263 蒼炎の不死鳥、救いを求める瞳
バハムートが槍から本来の姿――竜へと戻り、白銀の翼を喰らい尽くした。
俺は食あたりを起こさないかと心配したが、バハムートは神炎で浄化しただけで、何も食べていないと、思念を飛ばして伝えた。
安堵の息を吐く俺のもとに戻って来ると、再びバハムートは槍へと変じ、静かに手に収まった。
だが、仲間を穢された怒りで、柄は熱を帯び、穂先はかすかに震えていた。
神槍バハムートを構えて六王へ駆け出そうとしたが、すでにアークとガリュウが、それぞれ深緑の翼と漆黒の皮膜翼と戦っている最中だった。
毒液で腐敗した深緑の翼は、葉を蘇らせようと、不死鳥の背中に張った根から力を吸い上げようと脈打ち始めた。
しかし、いち早く気づいたアークは、漆黒の皮膜翼を拘束していた魔糸を解除し、すぐに深緑の翼へと飛ばした。
魔糸は意思を持つかのように炎翼の火弾を掻い潜り、深緑の翼の根元に巻きつくと、アークは一気に引っ張った。
やがて、力を吸い取ろうとしていた深緑の翼に変化が起きた。
根元をしっかりと締めつけられ、不死鳥から養分を吸い取ることができず、腐りかけた葉は戻るどころか、枯れ落ちていった。
それでも抵抗する深緑の翼は、残りの葉を刃に変えて飛ばそうとした。咄嗟に俺は援護しようと駆け出した――。
直前、ガリュウが皮膜翼を掴んで、容赦なくへし折った。強引に曲げられた漆黒の翼。その先端の鉤爪も向きを変えた。
再び、深緑の翼に毒液が襲いかかる――と同時に、アークは魔糸を引いた。
次の瞬間、深緑の翼と漆黒の皮膜翼が向かい合い、毒液と葉の刃はすれ違い、互いの翼に直撃した。
同士討ちとなった二翼は、片方は枝のような翼の主軸まで腐食が進み、もう片方は鋭い刃に皮膜を切り刻まれてボロボロとなった。
もはや攻撃する力も残っていない二翼。ガリュウは不死鳥の背中に飛び乗り、漆黒の皮膜翼と深緑の翼の根元を掴んだ。
刹那、無数の火弾がガリュウを襲った。だが同時に、大粒の雹が降り注ぎ、それを尽く撃ち落とした。
振り返ると、ライデンさんが手をかざして魔法を発動していた。その隙にガリュウが四腕に力を込めて、二翼を一気に引き抜いた。
ブチィッ、と嫌な音が耳に届き、思わず眉を下げる。視線の先には、二翼を掲げるガリュウがいた。
彼は四本の腕で掴んだ二翼を放り投げると、枯れ果てた翼と引き裂かれた皮膜翼は、放物線を描いてアークのもとへと落ちてゆく。
アークは目の前に迫る二翼を見つめ、人さし指と中指を立てた――火遁の術だ。聖油を口に含み、二本の指先に火を灯して一気に吹きつけた。
部屋中に白き閃光が奔り、ボウォ――と煌々とした聖火が一瞬で二翼を燃やし尽くした。
跡形もなく消え去った二翼。その先には、本来の姿に戻りつつある不死鳥の姿と、雹に撃ち抜かれる炎翼の姿があった。
◆
残りは炎翼のみとなった。三つの翼から解放された不死鳥は、緋色の体に戻りつつあった。
さすが不死を司る鳳。その生命力は無限。すぐに力を取り戻して真紅の炎を纏った。一方、炎翼は力を失ったのか次第に小さくなっていった。
やがて蒼炎の不死鳥は本来の姿――紅蓮の鳳へと変貌し、炎翼は青い小火のような小羽となった。
その光景を見て、全員が勝利を確信した瞬間、俺だけは胸がざわつき、大声を叫んでいた。
「全員、用心しろ! サラ、すぐに防御魔法を展開してくれ!」
刹那、青い光が部屋中に満ちた。ゆっくりと目を開く。そこには再び蒼炎を纏った六翼の鳳の姿があった。
驚愕するが、表情には出さない。目の前の蒼炎の不死鳥を見据えながら、仲間を確認する。
サラの防御魔法のおかげで、全員無事だった。仲間たちの足元には魔法陣が浮かび、そこから伸びる光の円柱に守られていた。安堵の息を吐き、周囲を見渡す。
広く豪奢だった王の間は青く凍り、装飾品には大量の霜が降りていた。静かに魔法陣から出ると、光の円柱は消えた。
油断なく踏み出した瞬間、ザクッと足元の霜柱が潰れる。一瞬で氷の世界へと変わった玉座の間。蒼い炎翼は熱を奪い、燃え続ける。
不死鳥の背後にいるアークに声をかける。
「おい、アーク。六枚の翼に違いはあるか? どれが炎翼なのか判断できそうか!?」
その言葉にアークは眉を下げ、首を横に振った。
「すいません、わかりません。というより、全部違うと思います。あいつは青い小羽になった瞬間、不死鳥の肉体に潜り込みました」
戦いの最中にもかかわらず、俺は額を押さえてしまう。油断なく観察していたはずだったが、相手のほうが一枚上手だった。
弱体したと見せかけ、不死鳥の体内に潜り込むために小さくなっていただけだった。あのとき、一気に攻めていれば――と後悔する。
「ライデン、今は余計なことは考えるな。顔を上げろ! それよりもあいつをどうやって倒すか考えろ!」
ガリュウが足元に視線を落としそうになる俺に檄を飛ばした。苦笑いする。年下に励まされるとは、情けない。
だが、ガリュウの言葉は正しい。後悔しても変わらないし、反省しても前には進めない。
(ただ勝つことだけを考えろ!)
そう自分に言い聞かせ、蒼炎の不死鳥をじっと見つめる。六翼はすべて青く燃えている。はためくたびに周囲の熱を奪い、冷気へと変える。
自らが燃えるために熱を吸収し、周囲を凍らせる。まさに地獄の炎だ。俺は蒼炎を目がけて、水球を飛ばした。
ジュッと蒸発した直後、霜となり霧散した。一瞬で熱し、その熱を一気に奪った。でたらめな現象にため息をつく。
試しに火球を飛ばすと、蒼炎に吸収されて勢いが増し、周囲の気温が少し下がった。自然の摂理も何もない。ただ笑うしかなかった。
そんな俺をまっすぐ射抜く六翼の不死鳥。まだわずかに意識があるようだ。刹那、悲しげな気配を滲ませ、小さく鳴いた。
なぜ俺に助けを求めたのか分からない。だが、第3師団は救援を求められれば、敵国にも向かう。それが誇りであり、創設から守られてきた誓いだ。
俺はその師団の団長だ。蒼炎の不死鳥を真っすぐ見つめると、全員に指示を飛ばし、走り出した。
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