264 獅子咆光弾と背中合わせの翼
全身に蒼炎を纏った不死鳥が悲しげに鳴いた。それは苦痛に耐え、恥辱に抗う悲しみを帯びた声だった。
眉を曇らせた俺に、ライデンさんの声が届いた。
「全員、聞け! 今から一斉に攻撃を仕掛ける。左の三翼は上からアーク、ガリュウ、フォルテが担当だ。反対側はスカイと俺と――悪いがサラ、お前にも参加してもらう。全員が一翼ずつ削るぞ!」
自然の摂理から外れた冷たき炎。その攻略法もないまま、特攻を指示したライデンさん。普段は冷静に戦況を把握し、的確に指示を出す彼だが、今は違った。
ただ感情を高ぶらせて、突進するだけだった。だが、俺は胸が熱くなった。何も考えず、目の前の救いを求める者を助ける――その姿に。
――相手が自然界の外にいるなら、こちらも人外の存在として戦う。
体内に留めていた神気を一気に解放し、熾天使の姿へと変わった。十二枚の翼を広げると、先が黒く染まった羽が舞う。
そのとき、目の前を漆黒と金色、そして真紅の羽が優雅に舞い、絡み合いながら通り過ぎた。
ふと視線を上げると、フォルテとサラ、それにスカイも力を解き放ち、それぞれの翼を広げ、はためかせていた。
全員、思うことは同じだったようだ。三人と視線が重なり、思わず口角が上がった――と同時に、咆哮を上げて駆けるガリュウに向かって飛び立った。
「ガリュウ、俺の手を握れ。一気に行くぞ!」
「アークか? 分かった、頼む!」
ガリュウが四腕のうち両腕を上に掲げた。俺は飛翔しながらその手を掴むと、一気に上昇した。直後、ドンッ――と轟音が耳を劈いた。
宙に浮くガリュウの足元すれすれを、紫電を帯びた砲弾が通り過ぎた。
それは蒼炎の翼に直撃し、燃えることも凍ることもなく、すべてを力でねじ伏せて貫いた。
フォルテは一瞬で自分の担当――右側の下翼を粉砕した。その光景に苦笑しつつ、俺も蒼炎の不死鳥を目がけて突き進む。
目の前に迫る不死鳥。そのとき、手を叩かれた。視線を下げると、ガリュウが手を離すよう親指を立て、不敵に笑った。次の瞬間、彼の全身から神気が迸った。
◆
アークのおかげで難なく近づくことができた。眼下には、すでにフォルテに一枚の翼を撃ち抜かれた不死鳥がいる。
俺はアークの手を叩き、下ろすよう合図をすると、すぐに手を離された。一直線に、不死鳥の背中を目がけて落ちる。
そのとき、不死鳥から無数の青い刃のような羽が放たれた。一瞬で全身に纏った神気をさらに厚くして、四腕を突き出した。
ザク、ザクッ――と無数の羽が腕に突き刺さり、火傷と凍傷を同時に与える。直後、全身に想像を絶する激痛が走った。
鋼鉄よりも硬い体毛に覆われ、神気で強化していた腕でも、不死鳥の羽は容易く突き抜けた。
だが、歯を食いしばって痛みに耐え、不死鳥の背中に降り立つ。ジュッ、と音が聞こえ、足の裏が焼かれ、冷やされる。
――長くはもたない。
俺は両腕を上げ、羽から顔を守りつつ、残り二本の腕で俺が任された左中央の翼の根元を掴む。その瞬間、残りの翼が俺を目がけ、一斉に羽の刃を放った。
四腕がすべて塞がれていて防ぐことは不可能。それにこの好機を逃せば、いつ蒼炎の翼を引き抜く機会があるか分からない。
俺はすべての羽を受ける覚悟をする。そのとき、アークが隣に降り立ち、手をかざした。
羽は宙で止まり、少しも進むことができない。おそらくアークは、万物変化魔法で空気を変化させたのだろう。
俺には仲間がいる――それを実感して口元が綻ぶ。顔を防いでいた両腕を解いて、四腕で翼の根元を掴むと、一気に引き抜いた。
メリメリッ――と音を上げ、蒼炎の翼は千切れ、俺はそのまま放り投げた。足裏は火傷と凍傷で爛れ、これ以上は不死鳥の背中にいることは無理だ。
俺は倒れ込むように下りると、四つの腕を地面に突き、衝撃を抑えて四つん這い――いや六つん這いの姿勢になり、上空を舞う蒼炎の翼を見据えた。
大きく息を吸い込み、体内で闘気、魔力、神気を練り上げ、渾身の力を一気に口から放つと、緋色の閃光が迸った。
それは蒼炎の翼を一瞬で塵へと変えた。霧散する翼を見て、安堵の息を吐く。ぶっつけ本番で試したが、成功したようだ。
王族にのみ伝わる奥義――獅子咆光弾。聖獣化もしくは神獣化したときのみ使用できる究極の技。今まで王族の中でも神獣化し、正気を保てる親父しか使えなかった。
また一歩、親父に近づいた。その充足感で、戦いの最中にもかかわらず、満面の笑みを浮かべる。
刹那、背後で鋭い音が響く。振り返ると、不死鳥の背中に立つアークが、刀身のない刀――ナナシを横薙ぎに振って、俺を狙った青き羽の刃を斬り飛ばした。
たった一振りですべての羽が真っ二つになり、ゆらゆらと力なく地面へと落ちていく。その様子を眺めていると、今度は金色の閃光が走り、アークを襲う羽を切り裂いた。
視線を上げると、アークと背中を合わせる形で、金色の八翼をはためかせたサラが真紅の神剣レーヴァテインを構え、立っていた。
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