256 静かなる指揮、白き聖火
木造の本堂では焚き火はできない。ランタンを囲むように全員が座る。その淡い光だけが、皆の顔をぼんやり照らしていた。
わずかに緊張がほぐれ、俺は現状を確認する。
「おい、アーク。怪我はないか? あと魔力のほうは大丈夫か?」
「はい、ライデンさん。問題ないです」
アークはなるべく魔法を使わず、五王の領域を探索し、最後は魔力ではなく神気を使い、相手の攻撃を利用して倒したと説明した。
思わず俺は眉をひそめる。魔力を制限して挑む遺跡ではない。本来なら油断するな、と注意するべきだが、完璧に攻略されたので何も言えない。
スカイも対抗して、単独行動に出ないか心配になる。
とはいえ、アーク以外の全員は万全の状態だ。ここに着くまで戦うことなく、罠に苦労することもなかった。
「ならいい。安心した。なるべく早く休憩を切り上げられそうだな。次はいよいよ六王の領域だ。ガリュウの父――レオン陛下でも討伐できなかった相手だ。なるべく時間をかけ、慎重に進みたい」
全員を見渡すと、皆が同時に頷く。だいぶ連携がとれるようになった。思わず、口角が上がる。
ふと、ガリュウを見やる。どうやら緊張しているようだ。両手を強く握りしめ、わずかに歯ぎしりをした。
「ガリュウ、熱くなるのはいい。だが、お前はこのパーティーのリーダーだ。静かに心を燃やすことを覚えろ」
少し難しい言い方だったが、ガリュウは目を見開き、深く頷いた。どうやら伝わったらしい。
「なら、三十分後に出発だ。今度は俺が斥候をやる。アークは俺の補助に回ってくれ。何か気づいたら、すぐに教えろよ。期待している。あとはいつもと同じだ。ガリュウが殿、スカイは真ん中で遊撃。サラとフォルテは、すべての補佐だ」
再び全員が頷くと、俺は希釈したポーションをアークに渡し、目を閉じた。
そして、六王の領域の探索に向け、考え得る危機的状況を頭の中で想定し、対策を講じていった。
◆
ライデンさんを先頭に六王の領域に入った。そこは暗く、じめじめとした空気が漂う墓所だった。
広大な通路は大きく切り取られた石に囲まれ、両脇には石櫃が等間隔で奥まで並べられていた。
かすかに石櫃の中から石を掻く音やうめき声が聞こえる。それは生者を恨む死者が奏でる怨嗟の演奏のようだった。
「サラ、悪いが、この水を浄化して聖水に変えてくれ。どうやら、ここは死者が支配する領域らしい」
ライデンさんがサラに水筒を渡した。まだ石櫃から死者が出る気配はない。
「わかりました、ライデンさん。ですが、直接、私が魔法で浄化したほうが早くないですか?」
その言葉にライデンさんは首を横に振った。
「いや、サラには魔力を温存してもらう。六王戦は激しい戦いになる。必ず負傷者が出るはずだ。治癒魔法は俺たちの生命線だ」
彼女も納得する。小さく頷き、水筒を受け取ると浄化魔法を施した。その様子を黙って見ていたアークがサラに声をかける。
「ごめん、サラ。試してほしいことがあるんだ。これも浄化することはできる?」
彼が持つ竹筒をじっと見る。たしかあれは、レーヨンの町でアークが準備していたものだ。
全員が興味深げに見つめる。サラが受け取り、浄化魔法を発動した。直後、竹筒はほのかに光り、すぐに元に戻った。
「たぶん、うまくいったと思うわ、アッくん。でも、その中身は何?」
皆の視線を集めるアーク。彼は肩をすくめ、私に竹筒を手渡した。
「フォルテ、その中身を魔弾の中に入れて撃ってみて。付与するのは火魔法で頼むよ」
私は黙って頷き、神銃アクケルテをフォルスターから抜き出し、魔法で魔弾を作ると、竹筒を傾ける。
とろりとした液体が一滴落ち、魔弾に吸い込まれる。私はアークの狙いを理解して、口元が綻ぶ。
「すいません、ライデンさん。ちょっと実験したいので、下がってください」
そう言ってアークは初級の風魔法で、目の前に並ぶ石櫃の蓋を吹き飛ばした。その瞬間、包帯に巻かれた死者――マミーたちが起き上がる。
やがて風は収まり、古びた布と腐臭が一気に通路に広がった。
「悪いけど、フォルテ。あいつらを撃って」
私は無言で頷き、銃口を向けると、そっと引き金を引いた。
バンッと火花が散り、一体のマミーに直撃する。刹那、魔弾が炸裂し、白き炎が迸った。
白炎に包まれ、苦しみ藻掻くマミー。その炎は周囲のマミーも巻き込み、次々と燃え広がった。
やがてすべてのマミーが白炎に包まれると、一斉に輝き出し、すべてを焼き尽くした。
一面に広がる白き獄炎。しかし、熱風は起きず、温かな風が舞い、周囲を浄化していった。
その光景を全員が呆然と見つめる中、隣に並ぶサラが呟いた。
「……うそ。あれは聖火?」
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