250 灯籠の道、刃は走る
石畳を駆けながらナナシを腰に戻し、一気に速度を上げる。
一陣の風のように走り抜ける俺に、灯籠の影や天井に隠れていた忍狗たちが一斉に襲いかかった。
灯籠の裏から忍狗が這うように飛び出し、行く手を阻もうと刀を切り上げる。だが俺はさらに加速して跳躍し、忍狗の頭に手を置き、側転する。
着地と同時に石畳が沈み、カチリと音がした。
直後、灯籠から炎が噴き出した。素早く腰を落とし、手甲から魔糸を放つと、背後の忍狗を拘束し、力任せに引き寄せた。
業火に飲み込まれた忍狗は、そのまま灯籠に激突して破壊する。息をつく間もなく、天井から刀を突き出した忍狗が、飛びかかってきた。
地面を転がりながら回避。直後、石畳に切っ先がぶつかり、火花を散らす。衝撃によろめく忍狗を尻目に手首を曲げ、魔糸を巻き戻す。
勢いよく戻る魔糸。忍狗の横を通り過ぎる――その瞬間、腕を捻って軌道を変えると、魔糸は刀に絡まり、そのまま奪い取った。
手にずしりと重みが伝わる。当然だが、柄だけのナナシより重い。久しぶりの忍刀に笑みをこぼし、奪い返そうとする忍狗に振り下ろす。
身体強化を瞬間的に最大にすると、忍狗の頭から腰まで一気に刃は通り抜け、胴体は左右に分かれた。
切れ味に満足し、懐からライデンさんに借りた時計を取り出す。
――残り時間はあと二十分。
地面に転がる二体の忍狗を一瞥し、俺は再び走り出した。
――――――――――――
襲いかかる忍狗を斬り伏せ、突き進む。やがて眼前に鳥居を模した巨大な門が現れた。時計を取り出し、視線を落とす。
――残り五分。顔を上げて門を見やる。
それは真紅の巨大な柱に挟まれ、上端には二本の横木が並び、中央には板が飾られていた。
額束だと思うが、文字は汚れて読めない。
鳥居が屹立するこの場所には神聖な空気が漂い、かすかに郷愁がよぎる。それは前世か神界か――どちらの記憶から湧き出るものなのか分からない。
小さく首を横に振り、気持ちを切り替えて気合を入れる。この先に五王がいるはずだ。背後に視線を向け、闇に吸い込まれるように伸びる石畳を見据える。
まだガリュウたちが来る気配はなく、五王と謁見すべきか、逡巡する。
そのとき、時計から音が鳴る。
――すでに約束の二時間は経過した。
もう一度、首を横に振り、軽く頬を叩く。ライデンさんたちには悪いと思いつつ、向き直ると五王の玉座へと続く門に手をかけた。
その瞬間、かすかに門は開き、微風が頬を撫で、伽羅の香りが鼻をかすめた。
◆
木造の廊下を抜けると、灯籠が並ぶ石畳の通路に出た。
どうやら、五王は東洋連合国に関係があるようだ。妹のリリノイアが留学し、何度か訪れたことがある国だ。
薄暗い通路に均等に並ぶ橙の灯りは、趣がある。また、しんと静まり返った空間には、荘厳な雰囲気が漂っていた。
「不思議な場所ですね、ここは。いろいろな国を訪れましたが、こんな雰囲気は初めてです」
背後から声が届き、振り向くと、フォルテが石畳の続く通路をじっと見つめていた。
「……そうか。お前の国、ババルニア王国は東洋連合国と国交を結んでいなかったな。ここは東洋連合国の建物に似ている。あの国は石やレンガより木材を好んで建てるんだ。以前、弟妹が留学していたころ、訪れたことがある」
顎に手を当て、当時を思い返す。
リリノイアは現地の伝統ある武術大会に参加して優勝し、武神の称号を得た。そのとき、観戦していた帝に見染められ、求婚された。
妹は自分より弱い男性には興味がなく、丁重に断り、その件は収まった。だが今でも帝は諦めきれず、手紙が届くたびに妹が愚痴をこぼしていた。
眉をひそめるリリノイアの顔がよぎり、つい口元が綻ぶ。そんな俺にスカイが声をかけた。
「なに、ニヤニヤしているんだ、ガリュウ。そろそろ進むぞ。まだアークと合流できていないんだ」
その言葉に我に返る。たしかに今は探索中だ。アークが安全を確保してくれたおかげで、罠も敵もなく、順調に来れた。
――油断していた。スカイに詫びると同時に感謝する。
俺は頬を叩き、気合を入れ直し、暗闇に続く石畳を見据える。そのとき、ふいに風が通り抜けた。
それは血の匂いとかすかな伽羅の香りを運び、俺たちの胸に不安を残していった。
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