299 三顔のゴルゴン、白銀の山に沈む
目の前に浮かぶゴルゴン――その側頭部から現れた女性の顔を見つめる。ちらりと彼女から視線をずらすと、反対側の側頭部にも女性の横顔が覗いていた。
(どうやら、阿修羅のような三つの顔を持っているようですね。三眼の三顔――面白いですね)
宙に浮かぶ氷の魔弾を見つめながら、笑みを浮かべる。余裕があるわけではないが、かなり彼女の全容が分かってきて、気持ちが落ち着く。
彼女たちの魔眼は、それぞれ別の能力が宿っている。『能力の石化』とあと二つ。色々と考え、戦ってきたが、そろそろ飽きてきた。
一気に勝負をつけさせてもらう。私は魔神気を練り上げ、一気に解放した。刹那、背中に漆黒の十二翼が広がる。
黒く艶やかな羽が純白の部屋に舞う。新たに生えた二翼は小さいが、それでも十二翼には変わらない。アークと同じ枚数の翼を愛おしく眺める。
その瞬間、ゴルゴンの頭部に生えた深緑の蛇たちが一斉に飛びかかった。すでにその攻撃は知っている。私は両手の拳銃を地面に向けて撃つ。
足元の影の中に吸い込まれる銃弾。直後、宙を泳ぎ襲いかかる蛇たち――その影から飛び出した。
赤く爆ぜる蛇たちを見て、笑みを浮かべる。やはり魔眼といえども、効果が出るまでには多少の時間は必要なようだ。
いまだ動かず、宙に浮いたままの氷の魔弾を見つめる。予想だが、動きを『石化』したのだろう。
まっすぐ撃っていたら、魔眼に銃弾は止められ、蛇たちの餌食になっていたかもしれない。
(まぁ、いいです。敵の能力を気にするより、圧倒的な力でねじ伏せる。そのほうが、私に合っています)
その瞬間、再びゴルゴンの首はぐるり回り、最後の顔が正面を向く。刹那、三つの金色の瞳から光線が放たれた。
咄嗟に翼を広げ、飛び立つと、足元すれすれを金色の閃光が通り過ぎていく。それは純白の大理石の壁に当たると、灰色の岩へと変えた。
(最後の能力が、ただの石化とは――芸がありませんね)
冷笑を浮かべ、足元に浮かぶゴルゴンを見据える。まだ、能力を『石化』する魔眼のほうが脅威に感じた。
だが、そんなことを考えても仕方がない。彼女は雷弾で意識を断たれている。私は神銃とレプリカをホルスターに収め、漆黒の翼をはためかせる。
黒き羽は純白の部屋に降り注ぎ、闇色へと染める。私は残りの魔力と魔神気を束ね、この部屋全体に万物変化魔法を展開する。
一瞬で景色が塗り替えられる。禁断の武具を収める天忌戒庫――そのレプリカに。
私がゆっくりと降り立つと、ゴルゴンは石化の光を放った。軽く横に跳んで回避するが、それは私を追ってきた。視線をゴルゴンへ向ける。彼女の金色の瞳がこちらを睨んでいた。
私は走りながら、適当な武器を拾い、彼女に向かって放つ。鋭い弓矢がゴルゴンを襲う。だが、金色の光を浴び、灰色に変わり、ボロボロに崩れる。
(予想通りですね。やはり、つまらない能力です)
私は手に持ったボウガンを投げ捨て、石化の光を避けながら、走り回る。どこにどの武器を置いてあるか分からないが、手当たり次第、拾い上げて使う。
銀色のライフルを撃てば、熱線が迸り、金色の大砲に触れれば、轟音を上げ、鋭く尖った砲弾が放たれる。
だが、そのすべてをゴルゴンは石に変えて無力化した。私は少しだけ考えを改める。まさか実体を持たない熱線までも石化するとは思わなかった。
思ったよりも有用な魔眼だ。だが、それだけだ。私は走りながら肩をすくめる。そのとき、目的の場所を見つけた。
そこには巨大な投石器――カタパルトがずらりと並んでいた。私は途中で拾った瑠璃色の剣を構え、一気に走り抜けると、次々と固定された太い縄を断ち切る。
張り詰めていた綱が弾け飛び、カタパルトの腕が空を裂く。遅れて巨大な岩塊がゴルゴン目掛けて放たれた。
その数は優に十を超えていた。古の時代、大量の人間を殺した忌まわしき巨大兵器。その造りは単純だが、それゆえに多く造られ、多くの人を殺めた。
我が主が禁忌に指定し、この武器庫に封印したのも頷ける。私はすでに足を止め、ゴルゴンに降り注ぐ巨岩を見つめる。
彼女に私を狙う余裕はない。無数の巨岩に向け、石化の光を当てている。その姿に笑みを零す。
(岩に石化を施しても意味はないと思いますけど)
それでもゴルゴンは石化の光を放つことを止めない。迫り来る巨岩に光を当て続ける。やがてそれは砂の塊へと変わり、彼女に当たると粉々に砕けた。
だが、それで終わりだった。残りの巨岩はすでに彼女の頭上にある。まだ十以上はある巨岩を砂へと変えることは不可能だ。
私が眺めていると、怨嗟の色を滲ませたゴルゴンと目が合う。私がにっこりと笑い、手を振る。刹那、無数の巨岩が彼女を押しつぶした。
その姿を見届け、魔法を解除して純白の部屋へと戻す。私は安堵の息を吐き、周囲を見渡す。そして、いまだに宙に浮いたままの氷の魔弾を見つける。
無駄に強力なゴルゴンの魔眼に眉を下げる。直後、彼女の命が尽きた。氷の魔弾は魔眼の呪縛から解放される。
それは部屋の中央に鎮座する巨岩が積み上がる山へと向かい、直撃する。すると、巨岩の山は一瞬で氷山へと変わった。
私はその幻想的な光景に目を奪われる。しかし、その中にゴルゴンが眠っていることを思い出し、苦笑いを浮かべた。
白き部屋に白銀の山――アークの髪と同じ色だ。とくりと胸が跳ねた。それが不安から来るものなのか、愛情から来るものなのか分からない。
ただ、一刻も早く会いたい。そう強く想う。私は静かに目を開け、白銀の山に背を向け、いつの間にか現れた門に向かって静かに歩き出した。
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