257 聖火の発見、聖女の誘惑
白く燃え盛る炎を前に唖然となる。
あれは神が最初にこの世に灯した聖なる火。まだ人の住めない汚れた地――人界のすべての不浄を燃やし尽くしたと聖書に記されている。
まさか堕天使サタナルの宿主――フォルテが発現させるとは思わなかった。いや、恐らくアッくんが浄化を頼んだ竹筒の中身こそが聖火の源だ。
全員の視線がアッくんに集まる。
白き炎の揺らめきが白銀の髪を幻想的に煌めかせ、私の目を奪う。思わず視線を下げると、今度は星空のような瞳に吸い込まれそうになった。
――やっぱりアッくんは素敵です!
私が聖火を見つめるアッくんに見惚れていると、フォルテが神銃をフォルスターに収めて歩み寄る。
「アーク、もしかしてその中身は油ですか?」
その言葉に全員が息を呑む。スカイも牛頭天王との戦いで、槍の穂先を油で覆い、業火の刺突を放っていた。つまり、あの聖火は――。
「正解、フォルテ。もしかしたら、と思ってサラに頼んだけど予想通りになってよかった。聖水を水魔法で増幅できるなら、油と火魔法でも大丈夫かなと思って。
サラが強力な浄化魔法を付与してくれたおかげだよ。ありがとう、サラ」
輝く漆黒の瞳で見つめられ、頬を染める。聖火にも驚かされたが、やはりアッくんのご尊顔のほうが凄いと改めて気づかされる。
もじもじする私を横目にライデンさんが尋ねる。
「つまり、その油――聖油を媒介に火魔法を使えば、さっきみたいな白い炎になるってことか?」
「ええ、そうです。あと水魔法で油も増幅できるので、水と火の複合魔法なら、さらに強力な魔法になると思います」
ライデンさんは大きくため息をついた。遺跡の探索の途中で、アッくんがまた、とんでもない発見をしたのだ。
ライデンさんに同情する。この探索が終わったら、聖火について国や教会に報告しないといけないだろう。
もしかしたら私にも説明の要請がくるかもしれない。
――うん、なるべく早く遺跡を踏破し、すぐにアッくんとどこかに隠れよう。せっかくの春休みを教会の業務で潰させるわけにはいかない。
そう固く決意すると、ライデンさんが三度、ため息をつき、浄化された通路を歩き始めた。
その背中を見送り、首を傾げるアッくん。やはり自分がどんなすごい発見をしたのか――まったく自覚していなかった。
私も、もう一度ライデンさんに同情すると、アッくんの肩に手を置いて、後を追うよう促した。
◆
アークがとんでもない発見をした。聖火なんて聖書やおとぎ話でしか出てこない幻の存在だ。
もし本当に再現できたと知れたら、各国が血眼になって奪い合うだろう。教会は、間違いなく重要秘匿事項として扱う。
これまで高名な魔導士や聖職者が、何度も発現させようとして失敗してきた。彼らは聖と火の複合魔法が答えだと信じ、挑戦してきた。
しかし、聖魔法の浄化を付与すれば、火魔法自体が浄化され、威力が落ちるだけで、聖火と呼ばれるような効果はなかった。
アークは聖と火の間に油を挟むことで、それを成功させた。分かってみれば単純だが、人類が誕生してから誰もそれを思いつかなかった。
十王の遺跡の探索が終われば、少し休暇を貰おうと思っていたが、難しそうだ。とりあえず、ガロン陛下と教会には報告しないといけない。
ため息をつき、アークを半目で睨む。
「どうしたんですか、ライデンさん。そんな怖い顔して? なにか危険な気配でもありましたか」
アークは俺の視線の意味が分からず、真剣な表情で周囲を警戒する。もう一度大きくため息をつくと、声が届く。
「ライデンさん、教会のほうは私が春休みが終わり次第、報告するので、ババルニア王国への報告だけで十分ですよ。それに知っているのはここにいる六人だけ。黙っていれば、すぐに報告する必要はないのでは?」
眉を曇らせ、首を横に振る俺にサラが提案してきた。その内容は的を射ていた。たしかに急いで報告する必要はない。俺たちが黙っていれば問題ない。
遅れて報告するメリットとリスクをすぐに計算する。
――最近ずっと働きづめで、心身ともに疲弊している。このまま仕事を続ければ、いずれ大きなミスを犯し、団員たちを危険に巻き込むかもしれない。
思考の海に沈む俺に再びサラが声をかける。
「それにライデンさん、報告が遅れた理由なんて、正確性を高めるために検証が必要だったと言えばいいんですよ。その検証もこの六王の領域の探索中に済ませばいいんです」
休暇が欲しい俺は心が大きく揺らぐ。聖女のくせに悪女のような言葉を囁く。
「それに婚約したばかりのマリアさんと過ごす時間は大事だと思いますよ。この探索が終わったら、ベストレア獣王国でお土産でも買って会ってあげれば、大変喜ばれると思います」
とどめの言葉を放たれ、俺は頷くしかなかった。たしかに仕事が忙しく、年越しパーティー以降、マリアと会っていない。
本当に聖女とは思えない。悪魔の誘惑――その言葉が頭をよぎった。だが、確かに休暇は必要だし、聖火の報告は慎重にしたほうがいい。
そう自分を説得すると、いまだに真面目に周囲を警戒するアークの頭を軽く叩き、奥へと歩き出した。
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