258 聖火の息吹と不死竜騎士
結局、アークが先頭に立ち、石櫃から現れるアンデッドたちを討伐している。ライデンさんもまだ聖油の使い方に慣れていないため、仕方なかった。
ライデンさんが斥候を務め、敵が現れたらアークが討伐する。自然とそのような流れになった。
私たちは順調に遺跡の中を進んでいく。
六王の領域は、切り取られた大きな石が積み上げられ、囲われた墓所だった。それは真っすぐに奥まで続き、装飾もなく、罠すらなかった。
ただ進むにつれて道幅は広くなり、左右に並ぶ石櫃も大きくなった。そして、そこに眠る魔物たちも、大型の強力なものになっていった。
今もアークが聖油を口に含み、聖火の息吹をデスナイトの軍団に放ち、一瞬で浄化している。
人差し指と中指を立て、その先に小さな火球を灯して勢いよく聖油を吹きかけている。その姿は竜が炎を吐く姿そのものだ。
加えて発動している魔法は、初級の火と水、それと肺活量を上げるための強化魔法だけ――消費する魔力はごくわずかだった。
上位のアンデッドであるデスナイトを一瞬で浄化する聖火。それを生み出す代償としては、無に等しかった。
「……火遁の術でしたか。相変わらず、アークは面白いことを思いつきますね。忍びをしていたお母様も知らないのではないでしょうか」
灰となり霧散するデスナイトたちを見つめながら呟くと、水で口をゆすいだアークが振り向く。
「そうかな、知っていると思うよ、フォルテ。忍びの中でも基本的な術だし――って、昔読んだ本に書いてあった!」
少し動揺する彼に苦笑いを浮かべる。こちらも変わらずだった。嘘が下手だ。
普段は冷静で冷徹な判断ができるアークだが、親しい相手に対して嘘をつくのは苦手だった。
――できないのではなく、したくない。そんな風に見えた。
じっと見つめる私にしどろもどろになるアーク。頭を掻き、目を泳がせる姿が愛しい。思わず抱きつこうとしたとき、肩を掴まれ、ぐいと引き戻される。
「フォルテ、今は探索中よ。緊張感を持って。それに例の勝負は十王の遺跡の探索が終わってから――って約束したでしょ」
振り返るとサラの殺気が籠った視線と重なり、自然と睨み合いになる。そんな私たちにアークは首を傾げ、ライデンさんたちは深いため息をついた。
直後、墓所の奥から雄叫びが轟く。全員が怨嗟を含む呪詛のような咆哮に息を呑む。
この先にいるのは六王か、それとも玉座の門を守る守護者か――どちらにしても強敵であることは間違いない。
緊張が走る中、ライデンさんは皆に告げた。
「フォルテ、サラ。じゃれ合うのは終わりだ。どうやら相手はこちらに気づいているらしい。アーク、念のためポーションを飲んで魔力を回復させておけ。
準備ができたら、すぐに向かうぞ!」
全員が頷き、表情を引き締めた。私はサラに頭を下げて、フォルスターから銃を抜くと、サラから謝罪の言葉が届く。
お互いに頷き合うと、ライデンさんを先頭に静かに歩き出した。
◆
フォルテとサラがアークを巡って睨み合う。その光景を見て呆れてしまう。
この領域を支配する六王は、当時最強と謳われたレオン陛下たちでも討伐できなかった魔物だ。しかも試練の掟で、どのような魔物だったか分からず、謎のまま。
余裕があるのはいいが、油断は禁物。俺はため息をついた――そのとき、通路の奥からおぞましい咆哮が上がる。
刹那、二人の表情が変わった。フォルテはフォルスターから銃を抜き、サラは杖を構え、鋭い眼差しを通路の奥へと向けた。
どうやら油断はしてなかったらしい。ひとまず安心し、念のために全員に注意を促す。やがて全員の準備が整い、俺は足早に歩き始めた。
――――――――――――
アークがデスナイトを討伐して以降、通路に並ぶ石櫃は開くことなく、魔物の気配もなかった。
だが、身を潜めて背後からの奇襲を狙っている可能性もある。俺は殿を務めるガリュウに警戒するよう告げ、慎重に進む。
次第に怨嗟の雄叫びが大きくなり、緊張で手に汗が滲んでくる。ほどなく通路は終わり、広大な部屋が見えてきた。
緊張は最大限に高まり、ごくりと唾を飲み込む。
俺たちが静かに部屋に入ると、そこには巨大な門が屹立し、上空に黒いドラゴンがこちらを睨んでいた。
全員が、雄叫びの主があのドラゴンだと察する。黒い翼は所々に穴が開き破れ、鱗には光沢がなかった。
――ブラックドラゴンゾンビだった。そして、その背にはデスナイトが騎乗している。門の守護者である可能性が高いが、油断はできない。
初めて見る変異種。不死の竜騎士――デスドラゴンライダーは錆びた槍を構え、窪んだ眼窩でこちらを見据える。死竜は翼を羽ばたかせ、腐臭を叩きつけた。
悪臭が鼻を突き、顔を歪めた――そのとき、白き閃光が迸った。振り返ると、スカイが槍を突き出し、隣にアークが立っていた。
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