308 白亜の会堂、再会
俺とガリュウが七王の玉座の間から出て、白亜の会堂で待っていると、九王の門が開き、フォルテが出て来た。
その姿は別れる前と変わらず、傷も負っていなかった。
「お疲れ様です、ライデンさん、ガリュウ。私が一番だと思いましたが、先を越されましたね」
彼女の余裕な態度に眉を下げる。魔界の王サンタと呼ばれる堕天使を内に秘めたフォルテ。彼女に勝てる存在は、人界にはいない。それは分かっている。
だが、それでも十王の遺跡を支配する魔物を一人で討伐したのだ。もう少し謙虚な態度でもいいのでは――と思った。
「先を越されたといえば、そうだが、こちらは七王。序列でいえば一番下だ。それに俺たちは二人で挑んだ。こっちが早くても、おかしくないだろ? まぁ、正直言うと、俺は何もしていないがな――」
肩をすくめて答え、思い直した。フォルテは堕天使サタナルのことを差し引いても、世界屈指の女傑。彼女に謙虚という言葉は似合わない。
「……そうですか、たしかにそうかもしれませんね。とはいえ、七王を相手にガリュウひとりで勝つとは、すごいですね」
そう言いながらフォルテは、視線を傍らへと流した。金と白金、二色の瞳が真っすぐにガリュウを射抜く。
「本当の力に目覚めた――まではないですね。ようやく、二人の存在に気づき、自分が何者か分かった。そんな感じですか」
彼女の言葉に俺とガリュウは息を呑む。想像を絶する力と技を持つ初代武導王である七王のリューハを倒したのだ。
それで、まだ『本当の力に目覚めていない』とは――。
「おい、フォルテ。それはどういうことだ。前世の母――ランダの存在に気づき、過去の憎悪から解放し、邂逅を果たした。そして、バロンとランダ――二人の記憶と卓越した技も継承したが、それだけでは不十分ということか!」
眉を上げて問うガリュウ。気持ちは分かる。完璧と思われたリューハの技量を越えてみせた。しかも聖獣神化せずにだ。
これでも、『本当の力』ではないと否定されれば、多少声を荒げたくなるのも分かる。そんなガリュウを見て、フォルテは肩をすくめた。
「そうです、ガリュウ。まだ、貴方は本当の力に目覚めていません。ですが、それは喜ぶことでしょう? だって、今以上に強くなれるということですから」
思わず目を見開く。たしかに彼女の言葉は正しい。だが、今でも十分に強いガリュウが、これ以上強くなる。すぐに信じることはできない。
俺は眉をひそめ、ガリュウに視線を移すと、同じような表情を浮かべていた。ガリュウは胸に手を当て、視線を落とした。
「……本当の力か。まだ強くなれるなら願ってもないことだが、どうすれば目覚めるのか、見当がつかない」
「それは自分で見つけてください。でなければ、意味がないでしょう。それに今すぐ目覚める必要もありません。この遺跡の探索も終わったのですから」
そう告げ、首を横に振るフォルテ。彼女が視線を八王の門へ向けると、静かに扉が開いた。
◆
私はガリュウに伝えたいことを告げ、視線を九王の門へと移す。やがて扉が開かれ、サラが出て来た。
純白の修道服は所々血で汚れていた。私と違い、苦戦したようだ。胸に手を当て、悲しげな表情を浮かべるサラを見て、察する。
(……たぶん、敵に同情したのでしょう。アークのこととなると、残念な聖女ですが、その心は慈悲深く、精神は清らかで誇り高い)
決して彼女に告げることはない言葉がよぎる。じっとサラを見つめていると、静かに歩み寄ってきた。
「待たせたみたいね、三人とも。少し苦戦してしまったわ」
苦笑するサラに、私たちは首を横に振る。
「いや、大して待っていない。俺たちもついさっき戻ってきたばかりだ。それよりも、服に血が付いているようだが、大丈夫なのか?」
ガリュウが心配そうに尋ねると、サラは悲しげな表情を深めた。
「ええ、大丈夫よ、ガリュウ。私の血じゃないから。これは初代聖女ヘレナの姉、もう一人の聖女――エリザベートのものだから」
誰もが目を大きく見開いた。そんな私たちを見つめ、サラは懐から古いロザリオを取り出して見せる。
「これは、彼女が自らの肉体と魂――二つと引き換えに手に入れた物。これが妹を助けるための鍵だと告げられてね」
その言葉で悟る。八王とはエリザベートのことだと――。肉体と魂を差し出し、別の存在へと変えられたのだろう。
そして、そんな彼女を救えなかったことをサラは悔やみ、心を痛めている。
彼女はぎゅっとロザリオを握りしめ、俯いたままだ。エリザベートを魔物に変え、八王に据えた存在が気になる。
ふと、悪魔侯デミウルゴスの醜悪な顔が脳裏に浮かぶ。あの悪魔は、五大邪竜の一柱――ウラガーノドラゴンを機械の肉体へと造り変えた。
聖女を機械に――。まさに悪魔の所業だ。思わず口元を押さえる。そんな私を見て、ライデンさんがサラに尋ねた。
「もし知っているなら教えてくれ、サラ。そのエリザベートが八王だったのか? もしそうなら、人間のままだったのか?」
ライデンさんの問いに眉を曇らせるサラ。あまり思い出したくないのだろう。だが、知っておく必要がある。この十王の遺跡の裏で暗躍する存在について。
彼女もそのことは分かっている。サラは顔を上げ、真剣な表情に戻ると、口を開こうとして、目を見開いた。
私たちは自然と彼女の視線を追う。そこには空間が捲れて巨大な穴が現れていた。そして中から、静かに歩いてくるアークとスカイの姿があった。
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