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転生忍者は忍べない ~今度はひっそりと生きたのですが、王女や聖女が許してくれません~  作者: 黒鍵


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321 祈りの形をした檻(1)

 しんと静まりかえった講堂に、リュック教皇陛下が待っていた。その表情は悲しみに満ち、どこか救いを求めているかのように見えた。


「よく来てくれました、サラさん、アーク君。学園都市で会って以来だね。あのときから思っていた。いずれ君たちがヘレナ様を救いに来ると……」


 俺は息を呑み、ちらりとサラを見る。彼女は眉を上げ、小さく首を横に振り、何も知らせていないことを伝える。


「……どうして、俺たちがヘレナを救いに来たと思ったんですか?」


 そっと手を伸ばし、腰に差したナナシに指先をかける。鋭い視線を向けるが、リュック陛下は笑みを崩さなかった。


「そのロザリオです。それはヘレナ様の姉――エリザベート様のもの。それを持つ者こそ、彼女を救うことができる。そう伝えられてきました」


 陛下がサラの胸元で光るロザリオを指さす。確かにサラが普段、身に着けているものとは違う。


 だが、そう大きな違いはなく、一見しただけでは見分けにくい。そんな俺を見て、リュック陛下は悲しげに笑った。


「アーク君の言いたいことは分かります。ですが、私たち歴代の教皇は就任して最初に、そのロザリオを完璧に覚え、教団が犯した罪を自らの罪として背負い、彼女の苦しみを心に刻み込むのです」


 リュック陛下は語り終えると、背を向けて跪いた。そして、両手を組んでステンドグラスに照らされた神像に向かって懺悔する。


 その姿を見て、怒りが込み上げてくる。あの悪魔――メフィストはヘレナやエリザベートだけではなく、彼女たちを取り巻く人間にも呪いを施し、苦しめてきたのだ。


 喉が乾いた。奥歯を噛みしめ、俺は豪奢な講堂を見渡す。今は荘厳さよりも冷厳さを感じる。


 この大聖堂は教団の闇を覆う蓋ではなかった。悪魔に騙され、愛する聖女を救えなかった人々が、自らを罰し続けるための巨大な告解室だったのだ。


 俺はリュック陛下の隣に膝をつき、我が主に祈った。この数百年苦しみ続けた人々に救いを与えてくれることを。


 そして、誓った。多くの人々を長年苦しめ、今ものうのうと生き延びているメフィストに必ず報いを受けさせてやると。


 俺は目を開けて立ち上がる。リュック陛下はまだ祈りを捧げていた。俺はサラを見やり、これからどこに向かうべきか目で問いかける。


 そのとき、陛下の足元の石畳がかすかに震えた。床の継ぎ目がゆっくりと左右に分かれ、地下へと続く階段が姿を現した。


「この先にヘレナ様はおられます。そのロザリオがあれば、部屋の扉は開かれるでしょう。どうかヘレナ様――そして、我々教団をお救いください。ルキフェル様(・・・・・・)


 俺は目を見開き、リュック陛下に視線を向ける。だが、陛下は顔を上げることなく、祈りを続ける。


「私はここで貴方様方の無事を祈っております。どうかお気をつけて」


 気づくと背中に十二枚の銀翼が広がり、講堂に無数の羽が舞っていた。どうやら怒りで神気を解放していたようだ。


 まだまだ未熟だと、口元からため息が漏れる。俺はすぐに神気を収め、翼を消すと、地下へと続く階段へと歩き出した。


 隣にはサラの姿があった。彼女は胸元のロザリオを握り締め、地下へ続く階段――その先にいるヘレナへと視線を向けていた。





 指先から伝わるロザリオの冷たさも、地下から這い出す凍てつくような冷気も、ヘレナを救うという私の想いを冷やすことはできなかった。


 前を歩くアッくんに視線を向ける。その背中にはこの悲劇を生んだ悪魔への怒りが滲み出ていた。


 僅かな気持ちのずれを感じた。彼はヘレナよりもメフィストへの制裁を優先するかもしれない。思わず問いかけようとして、口を閉ざす。


 もう行き止まりだった。目の前に部屋が見える。その扉は、聖女が幽閉されているとは思えないほど、無機質で何の装飾もなかった。


 ただその中央に十字のくぼみがあるだけだ。


 私はロザリオを外し、そのくぼみへと押し当てる。すると、扉にいくつもの光の線が走り、カチリと音が鳴った。


 私たちは見つめ合い、頷く。アッくんがそっと手を当てると、扉は音もなく開き、肌を刺すような冷気が押し寄せてきた。


 咄嗟に口元を押さえ、眉を曇らせた。アッくんが腰に差したナナシに手をかけ、扉の向こうをじっと見つめる。


 やがて扉が完全に開き、言葉を失う。そこに広がっていたのは――さきほどの威圧感が嘘のように驚くほど澄み渡った静寂だった。


 数世紀もの間、腐敗も風化も拒絶し続けてきたかのような、凛とした潔白な空間。そこに横たわる小さな影。


 私が駆け寄ろうとしたとき、肩を掴まれる。私は振り返り、思わずアッくんに鋭い視線を向ける。


 彼は顔を歪ませ、小さく首を横に振った。意味が分からない。ただ、激しく鼓動が胸を叩く。一瞬目に映ったあれは何だったのか。


 思い出そうとするが、脳が拒絶する。私は恐る恐る振り返り、目の前の光景が目に飛び込んできた瞬間、すべての理性が吹き飛び、獣のような悲鳴を上げた。


 喉の奥が裂け、膝が崩れた――あれは、祈りの形をした(のろい)だった。

読んでくださり感謝です<(_ _)>

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― 新着の感想 ―
アーク君、サラさん、リュック教皇のーー それぞれの背負う感情や思惑の違いが明確にわかります。 リュック教皇の懺悔のシーンは、どこか裏がありそううな予感がしてなりません。 サラさんの絶叫がかなりの…
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