252 真紅の門、獄炎の口
全員が真紅の柱に囲まれた門の前に辿り着くと、ライデンさんは全員の息が整うのを待つ。中の様子が気になるが、焦りは禁物。
アークと約束した二時間が過ぎ、さらに出発から一時間――合わせて三時間。アークが五王と戦い始めて、どれほど経ったのか――。
深呼吸を二度して腰のホルスターから神銃アクケルテを抜く。ライデンさんは全員が武器を構えたのを確認し、そっと門を押した。
目に飛び込んできた光景に驚愕する。アークが三面の巨人を相手に部屋中を飛び回りながら戦っていた。
一瞬、飛翔魔法かと思ったが、彼は蜘蛛のように手甲から魔糸を飛ばし、柱や梁にぶら下がり、宙を渡っていた。
天使の力――神気は使わず、人間の持つ力のみで戦っている。そのこだわりは分からないが、アークの技術には舌を巻いた。
巨大な木造の部屋を見渡す。梁は二人分の高さを優に超え、柱間は広い。その中を縦横無尽に動き、三面の巨人の死角を突いて攻撃している。
狙うべきは関節か――アクケルテを低く構え、合図のタイミングを計るが、早すぎる。間違ってアークを誤射しかねない。
軽く唇を噛み、腕を振り回す巨人を睨む。両脇には腕の付け根のような跡がある。
右に一つ、左に二つ――計三つ。視線を落とすと、床に三つの腕が転がっている。おそらく巨人には五本の腕があったのだろう。
だが、その三本はアークが斬り落としたらしい。床に転がる腕はどれも金属のように冷たく、表面は青く艶やかだった。
◆
約束の二時間が過ぎ、まだ数分。ライデンさんたちが入ってくる気配はない。
ちらりと入口の門を見た俺は、目の前に屹立する青銅の神像――阿修羅へ走り出した。
全力で走りながら強制的に歩幅を変え、速度に緩急をつけると、わずかに上半身が、ぶれて揺らめく。
次の瞬間、阿修羅は合掌した手を解き、拳を振り下ろした。先ほどよりも鋭い打撃が、大気を裂いて迫る。
だが、絶えず速度が変わり陽炎のように揺れる走行法――暗駆で走る俺に、阿修羅はわずかに迷う。
――狙いがずれる。
すぐに足の裏に魔力を込め、魔法を施す。ゴムのように変化した床を思い切り踏み込み、跳躍する。直後、足元を青銅の拳が通り過ぎた。
ドゴンッ、と床が爆ぜて拳が突き刺さった。阿修羅が引き抜く前に、腕に着地してそのまま駆け上がる。
阿修羅は残りの腕で俺を叩き落とそうとするが、やはり暗駆のせいで正確に捉えられず、狙いが微妙に逸れる。
頭上から落ちる巨大な掌を躱すと、大きく揺れた。だが、足裏に力を込めて掴むように踏ん張り、耐えると、金属の冷たさが伝わる。
すぐに体勢を立て直して駆け出す。俺はナナシを下段に構え、刀身を発現させた。切っ先は下を向き、青銅の肌に突き刺さる。直後、一気に加速した。
キィーン――金属が摩擦する甲高い音が耳を劈く。だが無視し、さらに速度を上げると、そのまま阿修羅の眼前まで辿り着く。
目の前には憎悪で歪めた巨大な顔があった。口は大きく開いているが、呼吸はなく、生命の気配はなかった。
無機質に怒る阿修羅に圧倒されるが、迷うことなく首元に刃を突き刺すと、吸い込まれるように深く沈む。
そのまま一気に振り抜くと、首元は大きく抉れた。その瞬間、掌が轟音を上げて襲う。
咄嗟に天井に向かって魔糸を飛ばし、梁に絡ませると、素早く魔糸を巻き戻しながら跳躍し、上へと回避した。
足元から、バチンッと破裂音が届く。梁の上に立ち、見下ろすと、首元に手を当てる阿修羅の姿があった。
ゆっくりとその手を退ける。そこには傷跡がきれいに消えた艶やかな首があった。
驚愕し、思わず巨人の腕に視線を移すと、肘から肩に伸びた傷も、周りの金属が波打ち、溶けた蝋が寄るように埋まっていく。
手応えはあった。実際に傷もできた。だが、滑らかに動く金属の塊は再生してみせた。巨大な体に素早い動き。加えて自動回復能力。
――厄介極まりない相手だ。
だが、俺は笑みを浮かべる。久しぶりに使った忍びの技で感情が高ぶっている。それに、まだ出し切れていない。
――こいつなら、俺のすべての技を受け止めてくれるかもしれない。そう思った瞬間、梁から飛び降りると、懐から竹筒を取り出し、口に含んだ。
それは口内にとろりとした質感を広げ、まとわりついた。
阿修羅を目がけて落ちる俺は、鼻で息を吸い込み、火球を放つと――同時に、口に含んだそれを勢いよく吹きつけた。
瞬間、火球は業火へと変わる。
俺の口から吹きつけられた油は獄炎の息吹となり、阿修羅の肩を焼き尽くそうと襲いかかる。
久しぶりに使った火遁の術。炎を吹きつけながら俺は目を細めた。
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