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転生忍者は忍べない ~今度はひっそりと生きたのですが、王女や聖女が許してくれません~  作者: 黒鍵


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309 悪魔を払う鍵

 私が八王に造り変えられた初代聖女――エリザベートについて語ろうとしたとき、固く閉じた十王の門から、アッくんの神気を感じる。


 視線を向けると、巨大な穴が穿たれ、アッくんとスカイが出てきた。二人とも私たちに気づいて歩いて来るが、その姿は対照的だった。


 疲労困憊のスカイはアッくんの肩に手を回し、アッくんは慣れた手つきでその脇を支え、苦笑いを浮かべながら歩調を合わせた。


 ――相変わらず仲がいい。


 軽く嫉妬しながら二人を迎えると、フォルテが笑顔でアッくんに声をかけた。


「お疲れ様です、アーク、スカイ。どうやら、スカイも少しは力が戻ってきたみたいですね」


 その言葉に、スカイをじっと見る。たしかに神気は十王に挑む前よりも、力強く濃密になっていた。おそらく神竜バハムートと『合神(がっしん)』したのだろう。


 『合神』――記憶にない言葉が自然と出てきて、私は混乱する。


 そのとき、神衣(かむい)を纏い、深紅の十翼を広げるスカイの姿が脳裏をかすめると、ミゲイルの記憶が蘇り、自らの記憶と重なって束ねられる。


(……エリザベートとの戦いで、私も『真の一体化』がかなり進んだみたいね)


 思わず天使化を行い、背中に広がる十翼を見る。金色に輝く翼の羽先が青みがかっていた。私の髪と同じ色だ。確かな変化に笑みを零した。


「お疲れ様、フォルテ。それにサラ、ライデンさん、ガリュウ。皆、無事に四天王を倒すことができたみたいだね」


 翼を消して、顔を戻すと、星空のような漆黒の瞳を向けるアッくんと視線が重なる。突然、頬が赤く染まり、耳が熱くなる。


(……ずっと一緒にいるのに、いつまで経っても慣れないわ。さすが、私のアッくん♪)


 彼の顔に見惚れ、じっと見つめていると、ライデンさんがため息をついた。


「ふぅ、アークとスカイも戻ってきたな。サラ、さっき尋ねた俺の質問に、答えてもらっていいか?」


 そこでようやく思い出す。たしか八光の屍姫――エリザベートについて語ろうとしていたことに。


 私がわざとらしく咳ばらいをすると、ライデンさんは苦笑いを浮かべ、胸の前で腕を組んだ。これ以上、注意するつもりはないらしい。


 ライデンさんに頭を下げ、私は語り始めた。初代聖女ヘレナの姉――もうひとりの悲しき聖女エリザベートについて。





「八王は――エリザベートだったの。魔界の『最悪の名医』であるメフィストに手術(のろい)を施され、人格を奪われたね」


 サラは言い終えると唇を噛み、苦悶の表情を浮かべた。私は悪魔侯デミウルゴスに改造されたと思っていたが、違ったようだ。


 機械ではなく、肉体そのものを造り変えたメフィスト。タルロスに倒され、消滅してもなお、私たちを不快にさせる悪魔の存在に嫌悪と脅威を抱く。


「そうか、話してくれて助かった。それとすまなかった。あまり話したくない内容だったな」


 ライデンさんはサラに深々と頭を下げて謝罪した。そして顔を上げると、両手を組んで目を閉じ、エリザベートの冥福を祈った。


 私たちも彼に倣い、目を閉じて哀悼の意を表した。やがてゆっくりと目を開く。そこには眼光を鋭く尖らせ、十王の門を睨むアークの姿があった。


 いつもの彼と違い、感情を露わにしている。それだけ怒りが大きいのだと気づき、声をかけるのを躊躇う。そのとき、スカイが口を開いた。


「メフィストなら、さっきアークが倒した。十王――ベヒーモスにも手術していたんだ。しかも、擬態して空から、俺たちの戦いを観察していやがった」


 吐き捨てるように告げるスカイ。その内容に目を見開く。メフィストはタルロスが倒した。すでにこの世にいないはずだ。混乱する私に、アークが告げた。


「フォルテ、落ち着いて。おそらく俺が倒したメフィストは本体じゃない。そして、タルロスが倒したのも同じだろう。予想だが、フォルテたちを襲った悪魔たちは、全員生きている」


 彼は近づき、優しく私の肩に手を置く。アークが留守のときに私たちを襲撃した悪魔――リリス、デミウルゴス、メフィストのことは、彼には話していた。


 十王の遺跡に棲む魔物の王たちは、遥か昔から君臨していた。だから、過去にデミウルゴスやメフィストが実験した魔物だと思っていた。


 だが、違ったようだ。奴らは自らのスペアやレプリカを作り、今も魔界と人界を行き来している。


 そして魔物を捕獲し、人間を誑かして身も毛もよだつ改造や手術を続けている。そう推測し、ギリッと奥歯を鳴らす。


「やっぱり生きているのね、メフィストは……。アッくん、お願いがあるの」


 顎に手を当て、じっと耳を傾けていたサラが彼に視線を向ける。その顔は真剣そのもので、どこか思いつめた色が滲む。


 アークもただならぬ覚悟を感じ、黙って頷くと、彼女は静かに言葉を続ける。


「急で悪いけど、十王の遺跡を出たら、ユーべニア聖国に一緒に来てほしいの。そして、聖都アステリアにある教会の総本部――大聖堂アステリアの最奥に幽閉されている、悪魔に憑かれたヘレナを救うのを手伝って!」


 サラはそう言いながら、懐から古いロザリオを取り出して握り締めた。


 それはヘレナの姉であるエリザベートがメフィストに自らの肉体を差し出すことで手に入れた、悪魔を払うための『鍵』だった。


 誰もが口を閉じ、沈黙が落ちる中、アークは静かに答えた。


「わかった、サラ。まだ、学校が始まるまでには時間はある。一度、ガインズネット学園都市の家に戻ってから、向かおう。そろそろ戻らないとミリーが心配するからね」


 緊張感が漂う白亜の会堂。少しだけ明るく告げる彼の声が響き渡る。次の瞬間、誰からともなく深く、長い息を吐き出した。


 その吐息こそが、十王の遺跡の探索が幕を下ろしたことを、一同に悟らせたのだった。

読んでくださり感謝です<(_ _)>

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 一つの戦いが終わり、新たな戦いが幕を上げる。  次のエピソードを楽しみ待ちます♪( ´θ`)ノ  
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