316 白虎と太陽の小手
私はアドニスと緑光の球体――ウラガーノドラゴンの魂を呼び、ひと言告げる。
「二人とも私に協力するにゃ。とくにウラガーノドラゴン、お前は私が勘違いした理由を作ったんだからな。断ることは許さん」
またも獣訛りを忘れて凄む私に、緑光の球体は頷くように何度も上下に動いた。
「それで何をすればいいの、ミザリー?」
「今の言葉は協力していいってことにゃ、アドニス?」
私がアドニスをじっと見つめると、わずかに緊張が走る。だが、彼は笑顔を浮かべた。
「うん、いいよ。ちょっとミザリーとヘンリさんが可哀そうだと思ったから」
「助かるにゃ、アドニス。それじゃ、ウラガーノドラゴンを赤ちゃんに変えてほしいにゃ」
その言葉に緑光の球体は揺らめき、部屋の隅で様子を窺っていたタルロスは目を見開く。
「何を言っているんだ、ミザリー? ウラガーノドラゴンを赤ちゃんに変えるなんて、そんなことは無理に決まって――」
「わかった、やってみるよ。この子も乗り気みたいだし、案外すんなりいくと思う」
タルロスが私の提案を否定しようとしたとき、アドニスはわずかに輝きを増した緑光の球体を見つめながら、力強く頷いた。
私は口角を上げ、アドニスにすぐにウラガーノドラゴンを赤ちゃんの姿に変えるよう指示を出した。
アドニスは両手を緑光の球体にかざした。その瞬間、彼の背中に白銀に輝く飛膜が現れ、神気が迸った。
部屋の中が真っ白に染まり、一瞬、視界を奪われる。それでも私は目を閉じることなく、アドニスと緑光の球体――ウラガーノドラゴンから視線を逸らさない。
次第に真っ白に霞む視界が開けてくる。すると、可愛らしい泣き声――いや、鳴き声が耳に届く。
「ギャゥ、ギャゥ」
目の前の光景に息を呑む。アドニスが柔らかそうな真っ白い産毛に包まれた虎の赤ちゃんを抱いている。
「どういうことだ、アドニス? なぜ、虎なんだ?」
驚きのあまり、また訛りを忘れる。じっと見つめていると、アドニスが苦笑いを浮かべた。
「どうやら、力を失って人化は無理だったみたい。それでも少しでもミザリーに近づけようと頑張ったら、こんな姿になったらしいよ」
そう告げて、私の前に白き虎の赤ちゃん――白虎を差し出す。つぶらな瞳で私を見つめ、『ギャゥ~』と鳴いた。
その姿に胸を締めつけられた私は、そっとアドニスから白虎を受け取り、抱きかかえる。そのとき、白虎が嬉しそうに鼻を寄せる。
「ふっ、仕方ないにゃ。これで我慢してやるにゃ! まぁ、私は獣人だし、何か突っ込まれたら先祖返りしたと言えばいいにゃ」
「いや、お前は獅子族だろうが……」
タルロスが何か言ったが、無視する。獅子族と虎族とか――そんな獣種差別に耳を傾けることはしない。
それに私のご先祖様の名前も王虎だ。当時、東洋連合国の帝から頂いたその名にも虎が入っている。きっと何かの運命だと、強引に納得する。
私は腕の中でウトウトと眠り始めた白虎に向かって、元気よく叫んだ。
「今日からお前の名は、シロにゃ。サラたちを一緒に騙すにゃ! もし、ヤツらがお前を傷つけようとしても、私が守ってやるにゃ!」
眠りそうだったシロは、私の言葉に目を開き、元気よく鳴く。その姿に口元を綻ばせ、私はシロを両手に持ち、天高く掲げた。
その様子を見ていたタルロスが、ため息交じりに首を横に振りながらも、ほくそ笑んだ。
「まぁ、いい。だけど、これならアークのヤツも驚くかもな。ミザリーがシロを赤ちゃんと紹介したときが見ものだ」
そんな私とタルロスを、アドニスはニコニコと微笑みながら、じっと見ていた。
――――――――――――
シロが生まれたときのことを思い出しながら、私は呆然とするアーたん、サラ、フォルテを交互に見やる。
私を騙して、三人だけで獣王の試練に行った報いは受けてもらった。いまだに口も開かず、じっとアドニスの説明を聞く三人に満面の笑みを向ける。
やがてアドニスが話し終えると、アーたんは力なく地面に座り込む。そしてサラとフォルテは、神剣と神銃をこちらに向けた。
「ふふ、ミザリー。なかなか凝った出迎えだったわ。本当に驚いた。あと少しでアッくんをやるとこだった」
「ええ、心の底からびっくりしました。あまりにもミザリーとその白虎――シロでしたか。二匹の演技が上手くて、アークを魔界に堕とすところでした」
笑顔で告げる二人。さすが天使長と魔王をその身に宿すだけあって、ものすごい圧力だ。だが、私も負けるわけにはいかない。
最初に騙したのは、サラとフォルテだ。正義はこちらにある。背後に立つアドニスにシロを預けて下がらせた。
そして、私はゆったりとした服を脱ぎ捨て、いつもの姿に戻ると、両手を掲げて大声で叫んだ。
「来い、太陽の小手!」
その瞬間、大空から太陽のように煌めく黄金の小手が現れる。それは意志を持つかのように、真っすぐ私のもとへ降りて来て、両腕に収まる。
私はアーたんたちがいなかったこの一週間、サラとフォルテに対抗するために修業をして、武器の強化を図った。
結果、私もケビエルとの『真の一体化』が進み、サタナルから貰った「シャイニングハンド」と「神盾アイギス」をひとつにすることに成功した。
金色に輝くノヴァナックルを見て、不敵に笑う。その姿に二人はすぐに警戒を高め、一歩後ずさった。
刹那、屋敷の前に一触即発の空気が漂う。
ノヴァナックルの降臨に腰を抜かしていた聖騎士たちは慌てて立ち上がり、大通りを行き交う人々の避難に向かう。
その姿に笑みを零した瞬間、私とサラとフォルテ――三人は同時に駆け出した。
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