345 獅子たちは、明日を待てない
忙しい中、読んでくれる方々に感謝です。
すいません、ふと思ってしまって……。
私は楽しそうに会話をするアーたんを、じっと見つめる。やはり、スカイと話しているときだけは、彼は本当に楽しそうだ。
少し嫉妬を覚えつつ、スカイを挟むように座るガリュウ兄上とリリノイア姉上へ視線を移す。
兄上は口元を綻ばせて会話に耳を傾け、姉上は頬を赤く染め、ちらちらとスカイを見ていた。
私はほくそ笑む。どうやら姉上が恋心を抱いているのは、アーたんではないらしい。ならば、姉妹の縁を切る必要もない。そのとき、視線が姉上と重なった。
「なに、にやにやしているあるか。気持ち悪いある」
あれほど耳障りだった東方訛りが、嘘のように可愛く聞こえる。
何が「ある」なのかと思わなくもないが、留学先の東洋連合国で出会った師匠の影響らしいので、仕方ない。
「何でも無いにゃ。それより、スカイはどうしてここに来たにゃ」
「ええ、ガリュウにお願いしたことがあって来たんです」
姉上の言葉を聞き流し、スカイに尋ねると、彼はガリュウ兄上に用があるらしい。アーたんがいるとは思っていなかったようだ。
彼も兄上の獣王の試練に力を貸した一人だ。ぜひとも私も手助けしたい。私が何を頼むつもりなのか尋ねようとしたとき、アーたんが声をかける。
「もう、そろそろ下りて、ミリー。少し足が痺れてきた」
顔を上げると、彼は眉を下げていた。たしかに、膝枕をしてもらってから、すでに二時間は過ぎていた。隣を見ると、サリアナはまだ涎を垂らして寝ている。
私は上半身を起こし、妹の頭を持ち上げると、雑にソファーへ置いた。ごろんと転がるが、サリアナが起きる気配はない。
「それで、スカイ。何を望む。俺にできることなら何でもするつもりだ」
ガリュウ兄上が、私と妹を見て苦笑いを浮かべながら、スカイに尋ねる。
「実は、竜覇王虎武闘大会を今年、開催してほしい。そして、できれば俺に本選への出場権をくれないか」
その言葉に全員が息を呑んだ。この大会は四年に一度行われる。去年開催され、そこでアーたんが優勝している。次は三年後だ。
ベストレア獣王国が主催している大会だから、不可能ではない。だが、あまりにも突然だ。準備期間を考えるとかなり厳しい。
ちらりと兄上に視線を向けると、目を閉じ、顎に手を当てて考え込んでいる。
ぎりぎり年内――冬なら開催できる。おそらく、その準備に必要な人員や費用を計算しているのだろう。
獣王の試練では、スカイがかなり活躍したと聞いている。前人未踏の十王すべての討伐。そのうち二体の魔物を仕留めたのは、彼だ。
彼は兄上の夢を叶え、王としての絶対的な権威を示す手助けをした。ならば兄上は、無茶をしてでもこの望みを叶えるはずだ。
私はじっと兄上を見つめる。隣に座るリリノイア姉上も、心配げに見ていた。そのとき、兄上がそっと目を開けた。その表情は決意に満ちている。
「わかった。開催を約束する。今年の夏に間に合わせてやる。それでいいな」
言葉を失う。姉上も目を見開き、呆然としている。私の計算でも、冬が最短での開催だ。それよりも半年も早いなんて、絶対に不可能だ。
「ちょっと待って、兄上。夏って――あと半年もないのよ。無理に決まっているわ!」
東方訛りも忘れるほど動揺したようだ。姉上は立ち上がり、ガリュウ兄上に詰め寄る。
「あと半年もある。不可能じゃないだろう。それに、この望みはスカイだけのものじゃない。アークからも頼まれたものだ」
姉上を手で制した兄上は、小さく首を横に振る。私は息を呑み、アーたんに視線を向ける。彼は苦笑いを浮かべ、頭を掻いていた。
「スカイ、君が竜覇王虎武闘大会に出場することが夢だと知っている。それに残された時間が少ないことも、ね。だから、ガリュウに試練を受ける前に伝えていたんだ」
スカイを見つめるアーたん。その瞳は悲しげに揺れていた。
(……残された時間。私の知らない秘密がある?)
私が目を細めて見つめると、アーたんがすっと拳を突き出した。スカイとガリュウは、その拳に自らの拳を合わせる。
「とはいえ、お前が本選に出場できるほどの腕か、見極める必要はある」
ガリュウ兄上は片目を閉じて告げる。その顔は、面白い悪戯を思いついた子供のようだ。私は肩をすくめ、言葉を引き継ぐ。
「そうだにゃ。今日はもう遅いし、明日、試合をするにゃ。まずはリリノイア姉上が相手して、ガリュウ兄上、そして最後に私にゃ!」
私が親指を立てて宣言すると、スカイは目を丸くし、アーたんはくすくすと笑い出した。
兄上は肩をすくめて首を横に振り、リリノイア姉上は耳まで真っ赤にしながら、何度も頷いた。
久しぶりに攻撃魔法を使わず、全力で体を動かせる。私は瞳孔を縦にきゅっと細めて拳を握り、指を鳴らす。
和やかな雰囲気が一瞬で、ぴんと張り詰めた。さっきまで顔を赤く染めていた姉上も、鉄扇を握り締め、不敵に笑っている。
やはり獅子の血が騒ぐらしい。明日の試合に胸が高鳴る。そのとき、ソファーで寝ていたサリアナが飛び起きた。
「賊でも侵入してきたんですにゃ!」
そう叫び、妹は周囲を見渡す。どうやら私たちの殺気に当てられたようだ。さすが、未熟とはいえ王家の血を引いている。
慌てふためくサリアナに、私たちが獰猛に笑いかけると、妹はごくりと喉を鳴らした。
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