347 獅子が測る、夢への力
闘技場で重なり合うスカイとリリノイア姉上。そんな二人に、私はにやにやと笑いながら近づく。
スカイは背中しか見えないが、彼の肩越しに覗く姉上の顔は真っ赤だった。
「なかなか面白い見世物だったにゃ、スカイ。まずは合格にゃ。リリノイア姉上を相手に、これほどまでの実力を見せるとは、大したものにゃ」
私が胸の前で腕を組んで言い放つと、スカイは起き上がり、姉上に手を差し伸べた。
「悪かった、リリノイアさん。少し調子に乗り過ぎた。あんたの戦い方が俺に似ていたから、動きを合わせてみたくなった。技量を示すには一番かと思ってな」
その手をじっと見つめる姉上。まだ顔が熱いのか、耳まで真っ赤だ。しばらく二人だけにしておこうと、私は闘技場を下りて、アーたんのもとへ向かう。
しかし、すでにカナリアがアーたんと腕を組んで座っていた。そこで、己の迂闊さに気づく。試合どころではなかった。
もうスカイが強いことは分かった。それよりも、アーたんと二人で過ごすほうが大事なのでは――そう思いかけて、踏みとどまる。
まだ初日だ。今日を含めても、アーたんと二人きりで過ごせる時間は、あと四日もあるのだ。
さっさと試合を終わらせて、こんな不吉な場所から離れればいい。レーヨンの町に行ってもいいし、魔物群生地アクラドで冒険してもいい。
私は気持ちを切り替え、闘技場へ戻った。
次はガリュウ兄上との試合だ。「技」の次は当然、「力」だが、何をやらせようか悩む。普通に戦っても面白くない。かといって、いい方法が思いつかない。
腕を組んで悩んでいると、カナリアの声が届く。
「ミザリー。私、いいことを考えたわ」
間違いなく、よくないことだ。不吉な言葉に眉をひそめる。
「あのね、無手で打撃禁止で戦うの。面白そうじゃない?」
意味が分からない。突きも蹴りも使わず、どうやって戦えというのだ。私が肩をすくめて口を開こうとしたとき、アーたんが笑顔で頷く。
「なるほど、いいですね。投げや関節を極めるだけなら、離れて戦うことはできない。より密接した格闘になる。『力』を測るにはいいかも――」
「そ、そうだにゃ、私も同じことを思ってたにゃ!」
すぐに私は同意した。さすがはアーたんだ。カナリアの思いつきに、理路整然と理由を補足した。
母娘の縁を切ったとはいえ、やつは仮にも私の母だ。そんなカナリアにも気を回してくれた彼の優しさが、胸に沁みた。
「ならば、次の試合は武器と打撃は禁止だが、強化魔法は使ってもいいにゃ。そこの二人、いつまでいちゃいちゃしているにゃ! もう次の試合が始まるにゃ。姉上はさっさと闘技場から下りるにゃ!」
私は手を振り、しっしっとリリノイア姉上を追い払う。
真剣な試合の最中に、浮かれ過ぎだ。ため息をつく私を、彼女は半目で睨みながら離れていった。
「ガリュウ兄上も、ぼうっとしてないで。急いで上がるにゃ。私には時間がないにゃ!」
兄上は目を見開き、一拍の間のあと、苦笑して指先で頬を掻く。
「わかった、わかった。そう急かすな。本気の試合は、竜覇王虎武闘大会までお預けか。――だが、面白そうだ」
全身に闘気を纏い、ゆっくりと闘技場に上がる兄上。スカイは口角を上げ、握った拳をもう片方の手で覆うようにして指を鳴らした。
やがて二人は中央に立ち、睨み合う。
「二人とも、いい顔にゃ。もはや何も言う必要はないにゃ」
「なに、あの娘。すごく偉そうに。そう思わない、リリノイア?」
カナリアの戯言が聞こえたが、私は無視して闘技場を下りると、思い切り笛を鳴らした。
試合開始と同時に、スカイが動いた。腰を沈め、ガリュウ兄上の膝を狙う。
しかし、兄上は前へ倒れ込みながら両手を突き出し、スカイの背中をトンと叩くと、そのまま側転してひらりと床へ降り立つ。
地面を転がるスカイ。彼はそのまま距離を取り、起き上がると、腰を低くして両手を突き出して構えた。
今度は兄上が動いた。左右に大きくステップを踏みながら、規則正しい足音で近づく。スカイはそのリズムを見極めようと目を細める。
――だが、次の瞬間。
リズムよく迫っていた兄上の姿を、私の目は完全に見失った。
右へ切り替えると見せかけた兄上は、そこからさらに鋭く左へ踏み込み、残像だけを残してスカイの背後へ回り込んでいた。
スカイを目がけて手を伸ばす兄上。その姿に誰もが兄上の勝利を確信した――そのとき、スカイが腰を落とし、迫る腕を掴んだ。
そして、そのまま前方へ倒れ込み、腰を跳ね上げた。
鈍い音が中庭に響き渡る。見事な背負い投げだった。だが、兄上もさすがだ。痛みに顔を歪ませながらも、すぐに起き上がり、両手を突き出す。
二人はがっぷりと正面から手を四つに組み合う。
互いの腕は震え、血管が浮かび上がる。身体能力なら獣人である兄上が勝っている。だが、魔力が高いスカイは、強化魔法を駆使して互角以上の力を出していた。
一歩も引かない二人。一分にも満たない時間が、ひどく長く感じる。ふと視線を落とす。私はしっかりと手を握り締め、汗が滲んでいた。
興奮している自分に気づき、私は笑みを零し、首を振る。
これはスカイの力を測るための試合だ。少し名残惜しいが、私は試合終了の笛を吹いた。
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