260 六翼の紺碧、青炎の不死鳥
いまだに痛みが残る頭を押さえながら六王の門に触れると、かすかな摩擦音とともにゆっくりと開いた。
これまで以上に豪奢で広大な玉座の間に全員が息を呑む。そして、奥には青き炎をまとった鳳が床に寝そべっていた。
――それは紺碧の不死鳥。圧倒的な存在感に押しつぶされそうになる。腹に力を込め、一歩踏み出すとライデンさんが並び、ともに歩き出した。
「ライデンさん、初めて見ますが、あれは不死鳥でいいんですか?」
「あぁ、姿形は似ているな、アーク。だが、不死鳥は聖獣――魔物ではない。どうも嫌な予感がする」
ライデンさんはまっすぐ不死鳥を見据えて答えた。聖獣という言葉に、スカイの後ろを歩く青い雄牛に姿を変えた牛頭天王に視線を向ける。
かつて牛頭天王はその身を呪鎖に拘束され、操られていた。あの不死鳥も呪いの類を施されているのかもしれない。
しかし、レオン陛下やベアモンドさんが討伐できなかった相手だ。もし本人の意思とは関係なく、ここを守護させられているとしても同情も手加減もできない。
俺も紺碧の不死鳥をじっと見つめ、慎重に歩を進める。
やがて部屋の中央に差しかかったとき、背後の扉が閉まり、不死鳥はおもむろに起き上がった。
その姿に驚愕する。蒼炎に身を包み、尾の先は青く揺らめいている。そして、その巨体からは六枚の色も形も異なる翼が生えていた。
六翼の不死鳥は俺たちをじっと見る。直後、すべての翼を広げ、はためかせると、熱風や冷風――様々な風を起こし、叩きつけた。
感覚が狂う。熱さと寒さ、腐臭と芳香、邪気と清気――相反するものが混じり合い、五感を刺激して混乱させる。
視界が歪む中、六枚すべてが違う属性を支配している――そんな嫌な予感が背筋を撫でた。
思わず膝をつきそうになる俺をライデンさんが支える。
「大丈夫か、アーク。不死鳥と思っていたが、どうやら違うようだな」
「……そうですね。もしくは、不死鳥に何らかの改造や手術を施しているのかもしれません」
ライデンさんは俺の顔をじっと見つめ、苦笑する。
「確かにその可能性もあるな。牛頭天王がそうだったことを忘れたよ。さすが、アークだ」
俺は仕方ないことだと、ライデンさんに笑顔を返す。ここに辿り着くまで、強敵との戦いの連続だった。
すべてを覚え、把握している者など一人もいない。俺は首を横に振り、尋ねた。
「それよりもライデンさんのほうがさすがです。あの不快で不気味な風を受けて平気なんて」
「ああ、別に平気ってわけじゃない。あの不死鳥が立ち上がった瞬間、慌てて風魔法を発動しただけだ。すぐに風を起こしたんで、俺ひとりしか防げなかったが」
やはり第3師団の団長だ。一人分とはいえ、無詠唱で風の防壁を一瞬で展開するなんて――その技量とひと時も油断を見せない姿勢に舌を巻く。
尊敬の眼差しを向けると、肩をすくめられる。ライデンさんにとっては当たり前のことだったみたいだ。
「……それでライデンさん。あの六王ですが、一人で倒すつもりですか?」
その言葉にライデンさんは長いため息をつき、額に手を当てる。
「はぁ〜、何を訳の分からないことを――。なんで俺があんな化け物をひとりで相手しないといけないんだ?」
「い、いえ、だって、これまでずっとひとりで倒してきたので、ライデンさんも同じなのかと思って」
ライデンさんに睨まれ、俺はしどろもどろになる。五王まですべてひとりで討伐してきた。その流れでライデンさんもひとりで戦うと思った。
そんな俺を見て、ライデンさんはもう一度ため息をついた。
「ふぅ。俺はな、普通の人間だ。天使の力もなければ、神獣の配下もいない。ましてや聖獣に変身もできない。た、だ、の人間だ。お前たちと一緒にするな」
ぐうの音も出なかった。フォルテやサラ、ガリュウにスカイ――彼らに影響され、自分の力が規格外ということを忘れていた。
感覚が狂っていたことを反省する。戦闘もそうだが、遺跡探索で重要なことは、できるだけ危険を避けて安全を確保することだ。
すでに遺跡も中層を過ぎている。空間魔法で戻るには距離が遠く、大量の魔力が必要だ。戦闘の最中では発動することも難しいだろう。
油断ではないが、状況をちゃんと把握していなかった。敵が目の前にいるのに視線が下がり、足元を見つめる。
「気にするな、アーク。お前も完璧じゃないと分かって、俺は安心したよ。六王には全員で当たるからな。まだ距離は十分あるが油断するな」
ライデンさんは俺の肩を軽く叩き励ますと、振り返って全員に指示を飛ばした。
「まずは俺とアークが正面から突っ込む。サラとフォルテは援護してくれ。あと、ガリュウとスカイはその隙に後ろに回り込め!」
その瞬間、一斉に皆の表情がより真剣なものへと切り替わった。
フォルテは銃を抜き、サラは杖を両手で持ち直す。ガリュウは牛頭天王の背に荷物を乗せて身を軽くし、スカイは神槍バハムートを構えた。
その様子を見届けたライデンさんと俺は頷き合うと、颯爽と六つの翼をはためかせる紺碧の不死鳥を目がけて走り出した。
次第に近づく六王を前に、レオン陛下やベアモンドさん、それに彼の亡き妻――リリーナさんのことが胸をかすめた。
――さあ、六王戦、開始だ。
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