242 遅延起爆の謎、囚王の声
四本角のミノタウロスの攻撃を避けながら、地面に転がる重律槍の柄を拾う。穂先はなく、長さも半分になっていた。
こんなものを拾っても意味はないが、あと一合残っている。ライデンさんとの約束は、三合まで見て判断してもらうことだ。
無駄な足掻きかもしれない。だが、三王までは、仲間それぞれが単独で討伐してきた。俺にも誇りがある。あと一撃――それにすべてを懸ける。
せめて腹部に刺さった穂先のほうが手に入れば、どうにかなる。懸命に四王の攻撃を躱しながら、隙をうかがう。
攻撃の手立てが見つからず、回避に専念する。やがて四王の猛攻を余裕で回避できるようになった。
所詮は魔物だ。動きに牽制も陽動もなく、疲れで鈍っていく。ただ、腹部に刺さった槍は抜けない。
ならば、もう一度踏み込んで槍を引き抜こう――そう思った瞬間、耳鳴りと胸の痛みが走る。すぐアークたちを見ると、耳を押さえていた。
――突然、遮音域が開放された。
理由は分からないが、油断はできない。四王を見据えるが、とくに変化はないまま攻撃を続けてくる。
相変わらず単調で、容易に避けられる。だが爆発が起きない。一瞬の戸惑いで動きが鈍る。その隙を突き、四王は戦斧を振り下ろした。
大振りの斬撃。余裕で躱した――その瞬間、背後から猛烈な突風に吹き飛ばされる。
振り向くと、地面は抉れ、黒く焦げていた。
◆
無音の爆発が起き、スカイが巻き込まれた。遮音域は解放されたはずだ。現にミノタウロスの雄叫びが部屋に響き渡っている。
すぐに状況を把握する。四王の咆哮は俺たちの耳を劈き、地面を蹴る足音や荒々しい息遣いは届いている。
聞こえないのは爆音だけ。しかも戦斧が地表を叩いても、すぐには爆発せず、遅れて起こる。
スカイも気づいている。斧頭が当たった場所から十分に距離を取り、警戒しながら回避を続けている。
だが、この無音の爆発の謎を解かなければ、スカイが危険だ。武器を失い、爆発で傷が増え続けている。
とにかく情報を集める。すぐに視覚と脳に強化魔法を施し、スカイと四王の戦いを見つめる。
一、二、三、四、五――小声で口ずさみ、斧頭が地面を叩いてから爆発までの時間を計る。
五秒。その時間で、すべて爆発した。攻撃の強弱も斧の振り方も関係ない。
つまり、爆発のタイミングは制御できない。五秒後に必ず爆ぜる。そして、爆発する攻撃のときだけ、戦斧に紋様が浮かぶ。
紋様を見て思い出す。部屋に入ったとき、ミノタウロスは鎖に拘束されていた。雄叫びを上げていたが、遮音域で聞こえなかった。
あのときも、鎖の紋様が浮かんでいた。
――ただの仮説。だが、確信に近い。
戦斧は地面に触れた瞬間、小規模な遮音域と爆発を同時に『仕込む』。二つを重ねるまでに五秒が要る。
急いで隣に立つライデンさんに自分の考えを伝える。
「……なるほど、たしかに五秒だ。大爆発だろうが小さく爆ぜようが、同じ時間だ。だが、アーク。これが分かったからといって、戦況が変わるとは思えないが――」
ライデンさんは眉をひそめて呟いた。すでに腰の剣に手をかけている。三合まで待たず、戦いに介入するつもりだ。
たしかに俺もそれが正しい判断だと思う。だが、この謎を伝えれば、スカイなら状況を変える糸口を見つけるかもしれない。
淡い期待だが、そこに賭けた。
「スカイ! その爆発の正体は、戦斧が作る小さな遮音域ごしの遅延起爆だ。紋様が浮かんだときだけ気をつけろ、五秒後に来る!」
その瞬間、スカイはこちらを見て笑みを浮かべる。戦いの最中だ。よそ見は止めてほしい。
注意しようとしたとき、スカイは親指を立て、四王を見据え、颯爽と駆け出した。
◆
アークに感謝する。たしかに紋様が浮かぶ斬撃のあと、五秒で爆発が起きた。まさしく『遅延起爆』だ。
理屈は簡単。小規模の遮音域を展開してから起爆――それだけ。少し考えれば分かったはずだ。三合という縛りが、かえって冷静さを奪っていた。
小さく頭を振り、反省を切り上げる。いまは目の前の敵を倒すことに集中する。紋様が浮かぶ斬撃だけ大きく避け、それ以外は最小の動きで躱す。
余裕が生まれ、回避はさらに容易になった。
踊るように避け続ける。やがて疲れが見え始めた四王が戦斧を振り上げ、わずかに体勢を崩す。
すかさず懐に飛び込み、腹部に突き刺さった重律槍を掴む。
一気に引き抜こうとした――その瞬間、声が脳に直接、落ちてきた。
<頼む、解放してくれ!>
それは、四本角のミノタウロスの悲痛な叫びだった。
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