259 破邪の一撃と隊長の鉄拳
翼をはためかせて腐臭をばら撒く不死の竜騎士を睨み、槍へと変化した神竜バハムートを構えた――そのとき、アークが笑みを浮かべて近づいてきた。
――どうやら、また何か思いついたらしい。ため息を堪えてアークを見やる。
「スカイ、ちょっとこっちに来てもらっていい? 試したいことがあるんだ。二王の領域のときはライデンさんに怒られたけど、今度は大丈夫だと思うんだ」
その言葉で察する。アークは俺との合体技――螺突赫殲を、聖油で行おうとしている。
案の定、アークはライデンさんたちから離れて、聖油が入った竹筒を取り出して手招きした。俺は肩をすくめ、静かに歩み寄りながら思考を巡らす。
――確かにすべてを浄化する聖火なら、酸欠も煙の毒も心配はない。だが、ライデンさんには一言かけたほうがいい。
俺が注意しようと口を開きかけたとき、ブラックドラゴンゾンビ――漆黒の死竜が咆哮を上げ、威嚇した。
アークは猶予がないと判断し、ライデンさんの許可を得ることなく、神槍バハムートの穂先に聖油を垂らした。
思わず舌打ちをするが、たしかに時間がない。俺はすぐに水魔法を施し、聖油を穂先に薄く纏わせて、腰を落として刺突の構えになる。
アークは隣に立ち、両手をかざして魔法で穂先の聖油を回転させる。次第に勢いを増し、大渦のようになる聖油。
俺とアークの視線が重なった――その瞬間、渾身の力で槍を突き出した。
バハムートの力が上乗せされた螺旋の刺突は、想像を絶する勢いで不死の竜騎士を目がけて突き進んだ。
慌ててアークが火魔法を発動しようとしたとき、バハムートから神炎が迸った。それは聖油に着火すると、白く輝く神気を帯びた炎――神聖火となった。
聖火に神炎が重なり、ひとつに紡がれた破邪の一撃は、不死の竜騎士と漆黒の死竜、二体を飲み込み、強烈な光を放って弾けた。
すぐに目を閉じたが、それでもまぶしさは消えず、視界が白く霞む。
やがて視力が戻り、周囲を見渡す。広大な部屋は一瞬で浄化され、腐臭はすべて払われて静寂に包まれていた。
そして、不死の竜騎士と漆黒の死竜は、巨大な門に影だけを残して跡形もなく、すべて消えていた。
◆
突然の閃光に目を閉じた。
何が起きたか分からず、急いで目を開ける。だが、光で網膜が焼かれ、まだよく見えない。
拳を突き出して構えるが、まったく敵の気配を感じない。それどころか、さっきまでの鼻を突く腐臭は消え、清らかな空気が漂っている。
――まるで神殿にいるようだ。
だが、油断は禁物だ。四つの耳を立て、警戒しながら周囲の音を拾う。そのとき、ライデンの怒声が届く。
「おい、アーク、スカイ! お前たちは俺の言っていたことを聞いていたのか! あの技を使うときは必ず伝えろ――そう注意したはずだ!」
聴覚を強化していた俺はライデンの声に驚き、両手で耳を押さえて獣耳を畳み、再び目を閉じた。
やがて落ち着き、静かに瞳を開けると、視界は戻り、深々と頭を下げるアークの姿が目に映った。
「すいません、ライデンさん。俺がスカイを強引に誘ったんです。聖油の扱い方に慣れてきたので、大丈夫かなと思って。全部、俺のせいです」
両腕を胸の前に組み、頭を下げるアークを睨むライデン。スカイがすっと前に出て、隣に並んで頭を下げた。
「いえ、悪いのは俺もです。確かにアークにも責任はありますが、俺が協力しなければ、あの技は完成しません」
アークとスカイ――二人はさらに深く頭を下げる。その光景に俺は苦笑いを浮かべ、三人のもとに歩み寄る。
「ライデン、お前の気持ちも分かるが、ここは俺に免じて許してくれ。正直、六王と戦う前に強敵を犠牲なく倒せたことは大きい。
アーク、スカイ、お前たち、魔力は大丈夫か?」
その言葉に二人は顔を上げて同時に頷く。その様子を憮然とした表情で見つめるライデン。俺も頭を下げる。
「悪いな、ライデン。スカイを教育する一環で、この遺跡の探索に参加させたのに、その邪魔をして」
アークとスカイは、慌てて俺に倣って再び謝罪する。その様子にライデンはわざとらしく大きなため息をついた。
「ふぅ、分かった。このパーティーのリーダーはガリュウだ。指揮権は俺にあっても、最終的な判断はガリュウがする。リーダーの指示に従おう。
だが、指揮官の注意を無視した罰は受けてもらう。二人とも歯を食いしばれ」
ライデンはそう言いながら拳を握り込んだ。二人とも頭を突き出し、じっとしている。
俺だけが頭を上げた――そのとき、ゴン、ゴンと鈍い音が二回響き、両手で頭を押さえるアークとスカイの姿があった。
どうやら、第3師団名物の鉄拳制裁が行われたらしい。天使の力を持つ二人でも、ライデンの拳はかなり効いたようだ。
いまだにうずくまる二人に、苦笑いを浮かべたサラが治癒魔法を施そうと駆け寄っていった。
情けない姿を見せるアークとスカイ。だが、六王戦でも、この二人がいれば必ず道は開ける。
そう確信し、不気味なほど静かにそびえる六王の門を見上げた。
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