。その眼差しは私ではない誰かを見ているようだった。だが、言葉が出てこない。きゅっと唇を結び、視線を落とす。


「家族っていいね。そばにいるだけで温かくなる」


 彼は静かに呟く。その視線は地平線の、その遥か先を向いているようだった。その目が少し悲しげに見えるのは、気のせいだろうか。


「……近くにいたのに、俺はその温かさも、優しさも気づかなかった――いや、気づけなかった」


 一瞬、彼の瞳が揺れた。後悔と謝罪。その二つが宿っていた。私はただ黙って彼の言葉を受け入れる。きっと彼も、許してほしいわけじゃないから。


 一筋の涙が彼の頬を伝う。とくりと鼓動が跳ねた。春風が吹き抜け、視界の端でオレンジ色の子猫が揺れている。


 私は耳飾りをそっと撫で、静かに口を開いた。


「……気づかなくてもいいと思う。きっと相手は、気づいてほしくてやっているんじゃないから」


 アーたんの横顔を見つめ、優しく微笑む。彼は目を見開き、こちらを向く。だが、すぐに彼の纏う空気が柔らかくなり、手が伸びて頬に触れる。


「きっとそうだね。ありがとう、ミリー。君が好きだ」


 彼は優しく私の頬を撫でると、自分の温もりを移すように、深く唇を重ねた。

読んでくださり感謝です(//Д//)

ブクマや★で応援いただけると励みになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
 カナリアさんの不器用さーー十分ミザリーさんが引き継いでいますね。  衝撃が二つーーカナリアさんが虎の一族でそれも開祖の家柄。         もう一つはアーク君が意外に三又かけているとこるです笑…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ