298 封じられた魔弾、碧眼の三つ目
私は目の前に浮かぶゴルゴンにショットガンを向ける。引き金を引こうとし、魔弾を装填していなかったことに気づく。
(……少し気圧されていますね)
息を吐き、気持ちを落ち着けてゴルゴンを見やる。
彼女も三つの目すべてをこちらに向ける。その目には石化の力が宿っている。だが、高い魔力と魔神気を纏う私には効果はない。
それでも不安はある。石化から守るため、常に魔力は消費され、堕天使化しておらず、魔神気も僅かしかない。それに石化だけが彼女の能力とは思えなかった。
一気に勝負を決めたいが、まだ彼女の能力も分からない。眉を曇らせたとき、ゴルゴンの顔が歪んだ。
直後、頭に生えた大量の蛇が、襲いかかった。届くはずのない距離だと思った。だが、蛇たちは彼女から離れ、宙を泳ぎ迫ってきた。
空中を飛ぶ蛇たち。ゴルゴン自体も浮くのだ。ならば蛇も同じだとしても、不思議ではない。
油断していたと気づかされる。首を振り、冷静さを取り戻す。私はフォアエイドを引き、魔弾を装填する。
眼前を覆う大量の蛇――深緑のカーテンに照準を合わせ、引き金を引いた。刹那、炸裂音が轟き、無数の魔弾が扇状に飛び出した。
一面に広がる蛇の群れ。それは一瞬で穴だらけとなり、多くの蛇たちが床に落ちる。私は笑みを浮かべる。
その瞬間、水蒸気爆発が起こり、残りの蛇たちを吹き飛ばす――はずだった。だが、魔弾は爆発することなく、通り過ぎた。
ただの銃弾となり、ゴルゴンの顔に当たるが、彼女は気にすることなく、こちらを見て笑っていた。私は舌打ちをして睨みつける。
だが、まずは迫り来る大量の蛇をどうにかしなければならない。私はショットガンを分解し、神銃アクケルテとレプリカに戻す。
両手に二丁の拳銃を持ち直し、魔力を込めて素早く引き金を引いた。乾いた音が部屋中に響き渡り、大量の蛇が赤く弾けて床に落ちていく。
属性を付与することなく、ただ速さだけを求め、素早く鉄の銃弾を構築し、装填して撃ち続ける。気づくと、白亜の床は緑と赤に染まっていた。
すべての蛇を撃ち落とした私は、ゴルゴンへ視線を向ける。三つの深紅の瞳がこちらをじっと見つめ、視線が重なる。
私は素早く水と火を付与した複合弾を造り上げて放つ。威力よりも速さを重視した魔弾は、ゴルゴンの眉間に直撃する。
巨大なゴルゴンにとって、豆粒に等しい銃弾――。いくら待っても、爆発することはなかった。
再び、彼女が醜く笑う。やはり何かの能力なのだろう。私は二丁の拳銃に魔弾を装填する。
次の瞬間、銃口をゴルゴンに向け、右手に持つ神銃アクケルテだけ少し下げると、同時に引き金を引く。
二つの銃口から火花が迸る。レプリカが放った魔弾は、眉間へと真っすぐに向かい、アクケルテの魔弾は床へと進む。
一瞬、ゴルゴンが視線を落とし、アクケルテの魔弾を見るが、当たることがないと分かり、目の前の魔弾を見据える。
その姿にほくそ笑む。アクケルテが放った魔弾は床に当たった直後、弾かれて軌道を変え、ゴルゴンの真下に吸い込まれる。
眉間と首下――同時に魔弾は直撃する。その瞬間、彼女の真下――首元が爆発し、大きく揺れる。
初めて苦痛の表情を浮かべるゴルゴン。やはり、爆発を封じたのは、あの深紅の三つ目だと確信する。
彼女の三つの瞳は、相手の能力さえも『石化』して無効化する。馬鹿げた能力だが、間違いない。
想定外の攻撃で混乱し、ふらふらと揺れるゴルゴンに銃口を向ける。右手の神銃アクケルテに魔力と魔神気を込め、雷を付与した魔弾を構築する。
さきほどとは違い、威力を高めるために入念に力を込める。カチリと音が鳴り、装填が完了したことを知らせる。刹那、銃身に紫電が走る。
いまだふらつくゴルゴンだったが、アクケルテが放つ強大な気配に気づき、こちらを見る。視線が交差した瞬間、私は引き金を引いた。
バンッ――と強烈な破裂音と共に銃口から雷光が閃く。紫電を纏った魔弾は、彼女の眉間を目がけて突き進む。
大気を焦がし、風を切って迫る魔弾に、彼女の三つの瞳に動揺の色が浮かぶ。その姿に口角を吊り上げる。
その瞬間、電の魔弾はゴルゴンの額を貫く。それは奥深くにめり込むと、蓄積した電気を一気に解放した。
ゴルゴンの顔に紫電は駆け巡り、閃光となって焼き尽くす。それは頭部に生えた蛇たちにも及び、雷に打たれたかのように真っすぐ伸びて痙攣した。
(やはり初見の攻撃は『石化』できないようですね。これで水蒸気爆発、重力弾、雷弾は見られてしまいましたが、問題ないでしょう。虫の息のようですし……)
口から煙を吐くゴルゴンを見つめ、息つく間もなく魔弾を装填する。今度は絶対零度の氷を付与し、焼け焦げた彼女を冷やしてあげる。
――もちろん、親切心など微塵もない。
アークに見せられない凶悪な笑みを浮かべ、白目を剥くゴルゴンに魔弾を放った。すでに意識はなく、彼女が回避することは不可能だ。
勝利を確信した。そのとき、ゴルゴンは起き上がり、ぐるりと横に回転した。直後、氷の魔弾はぴたりと宙に止まった。
視線を宙に浮く魔弾の先に向ける。そこには意識を失ったゴルゴン――その側頭部から這い出すように、こちらを凝視する碧眼の三つ目を持つ女の貌が正面を向いた。
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