314 再会の約束と、帰宅の先
私たちは抱き合うベアモンドさんとリリーナさんを見て、涙を浮かべた。
二十年もの間、一人の女性を愛し続けた彼が、ようやくその想いに報われたことを心の底から喜ぶ。
「素敵ね、アッくん。もし、私がいなくなっても、ずっと愛してくれる?」
はにかみながら、私はアッくんに尋ねた。眉を下げる彼を見つめ、笑みを深めると、フォルテが口を挟んだ。
「大丈夫ですよ、サラ。貴女がいなくなっても、ちゃんと私とミザリーでアークを支えますから、安心して天国でも地獄でも逝ってください」
笑顔で告げるフォルテをきっと睨む。だが、彼女は表情を変えることなく受け流した。その様子にアッくんがため息をつく。
「二人とも、せっかくの感動の再会なんだ。ふざけるのは駄目だよ」
小さく首を横に振りながら呟く彼を、じっと見つめる。たしかに冗談っぽく言ったが、本気で尋ねたつもりだった。私は真剣な表情を浮かべ、改めて問う。
「アッくん、もう一度、聞くね。私がいなくなっても、ずっと愛してくれる?」
その言葉に息を呑むアッくん。私は真っすぐ彼を射貫き、ごまかすことを許さない。沈黙がこの場を満たす。
そのとき、すっとフォルテが私とアッくんの間に滑り込んだ。
「何度も言わせないで、サラ。ベアモンドさんとリリーナさんの再会の邪魔です。それに貴女を倒せる存在なんて、この人界にはいません。非現実的なことを言って、アークを困らせないで」
両手を広げ、彼を庇うように立つフォルテ。その姿にムッとする。私は素直に、今のアッくんの気持ちが知りたいだけだ。困らせるつもりはない。
それに、ベアモンドさんたちのことも邪魔をするつもりなんてなかった。一方的に決めつけられて納得ができず、頬を膨らませる。
「二人とも落ち着いて。何度も言うけど、ベアモンドさんたちの邪魔をしちゃ、駄目だよ。続きは家に帰ってからにしようか。悪いけど、ガリュウ。あとのことは任せていいかな?」
その言葉に、ずっと離れて様子を伺っていたガリュウの肩が跳ねた。
「あ、あぁ、いいぜ。リリーナさんのことや、獣王の試練のことは、俺からベアモンドに説明しておく。っていうか、あれほどの過酷な試練を乗り切った後なのに、お前たちはいつも通りだな」
私たちを見て苦笑いを浮かべる彼に、アッくんは歩み寄り、拳を突き出した。その姿に笑みを浮かべたガリュウも拳を突き出し、コツンと合わせた。
「それじゃ、俺たちは帰るよ。また、何かあったら呼んでほしい。俺たちは仲間だからね」
「ああ、もちろんだ。だがな、今度は俺がお前らを助ける番だ。いつでも呼べ。何があろうと必ず駆けつけてやる。――たとえ、王座を蹴り飛ばしてでもな」
そう言ってガリュウが笑うと、アッくんも笑い出す。そして、もう一度、拳を突き合わせると、二人は背を向け、歩き出した。
やがてアッくんは私たちのもとに着くと、手をかざした。その瞬間、空間が捲れる。その先にはガインズネット学園都市にある私たちの屋敷が見える。
「帰ろうか、サラ、フォルテ。たった一週間。懐かしいなんて言うのは早いかもしれないけど、あそこが一番落ち着く。俺たちの家に!」
そう告げて微笑むアッくんの瞳は、春の日差しを浴び、満天の星空のように光り輝いていた。
◆
ようやく獣王の試練を終え、俺たちは帰路についた。万物変化魔法で作った大穴を抜け、ガインズネット学園都市の自宅である屋敷の前に立つ。
巨大な門には神殿騎士が二人立ち、門番をしていた。いきなり現れた俺たちに咄嗟に剣を抜こうとするが、サラがすっと前に出た。
「ただいま帰りました。お勤めご苦労様です」
凛とした彼女の声を受け、彼らはすぐに地面に膝をつき、臣下の礼をとった。その姿をじっと見つめていると、門が静かに開いた。
「お帰りなさいませ、フォルテ様」
門から出てきたのはメイド服を着たタルロスだった。深紅の髪と瞳が激しく燃えている。どう見ても給仕には見えない。
俺が思わず吹き出しそうになると、彼女から鋭い視線が飛んでくる。慌てて口を押さえ、必死に堪える。
「ふん、笑っていられるのも、いまのうちだ」
タルロスは鼻を鳴らし、意味深に笑みを浮かべた。その態度に嫌な予感がする。俺は用心深く彼女の様子を窺う。
「ただいま、タルロス。一週間、屋敷を守ってくれてありがとう」
フォルテが俺を庇うように一歩前に出て労いの言葉をかけると、タルロスは頬を真っ赤に染める。
「いえ、従者として当然のことです。そんなお礼なんて……」
俺に見せた態度とは全く違う。しおらしい姿を見せるタルロスに眉を曇らせる。そこまで彼女に憎まれるようなことはしていないはずだが――。
いったい彼女は俺の何が気に入らないのか、少し気になる。だが、理由なんてなく、最愛の主人が愛する相手に嫉妬しているだけかもしれない。
『愛する相手』――思わず浮かんだ言葉に苦笑いを浮かべる。今回の冒険で、俺は二人のことをかけがえのない存在だと、改めて思い知らされた。
レーヨンの町を去るとき、サラは『ずっと愛してくれる』と尋ねた。答えは決まっているが、口には出さない。
何よりサラがいなくなるようなことは、絶対にさせない。どんなことをしてでも、俺がサラ、フォルテ、ミリーを守り抜く。
そう強く決意したとき、魔界の門でミリーが死にかけたときのことを思い出した。あのときはアドニスが神竜に神化できたから、助けることができた。
あんな思いは、もう二度としたくない。俺は拳を強く握り締めると、ふと思い出す。そういえば、ミリーとアドニスがいない。
真っ先に迎えに来ると思われた二人がいない。屋敷で待っているのだろうか。首を傾げる俺を、タルロスがにやりと笑う。
その意味が分からず、口を開きかけようとしたとき、声が届いた。
「おかえりにゃさい、アーたん。ついに生まれたにゃ。見て、私たちの赤ちゃんにゃ!」
その言葉に目を見開き、慌てて振り向く。そこには産衣に包まれた真っ白な虎の赤ちゃんを抱き、満面の笑みを浮かべるミリーが立っていた。
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