301 銀装の十王
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俺とアークが放った螺突赫殲は、確実にベヒーモスを捉えた。というか、あんな巨大な魔物を外すことはない。
それでも最大限に威力を高めるため、的確に頭を狙い、広がりそうになる獄炎の竜巻を束ねて力を集約した。
そのとき、狙いを定める俺と、ベヒーモスの視線が重なった。そして、その瞳には知性が宿っていた――そう直感した。
俺は目の前に屹立する巨大なベヒーモス。アークが言ったような知能の低い魔物には思えなかった。
しかし、あくまで勘だ。それに知能が高かろうが、この一撃で相当な傷を負ったはずだ。俺は首を振り、雑念を振り払う。
神槍バハムートを構え、じっと炎の竜巻に焼かれるベヒーモスを見据える。その瞬間、岩のような肌に亀裂が入り、全身へ広がる。
やがて、それは大きく裂け始めた。想定以上にベヒーモスへ深手を与えることができたと思い、口元が綻ぶ。
だがすぐに、早計だったと気づく。その裂け目から銀色の光が漏れ出し、次第に強く輝き始めた。
刹那、巨大なベヒーモスの岩肌が崩れ、岩となって地面に落下する。それは土煙を巻き上げ、俺たちの視界を遮った。
「風刃乱舞!」
すぐにアークは魔法を展開し、土煙を吹き飛ばして攻撃する。だが、強靭な風の刃はベヒーモスに直撃するも、乾いた金属音を上げて弾かれた。
その光景に息を飲む。魔法耐性が極端に低いはずのベヒーモスが、アークの放った風刃を防ぎ、跳ね返した。
警戒を強める俺たちの前で土煙は消え去り、その向こうに立つ銀色の巨山が全容を現した。
一回り小さくなった体は、無数の銀色の装甲板で覆い尽くされていた。そして広大な背中には無数の大砲が備え付けられ、蒼炎の巨翼がはためいていた。
その姿に言葉を失う。バッファローのような体躯。トラのような獰猛な顔。そして、額にある四本の角。それらはベヒーモスの特徴だ。だが――。
目の前に立つ銀の十王は、ベヒーモスの姿はしているが、機械のような金属の装甲と大量の大砲を身に纏い、空を覆いつくすほどの青き翼を持っていた。
――明らかに別の魔物に作り変えられていた。その異形に、悪魔侯デミウルゴスの気配を感じる。
「おい、アーク。もう一度、螺突赫殲をするぞ。急げ!」
その言葉にアークは頷き、竹筒を傾けて油を紅蓮の刃に注ぐと、瞬時に魔法を施した。穂先の周りに油が渦巻き始める。
威力よりも速さを優先したアーク。俺の意図を察してくれたようだ。思わず笑みが零れる。だが、すぐに表情を引き締めた。
「バハムート、次はタイミングを合わせて神炎を吐き出せ! 一気に行くぞ!」
言葉と同時に槍を突き出す。神速の打突――その穂先から紅蓮の神炎が閃き、螺旋を描く油に燃え移る。直後、烈火の暴風へと変わり、銀装のベヒーモスを襲った。
それは猛烈な勢いで突き進み、大気を焦がして青空を赤く染めた。直後、ベヒーモスの左肩――そこにあったひときわ大きな砲台へ激突する。
少し焦った。頭を狙ったつもりだったが、わずかに逸れてしまった。だが、神気を帯びた炎は装甲と大砲を溶かし、その下の地肌を晒した。
青黒い肌が見える。やはり普通のベヒーモスとは違うようだ。油断なく神槍を構える。そのとき、アークの声が届く。
「どうやら、バハムートの神炎なら装甲に弾かれることなく、通じるようだね。スカイの狙い通りだ。悪いけど、攻撃は任せていい? 俺は援護に徹するから」
振り返ると、アークは天使の姿に変わり、白銀の十二翼を広げていた。目が合うと同時に、上空へ飛んだ。
その瞬間、白く輝く銀羽が舞い、草原へ落ちていく。飛翔するアークの背中を見つめながら、俺も全身に神気を巡らせて天使の力を解放し、その後を追う。
深紅の八翼をはためかせ、銀装のベヒーモスへ向かうと、すでにアークがやつの注意を引き付けていた。
ベヒーモスは体中にある大量の大砲を一斉に放つ。だが、それらを余裕で回避するアーク。
夥しい数の砲弾が飛び交うが、どれも当たる気配はない。十王の遺跡の中から解放されたアークは、大空を自由に飛び回っている。
あまりに楽しそうな表情を浮かべるアークに苦笑いを浮かべると、手に持つ神槍バハムートから意志が伝わってきた。
<我が王よ、ベヒーモスの意識がルキフェル様に向いているうちに、さっさと討伐してしまいましょう>
俺は頷き、深紅の翼を閉じて一気に降下し、ベヒーモスの背中に降り立った。岩肌が剥がれ、一回り小さくなったとはいえ、その体は巨大だった。
五百メートルはある広大な背中を見渡し、神槍を振り下ろす。ジュッと銀色の装甲を溶かし、深々と刺さる。
刹那、背中に設置された大砲が一斉にこちらを向き、砲口から火花が迸った。無数の砲弾が襲い掛かる。
迫りくる砲弾――だが俺は焦ることなく、静かに腰を落とし、猛然と走り出した。直後、背後を砲弾が通り過ぎ、爆発が起きる。
俺は神槍を突き刺したまま駆け抜ける。いくつもの大砲が砲口を向けるが、一門も俺を捉えることができない。徐々に走る速度を上げていく。
ちらりと振り返ると、紅蓮の炎が一直線に続いていた。俺はさらに柄を握り締め、神気を込めた。
一瞬で紅蓮の炎は激しさを増してベヒーモスの背中を覆い尽くす。そして、大量の大砲を溶かした。その光景にほくそ笑む。
瞬く間に背中を走り切り、尻尾の付け根まで辿り着く。俺は神槍をさらに深く突き刺し、翼を広げて飛び立つ。
銀の十王――ベヒーモスが顔を向け、俺を睨む。
尻尾を振り上げ、叩き落そうとするが、深く刺さった神槍が邪魔して俺には届かない。それどころか、穂先はさらに深く沈む。
やはり魔物だと肩をすくめ、上空に向けて弧を描く尻尾に沿うように飛翔する。次の瞬間、神槍で真っ二つに両断した。
血を流し、二つに裂けた尻尾。俺はそれを尻目に上昇すると、その先にアークが待っていた。
「さすがだ、スカイ。ほとんどの大砲を溶かしてくれたおかげで、避ける必要がなくなったよ」
笑顔で迎えるアーク。俺も笑みを返した瞬間、耳を劈く爆音が上がった。振り返ると、深紅の巨大な砲弾がこちらに迫っていた。
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