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転生忍者は忍べない ~今度はひっそりと生きたのですが、王女や聖女が許してくれません~  作者: 黒鍵


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292 盲目の忠義、紺碧の矛が喰らう

 私たちは深海の部屋で激しく打ち合う。矛先と矛先が激突するたびに火花が散り、鉄の焦げた匂いが鼻を突く。


 エリザベートは部屋の中を縦横無尽に泳ぎ回り、四方から攻撃を仕掛ける。空を飛ぶハーピーやワイバーンよりも、その動きは滑らかで変則的だ。


 風もなく、重力の影響も少ない水の結界。その中だから可能な異次元の動き。これまで以上に厄介な相手となったエリザベート。彼女は笑みを浮かべる。


「本当にすごいわね、サラ。まさかここまで打ち合えるなんて」

「褒めてくれてありがとう。私は剣術よりも杖術が得意なの。エリザベートも聖女だった(・・・・・)なら分かるでしょ? 修行の一環で習うのだから」


 それとなく探りを入れる。人魚の姿で攻撃する彼女だが、その矛さばきは、修道女や聖女見習いが教会で習う杖術に近かった。


「……さあね、知らないわ」


 一拍置いて、エリザベートは呟いた。ほんの一瞬だけ、紺碧の瞳から光が失われた気がしたが、その表情からは何も読めない。


 彼女が聖女だったのか、どうして憎んでいるのか――分からなかった。


 しかし、間違いなく彼女は、聖女と関係がある。これだけ頑なに答えないのが、その証拠だ。


 ただ、それが分かったところで、エリザベートを倒すことは変わらない。彼女は人間ではなく、魔物なのだから――。


 巨大な無眼――盲目の海獣を無惨に殺した姿を思い出し、心さえも魔物に変わり果ててしまったと断ずる。


 私はエリザベートが持つ紺碧の矛を見つめる。石突は尾びれのようになり、柄から生えた触手は彼女に縋るように絡みついている。


 死してなお、主を慕い続けるが、その思いは彼女には届かない。盲目の海獣に同情し、私は神槍レーヴァテインを握る手に力を込めた。


 その瞬間、矛先から神炎が唸る。この一撃で決める――そう覚悟し、紅蓮に燃える刃を静かにエリザベートに向ける。


 変則的に泳ぐ彼女に合わせ、切っ先を動かす。こちらの気迫が伝わったのか、なかなか攻撃してこない。


 やがてエリザベートは大きく旋回し、私の背後に回り込んだ。その瞬間、私は彼女を見失う。


 急いで振り向くが、彼女の姿が見えない。焦りながらも、五感すべてに強化魔法を施し、耳を傾けて目を凝らす。だが、捉えることができない。


 私は深く息を吸い込み、気持ちを静めた。そのとき、頭上から縋りつく思慕の念を捉えた。


(彼女のものではないわ。だけど、確かに感じる)


 刹那、神槍レーヴァテインを振り上げる。ガキンッと激しい衝突音が部屋中に響き渡る。頭上には異形の矛を突き出すエリザベートの姿があった。


 矛先同士が重なり、激しく削り合う。摩擦音が鳴る中、紅蓮の刃は異形の矛を焼き尽くそうと神炎を迸らせる。


 互いの穂先が噛み合う中、神炎は勢いを増し、紺碧の矛を燃やし始める。


 やがて三又の矛――その中央の巨大な刃は炎に包まれて崩れ出した。それでもエリザベートは矛を握りしめ、その切っ先を私に押し込もうとする。


 彼女が力を込める度に、ボロボロと崩れる矛先。その欠片が舞い、私の頬を掠め、また思慕の念が届く。それは盲目の海獣の想いだった。


 咄嗟に握る手を緩めてしまう。その隙を突き、エリザベートは、矛を突き出して私の神槍を弾いた。


 原型を失った漆黒の刃が、真っすぐ私の喉元に迫る。だが、私は弾かれた槍をそのまま回転させた。


 エリザベートを目がけて石突を振り上げ、神気を流し込むと、神槍の柄に浮かぶ紋様が白く輝く。


 次の瞬間、漆黒の矛と白光の石突がぶつかる。三角錐のように尖った石突――その先端が崩壊する矛先に突き刺さった。


 大きく崩れる黒き矛先。半ばを失った刃は黒炭となり、沈黙している。すでにその矛に、命を刈り取る力は残されていなかった。


 エリザベートは変わり果てた矛を見つめ、ため息をつくと、腕に絡みつく触手を引き剥がし、放り投げた。


 カランと音を立て床に転がる矛。それは突然、白い光に包まれた。彼女が目を見開くと、白光の中から盲目の海獣が飛び出し、彼女を襲った。


 武器を持たないエリザベートに抗う術はなかった。猛烈な勢いで迫る海獣を、呆然と見つめる彼女。獰猛な牙が並ぶ大口が彼女を飲み込んだ。


 不愉快な咀嚼音はすぐに消えた。海獣は光の粒子となって霧散し、血塗れのエリザベートがドサリと床に落ちた。


 わずかに息がある彼女に、神槍レーヴァテイン――その石突である白竜の杖を向けた。


「あの海獣は、この杖の力で仮初の命を得たのよ。貴女を襲ったのは、あの海獣の意思。私は何も命じていない。もし貴女が矛を捨てなければ、きっとあの海獣は私を襲ったでしょうね」


 冷たく言い放つ私を血に染まった顔で睨みつけるエリザベート。紺碧と青のドレスは赤く染まり、ズタズタに破れていた。


 残り二色となった八光の屍姫。次の色に変わる前に止めを刺そうと神槍を構えた――そのとき、深海の部屋が歪み、空間が撓む。


 突如、突風とは違う巨大な力――津波に飲み込まれる。十翼を広げて抗うが、一気に壁まで押し流されてしまう。


 壁に激突しそうになり、翼を畳んで身を守る。直後、背中に微かな痛みが走り、眉をひそめながらも、エリザベートを探す。


 すぐに床に横たわる血塗れの彼女を見つけると同時に、再びステンドグラスの色が変わり始める。


 青色と藍色は一つに束ねられ、濃く深い紺碧へ変化し、横たわる彼女の姿に呼応するかのように、ステンドグラスの光は鮮血のような赤みを帯び始めた。

読んでくださり感謝です<(_ _)>

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