346 頬に触れた、勝負の余熱
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窓から差し込む朝日を受け、私は目を細める。いつもより遅い起床。昨夜は、ささやかな晩餐会が開かれた。リリーナさんとの再会を祝うためのものだ。
珍しく酒に酔った父の姿を思い出し、笑みが零れる。よほど彼女が生き返ったことが嬉しかったのだろう。本当にガリュウ兄上はいいことをした。
そんな父の隣に座るカナリアの前には、無数の酒瓶が並んでいた。はじめは給仕も片づけていたようだが、あまりにも飲む速度が早く、途中で諦めていた。
本当にあの女は、女王としての自覚がない。アーたんと結婚した際には、反面教師として役立ってもらう。それくらいしか使い道がない。
私はベッドから出て、背筋を伸ばす。本当ならアーたんと同じ部屋がよかったが、父に必死で止められた。せめて結婚してからにしろ――と。
多くの国の代表がいる前で、盛大に婚約を発表し、同じ屋敷に住んでいるのだ。もはや結婚しているようなものだろう。しかも私は卒業していて、もう学生でもない。
順番なんて関係ないと思うが、目に涙を浮かべる父を見て、しぶしぶ頷いた――が、やはり我慢できなくなった私は、こっそりアーたんの部屋へ向かった。
途中でリリノイア姉上と会い、今日の試合について軽く話し合い、ようやく部屋に辿り着いた。
だが、入口には無数の兵たちが並び、その陣頭指揮をドラン兄上が執っていた。
腰には愛用のヌンチャクが差してあり、本気だと悟る。これほど父が私のことを信用していないとは思わず、口元からため息が漏れた。
明日は朝から試合だ。ここで無理をしたら、戦いに支障が出るかもしれない。そう自分に言い聞かせ、とぼとぼ部屋へ戻った。
窓辺に立ち、朝日を浴びながら昨夜のことを思い返していると、ドアを叩く音が聞こえる。私は入室を許可した。
「おはよう、ミザリー。今日はスカイ君と試合をするそうだけど、見学してもいい?」
振り返ると、微笑むリリーナさんと、邪悪に顔を歪めるカナリアが立っていた。
――――――――――――
朝食を終えた私たちは、中庭にある闘技場に集まった。
目の前には十メートル四方の重厚な石造りの台座が鎮座している。その上には、磨き上げられた石畳が規則正しく敷き詰められていた。
「それじゃ、試合を始めるにゃ。まずはリリノイア姉上と勝負するにゃ。ただし、武器も強化魔法も禁止にゃ」
私は闘技場に上がり、高らかに宣言した。だが、すぐに待ったがかかる。
「ちょっと、待つある。武器も魔法もダメなんて聞いてないある」
リリノイア姉上が闘技場に上がり、詰め寄ってきた。予想通りの展開に、私はにやりと笑う。
「何言ってるにゃ。これはただの試合じゃないにゃ。スカイの実力を知るためにゃ。なら、まずは技量を見たいにゃ。そのためには武器も魔法も不要にゃ!」
私は人差し指を突きつけ、言い放つ。
ちらりとスカイを見ると、彼はアーたんに木製の槍を手渡していた。その様子を姉上に見せつけ、私は三節棍を奪い、場外へ放り投げた。
呆気にとられる姉上を無視して、スカイに視線を流す。彼は両手を組み、背筋を伸ばし、ゆっくりと闘技場に上がってきた。
「それじゃ、始めるにゃ。ルールはさっき言ったとおりにゃ。これはあくまでスカイの実力を測るものにゃ。勝ち負けは関係ないにゃ。お互い、頑張るにゃ」
そう言葉を残し、闘技場から飛び下りると、試合開始の笛を吹いた。甲高い音が中庭に響き渡る。
最初に動いたのは、リリノイア姉上だった。一気に駆け出し、一瞬でスカイの懐に入る。彼女は肘を突き出し、みぞおちを狙った。
だが、スカイは片手で受け止め、拳を飛ばす。姉上は半身になってそれを躱し、裏拳を放った。
彼は後ろへ仰け反って回避するが、姉上は独楽のように回りながら、攻撃を繋げ始める。
裏拳から回し蹴り、横薙ぎの手刀に変則的な膝蹴り――流れるような攻撃に、スカイは防戦一方になる。
しかし、どの攻撃も紙一重で回避され、当たることはなかった。
その姿に口角が上がる。技量は申し分ないようだ。試合を止めようとしたとき、スカイが消えた。
次の瞬間、私は言葉を失った。
彼は姉上の攻撃を躱した直後、背後に回り込んでいた。そして、背中をぴったりとつけたまま、姉上の動きに合わせて回り始めた。
まるでダンスのように闘技場を回るスカイと姉上。ただ、見つめ合うことなく背中合わせだ。何の意味があるのか分からないが、想像を絶する技量だった。
スカイも獣王の試練を経て、実力が数段上がっていた。必死に振り解こうとする姉上に対し、笑みを浮かべる余裕すら見せるスカイ。
すでに勝負はついていた。再び試合を止めようとしたとき、リリノイア姉上が捨て身の攻撃に出た。
強引に体をねじり、スカイを掴んで倒れ込んだが、スカイは素早く体を入れ替え、リリノイア姉上に馬乗りになる。
だが、姉上はそこまで読んでいた。仰向けになりながらも、スカイが膝をついた瞬間、手で祓った。
踏ん張ることができず、スカイはぐらりと前方に倒れ込む。間一髪で両手をつき、転倒は免れるが、眼前に姉上の顔が迫る。
スカイは何とか顔を背けようとするが間に合わず、唇が姉上の頬に触れてしまう。その光景に、私はほくそ笑む。
リリノイア姉上は何が起きたのか分からず、指先で頬に触れ、顔を真っ赤にしていた。私は満足げに頷くと、試合終了の笛を吹いた。
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