253 熱衝撃の刻、三面巨人崩落す
炎を吹きつけられた阿修羅。だが、その表情は変わらず、怒り、悲しみ、そして悟りを浮かべたままだった。
――無機質で変わらぬ顔。
痛覚がないと察し、自然と口角が上がる。五感のうちひとつでも欠けた相手なら、死角を突くのは容易。
俺は迫り来る巨大な拳を躱し、梁に巻いた魔糸を外すと、地面に降り立ち、水筒を放り投げた。
「氷塊の豪雨」
刹那、水筒が破裂し、魔力を込めた水が飛び散る。直後、それは霙となり、部屋中に降り注いだ。
大量の半凍りの雨粒は火遁で延焼した部屋を鎮火し、阿修羅の肩を一瞬で冷やした。
ミシリと音が上がった。火遁で熱せられた肩に大きな亀裂が走る。俺は予想通りの結果に、もう一度、口角を上げた。
――――――――――――
炎の息吹で阿修羅の肩を熱し、氷魔法で一気に冷やして破壊する――熱衝撃。ルキフェルとひとつになった俺にはその知識があった。
戦い始め、すでに左右一本ずつ腕を破壊して、さらにバランスが悪くなった阿修羅を翻弄する。
――このまま順調にいけば、仲間が合流するまでに倒せるかもしれない。俺はさらに攻撃を強めた。
火遁の術を使い、両手を自由にする。梁や柱に魔糸を飛ばして縦横無尽に移動し、六つの視線の死角に回り込んだ。
二度の氷魔法で濡れた梁や柱に延焼する心配はない。俺は遠慮なく業火を吹きつけた。
やがて左腕は高熱で真っ赤に変わる。直後、魔法で猛烈な霙を発生させて熱衝撃を与え、大きな亀裂を走らせる。
その瞬間、俺は阿修羅の肩に飛び降りると、亀裂にナナシを差し込み、一気に魔力を流し込んだ。
バキンッ――破裂音が鳴り響き、阿修羅の腕は床へと落ちた。
視線をナナシに移す。刀身は太く変化して、巨大なこん棒のような形になっていた。敵を滅するための銘無き剣は、俺が望む形へと変化していた。
ナナシを使いこなし始めた自分に満足して頷くと、入口の門が開き、ライデンさんたちが駆け込んできた。
◆
五王の玉座の間に入ると、アークが三面の青銅の巨人に炎を吹きつけ、宙を舞っていた。その姿に思わず目を見開く。
本来、魔法とは少なからず詠唱が必要だ。無詠唱でも発動させられるが、どうしても威力は弱くなる。
炎を吐くということは、つまり無詠唱だということ。それであれほどの威力を出せるとは信じられない。
昔、討伐したスレビア火山の主――老練のレッドドラゴンと遜色がないほどだ。背中に冷たい汗が伝い、実力の底が見えないアークを見つめる。
今も手甲から魔糸を伸ばし、蜘蛛のように移動しながら、青銅の巨人に業火の息吹を放っている。
アークは腕を振り回す三面の巨人を翻弄する。部屋のすべての空間を使って移動し、炎を目隠しに使い、死角を作る。
青銅の巨人も決して弱くはない。その打撃は鋭くて速い。腕を振るたびに強風が起き、床に散った木片を吹き飛ばす。
だが、アークの方が一枚も二枚も上手だった。戦士でも斥候でもない不思議な戦い方。だが、間違いなく強かった。
ホノカ殿下の故郷――東洋連合国の忍者に似ている。
ババルニア王国とは国交はなく、勘当同然で嫁いできたホノカ殿下から少し技を見せてもらった程度だが、間違いない。
どこで身につけたのかは分からない。だが今は、そんな詮索よりアークの援護が先だ。
軽く頬を叩き、気持ちを切り替えると、銃を構えるフォルテに声をかける。
「フォルテ、援護射撃できるか?」
彼女は眉をひそませ、首を横に振る。
「すみません、ライデンさん。アークの動きが速く、不規則過ぎて、誤射する可能性が高いです」
たしかにその通りだ。アークは三面の巨人を翻弄するために、絶えず変則的に動き回っている。
どうすべきか顎に手を当て、思考を巡らす。床には三本の腕が転がっていた。おそらくあの巨人のものだ。
集中できず、焦る自分に舌打ちをした。そのとき、床から衝撃が伝わってきた。視線を床に落とすと、三本だったはずの腕が五本になっていた。
――まさか、今の衝撃で残りも……?
急いで顔を上げると、そこにすべての腕を斬り落とされた三面の巨人が立っていた。
ここまで読んでくださってありがとうございます。
ブクマか★、どちらかだけでも入れていただけると励みになります<(_ _)>




