288 八光の死姫と、太陽を凍らす白騎士
私はエリザベートの頭上で、うねり狂う炎の竜巻を見つめる。それは周囲の空気を吸い込みながら、激しさを増していく。
すでに部屋の中はステンドグラスから放たれる赤い光と相まって、深紅に染まっていた。そのとき、熱風が私の頬を撫で、髪をはためかせながら通り過ぎた。
思わず熱気で目を細めると、エリザベートは口角を上げ、回転する大鎌を止め、一気に振り下ろした。
炎の竜巻は大鎌の軌道をなぞりながら、こちらへと迫る。私は右手の人差し指に付けたサファイアの指輪を掲げた。
刹那、紺碧の鎧を纏った女騎士――水の精霊ヴィヴィアンが現れ、炎の竜巻を氷の大剣で真っ二つに切り裂いた。
たった一振りで竜巻は霧散し、部屋中に籠った熱を吹き飛ばした。そして、そのまま氷の大剣を振り上げると、青の斬撃がエリザベートを襲う。
津波のようにエリザベートを飲み込まんと迫る紺碧の奔流――だが、彼女は余裕の笑みを浮かべ、大鎌を振り下ろした。
水と炎――二つはぶつかり、互いを打ち消し合う。だが、ヴィヴィアンのほうがわずかに勝っていた。
青の斬撃は打ち消されるたびに、波のように復活して襲いかかる。エリザベートも大鎌を振るい続けるが、次第に追いつかなくなる。
エリザベートが紺碧の奔流に飲み込まれるのも時間の問題――そう思ったとき、天井のステンドグラスが放つ光の色が変わった。
赤から橙と黄――二色の光が降り注ぐ。その瞬間、ヴィヴィアンの斬撃は十字に裂かれ、霧散した。
その光景に目を見開く。さっきまで押されていたはずのエリザベートが、青の粒子が舞う中、笑顔を浮かべている。
彼女は両手に橙色と黄色――太陽のような双剣を持ち、陽光のように輝く向日葵色のドレスに身を包んでいた。
一瞬で姿を変え、力が増した――いったい何が起きているのか分からず、ヴィヴィアンを指輪に戻し、距離をとる。
白竜の杖を構え直して、彼女を見据える。明らかに雰囲気が変わった。先ほどまでの妖艶さは消え失せ、太陽のような力強さが溢れている。
それに大人びた雰囲気は消え、幼さが残る少女に戻ったように見える。首を傾げそうになるのを堪えると、エリザベートが口を開いた。
「あはは、驚いた、サラ? 私の力があんなものだと思っていたわけ? ばっかじゃないの。私は八王なのよ、一王にしかなれなかった水の精霊より弱いわけないじゃん!」
その口調も変わっていた。人を馬鹿にした雰囲気は変わってないが、妖しさは消え、感情的だった。
性格もかなり変わったらしい。眉をひそめ、見つめると彼女は言葉を続ける。
「まぁ、いいわ。弱いサラに教えてあげる。私は八光の死姫。八つの力と能力を操る――最強の女王よ!」
エリザベートは人差し指を真っすぐ私に向けて言い放った。その姿に心の中でほくそ笑む。どうやら、若返ったのは体だけではなかったらしい。
頭の中も子どもに戻ったようだ。わざわざ敵に能力を教えるなんて、馬鹿としか言いようがない。力は強くなったが、こちらのほうが扱いやすそうだ。
私は目に涙を浮かべ、両手を組んで懇願してみる。
「ありがとう、エリザベート。弱い私に教えてくれて。もし、よかったら、赤、橙、黄以外の残りの五色――その能力も教えてくれないかしら?」
弱々しく語る私を見て、満面の笑みを浮かべるエリザベート。これなら、ペラペラと話してくれそうだ。口元が綻びそうになるのをぐっと堪える。
「しょうがないわね、教えてあげてもいいけど、条件があるわ。もし負けたら、その体を私に頂戴。そして、あんたの婚約者――ルキフェルじゃない、アークも一緒にね」
その瞬間、私は頭が真っ白になり、白竜の杖を剣に変えてエリザベートに斬りかかった。それほどまでに、あまりにもふざけた提案だった。
橙色と黄色の剣を交差して受け止める彼女を睨む。刃と刃が擦れあい、不快な摩擦音が上がる。
「エリザベート、寝言は寝るとき言うものよ。万が一にも、私が負けることはないけど、それでもアッくんを物みたいに言ったことは許せないわ」
激しい鍔迫り合いをしながら、はっきりと告げると、身体強化を施し、一気に押し込み、彼女のみぞおちに横蹴りを叩き込んだ。
勢いよく後方に飛ばされるエリザベートに一瞥すると、再び右手を掲げてヴィヴィアンを召喚する。
地面を転がりながらも余裕の表情を見せるエリザベート。ヴィヴィアンでは相手にならないと思っているようだ。
私は笑みを浮かべ、愚かな彼女を見やると、ヴィヴィアンに最上級の強化魔法を展開した。
「戦女神の魂」
次の瞬間、紺碧の体は白銀に変わり、水の大剣は絶対零度の冷気を纏い、クリスタルのように透明になる。
太陽すら凍らせる白銀の白騎士となったヴィヴィアンは、太陽の狂姫に斬りかかった。
エリザベートも彼女を見て、尋常じゃない力を感じたのか、その顔から余裕の色は消え失せていた。
迫り来る絶対零度の斬撃を、エリザベートは双剣を交差させて受け止めた。ガキンッと激しい金属音が耳を劈く。
すべてを凍らせようとするヴィヴィアン。エリザベートは彼女を睨むと、太陽の双剣から激しい炎が上がり、彼女を太陽の化身へと変えた。
白銀の氷塊と黄金の太陽――二つは激しく衝突する。冷気と熱気が部屋中を駆け巡り、感覚を狂わせる。
二人の力は拮抗していた。どちらも引かず、このままでは両者とも、ただでは済まない。固唾を飲んで見守っていると、エリザベートがさらに輝き出した。
その姿に嫌な予感がよぎる。私はすぐにヴィヴィアンを指輪に戻すと、絶対防御の聖魔法を展開する。
「黄昏の聖城」
その瞬間、エリザベートが爆ぜた。それは黄金に揺らめく太陽のコロナのようだった。
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