262 寄生の四翼、白銀の翼を喰らう竜
ガリュウの号令で全員が役割を果たすために動き出した。だが、それと同時に不死鳥にも変化が生じる。
六翼――それぞれが形を変えていく。
漆黒の皮膜翼は先端に鉤爪が生え、緑色の翼は羽が青葉へと変わった。ほかにも白銀の翼は霜を纏い、紅蓮の翼は炎と化した。
すべての翼の変化が完了すると、それぞれの翼が意思を持ったかのように攻撃を始めた。
漆黒の翼は鉤爪からどす黒い液体を放ち、触れた物を腐らせる。深緑の翼は葉を刃に変えてすべてを切り刻もうと襲いかかった。
加えて氷塊と火球の砲撃が加わり、苛烈な猛攻となる。
スカイとガリュウは攻撃よりも防御に専念し、丁寧に回避していく。たまに危険なときもあるが、フォルテは銃でその攻撃を撃ち落とし、逸らしていた。
おかげでじっくりと紺碧の不死鳥を観察することができた。隣に立つアークも真剣に見つめ、ぶつぶつと呟いている。
翼が変化してから五分ほど経ったころ、俺はあることに気づいた。六翼の中で攻撃しているのは四つだけ。残り二翼は激しく動いているが、攻撃はしていなかった。
狙うべきはあの二翼か、猛攻を続ける四翼か――判断がつかない。逡巡する俺にアークが声をかける。
「ライデンさん、あの攻撃しない二つの翼ですが、大きさこそ違いますが、同じ形をしていませんか?」
その指摘で俺も気づいた。ほかの四翼と違い、形は変化したが、強化されたというより、弱体化して萎んだ印象だ。
とくに右側の翼は、弱々しく枯れ細っていた。その上に生える漆黒の皮膜翼と白銀の氷翼に力を吸い取られている――そのように見えた。
「なるほど、たしかにな。激しく動いているが、あれはほかの翼に引っ張られているだけだな。ならまずは、あの二翼を狙うか?」
「いいえ、狙うべきは攻撃的な異形の四翼です。おそらくですが、あの二翼は不死鳥が持つ本来の翼です。残りの翼は、後から付けられたものだと思います」
確信めいた物言いに首を傾げる。まだ観察を始めて十分程度――わずかな時間だ。訝しげに見つめると、アークは肩をすくめた。
「ライデンさん、六王の翼の付け根を見てください。一番下の細く小さくなった二翼には違和感がないけど、残り四翼は不死鳥に根を張り、寄生しているように見えませんか?」
アークが指さした四翼の付け根からは、いくつもの太い管が伸び、不死鳥の背に突き刺さり、脈打っていた。
――納得する。本来の不死鳥は、生命力に溢れる真紅の炎を纏っている。だが、目の前に立つ六王は蒼炎に身を包み、熱さも命の波動も感じない。
おそらく寄生された四翼に力を吸い取られているのだ。
とくに右側の翼には死臭漂う皮膜翼と凍てつく白銀の翼。不死の炎を生み出す不死鳥との相性は最悪だ。衰弱するのも頷ける。
非情で残酷な仕打ちに怒りが込み上がる――そのとき、四翼に支配された不死鳥が苦しげに鳴いた。
俺は決断する。狙うべきは二翼でも不死鳥でもない。大剣を背中から抜き放つと大声で叫んだ。
「アークは深緑の翼、スカイは白銀の翼を相手しろ。ガリュウは漆黒の皮膜翼で、俺は炎の翼だ。フォルテは全員の援護。サラは万が一に備え、防御魔法の準備をしておいてくれ!
――ただし、誰かが傷ついたなら、すぐに詠唱を破棄して治癒魔法に切り変えろ!」
部屋中に俺の声が響く。
刹那、四翼の支配から不死鳥を解放するため、全員が武器を構え、一斉に動き出した。
◆
ライデンさんが叫ぶと同時に、スカイがすぐに動き出した。いい師弟関係だと、思わず口元が綻ぶ。
スカイは神槍バハムートを構え、猛烈な吹雪と氷塊を放つ白銀の翼に突っ込む。次第に近づくにつれ、ほかの三翼もスカイを標的に絞り、攻撃を仕掛けてきた。
その光景を見て、慌てて俺とガリュウも四翼に支配された不死鳥に向かって駆け出した。
直後、乾いた破裂音が耳に届き、前方に紫電が駆け巡った。それは炎弾や葉の刃、それに漆黒の毒液を尽く燃やし、砂塵と化した。
フォルテの援護のおかげで、俺たちは不死鳥のもとまで無事に辿り着くと、すぐにスカイが攻撃を仕掛けた。
スカイは跳躍すると、神炎を帯びた刺突を繰り出した。
白銀の翼を目がけて伸びる神槍バハムート。穂先から発せられる神炎は勢いを増してスカイを包み込み、氷の弾幕から彼を守った。
氷塊も吹雪も、神炎を纏ったスカイには届かない。ほかの三翼も彼を阻止しようと攻撃を仕掛けるが、俺とガリュウがそれを邪魔する。
俺は手甲から魔糸を飛ばし、漆黒の皮膜翼に絡めて思い切り引っ張ると、鉤爪は向きを変え、深緑の翼に毒液を吐いた。
多くの青葉が漆黒の液体を浴びて腐り、悪臭が漂う。ボロボロになった葉は、刃に変じることができない。
その隙にガリュウは一気に炎の翼に詰め寄ると、四腕を振り上げ、神気を帯びた拳を叩き込んだ。
ガリュウの拳は実体を持たない炎翼を打ち砕いた。神速の連撃は四つの穴を穿ち、炎翼を霧散させた。
しかし、すぐに炎翼は不死鳥から力を吸収して蘇る。だが、そのわずかな時間で十分だった。
スカイは体に帯びた神炎を穂先に戻し、ひとつに束ねて集中させた。刹那、神槍バハムートは赤く輝き、竜の顎へと変わった。
紅蓮の竜撃は、白銀の翼の付け根を噛み千切り、不死鳥の肉体から切り離した。宙を舞う翼――再び不死鳥に戻ろうと、触手を伸ばす。
バンッ――と炸裂音が轟く。フォルテが放った雷弾は、触手をすべて焼き尽くし、白銀の翼を吹き飛ばした。
もはや不死鳥への帰還は不可能。白銀の翼は最後の足掻きとばかりに、すべての冷気を放出した。
その瞬間だった。バハムートが竜へと戻り、冷気もろとも白銀の翼を飲み込んだ。
そして、仲間である聖獣・不死鳥を支配された怒りに滲む瞳で、残り三翼を鋭く睨むと――。
六王を縛る三つの翼――漆黒、深緑、獄炎が、かすかに震えたように見えた。
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