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転生忍者は忍べない ~今度はひっそりと生きたのですが、王女や聖女が許してくれません~  作者: 黒鍵


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251 阿修羅五腕、欠けた一手

※おかげさまで10万PV到達。いつもありがとうございます!

 薄暗い通路を進む。入口とはまるで違う様相――血と焦げた匂いがこびりつき、息を呑む。


 あちこちで灯籠が倒れ、黒装束のコボルトが横たわっている。目の周りに、赤い塗り線が引かれていた。


 辺りは血で汚れ、凄惨な光景に静寂が落ち、異様さだけが際立つ。慎重に進むが、敵も罠もない。――静かだった。


「すごいね、スカイ。これも全部、アッくんがやったのかな?」

「それ以外ないだろ、サラ。ったく、一人で探索したいというから心配したが、余計なお世話だったな」


 周囲を警戒しつつ歩く俺にサラが声をかけた。少し呆れるような口調に、苦笑してしまう。ただ、気持ちは分かる。


 かなり奥まで進んだはずだが、まだ一時間も経っていない。順調すぎる。ガリュウに注意したが、俺も思わず気が緩みそうになる。


 優秀すぎる斥候というのも、存外に困ることがあるらしい。


 サラと肩をすくめ合うと、ガリュウの声が届いた。


「どうやら、五王の玉座の間に着いたようだぞ」


 視線を向けると、真紅の柱に囲まれた巨大な門が遠くに見えた。ようやくアークと合流できる。


 そう思ったとき、ガリュウが鋭く言い放つ。


「アークのやつ、一人で五王と戦っているぞ! わずかに門が開いている。それに剣戟の音が聞こえる」


 誰もが息を呑む。思考が追いつかず、呆然とする中、ライデンさんの声が響く。


「全員、走るぞ! 門まで着いたら、一気に突入する。いつでも戦えるよう準備をしておけ! 間違っても一人で入るな、命令だ!」


 その瞬間、全員が一気に走り出した。


 徐々に近づく巨大な門。


 やがて俺にも、金属同士がぶつかる激しい衝突音が聞こえてきて、否が応でも焦燥感が掻き立てられた。





 ガリュウたちに申し訳ないと思いつつ、俺はライデンさんの命令を破り、門を少しだけ開けて滑り込むように中に入った。


 気配を消し、周囲を見渡すと、巨大な神像が目に入った。見覚えがあるその姿に驚愕する。


 それは三面の顔を持ち、異なる感情を浮かべている。腕は複数。合掌したり、握る仕草で構えられ、力強さと優美さが同居している。


 ――三面六臂の神、阿修羅だ。


 前世では幾度となく見た神像に息を呑む。だが、六本あるはずの腕は一本が欠け、右腕は二本しかなかった。


 目の前に立つ五腕の阿修羅像に油断なく近づく。やがてその姿をはっきりと捉える。


 青銅のような金属で作られているが、継ぎ目は見当たらない。一塊の巨大な金属で成形されている。機械的な歯車やネジも見当たらない。


 この神像からはデミウルゴスの気配は感じられなかった。


 ただの神像――少なくとも五王ではないかもしれない。ほかに潜んでいないか注意深く、周囲を見渡した。


 ――そのとき、ギィッと音が鳴る。


 驚いて仰ぎ見ると、首が回転し、表情が憤怒へとすげ替わる阿修羅が目に映る。金属とは思えないほど滑らかに腕を上げ、一気に振り下ろした。


 咄嗟に後ろに跳ぶ。直後、ドゴンッ――と音を上げ、木片が飛び散り、床に巨大な穴が穿たれた。


 床に深々と刺さった腕をゆっくりと引き抜く阿修羅。さらに大きく後ろに下がった俺は、その姿を改めて見る。


 鈍い光沢を帯びた肌は、生命を感じさせない。ただ、金属とは思えないほど柔らかく見えた。


 こちらを睨む阿修羅を見つめながら裸足になった。


 一拍、動きが止む。静かに腰を落としてナナシを構えると、足裏から直接床に魔力を流し込み、物質変化魔法を展開する。


 ゴムへと変わった床は、踏み込むと深く沈み、一気に俺を押し出した。高速で駆け出した俺に、阿修羅は拳を放つ。


 だが捉えることはできず、背後をかすめて床を打ち抜く。木片が背中に当たるが、構わず突き進むと、巨大な足首が見える。


 さらに加速し、すれ違いざまにナナシを振り抜く。


 ガキンッ、と衝突音が響き、手に衝撃が伝わる。阿修羅の背後に回り込み、その背を見つめる。


 痺れが残る手を振りながら足首を見るが、傷はなかった。柔らかく見えて滑らかに動くが、阿修羅の体は、やはり金属でできていた。


 理屈は分からない。だが、倒すことには変わりない。素早く勝ち筋を探るが、思い浮かばなかった。


 苦笑いを浮かべ、周囲を見やる。大きな梁が天井に無数に張り巡らされ、壁や床は木でできている。


 ――本堂を思わせる部屋。


 再び、忍びの記憶が蘇り、自然と口角が上がる。俺は考えることを放棄すると、阿修羅に向かって一気に走り出した。

ここまで読んでくださってありがとうございます。

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