240 開かぬ門、鎖された王
アークは四王の部屋の前まで辿り着くと、警戒しながらも座り込んだ。その姿に目を見開く。
普段から弱みを見せるようなことはしないアーク。よほど疲労が溜まっているのだろう。
あの複雑な迷宮で斥候を務め、多くの罠を見抜き、マッピングまでしていた。思い返せば、疲れるのも無理はないと察する。
――少しアイツに頼り過ぎた。自分の不甲斐なさに舌打ちしそうになる。
だが、そんなことをしても意味はない。今はアークを休ませるのが最優先だ。そう決めてライデンさんのほうへ歩み寄る。
「すみません、この四王は俺に任せてもらえませんか? ガリュウとサラは論外。アークとフォルテも迷宮探索で消耗している。ライデンさんは指揮官だ。体力も魔力も十分な俺が適任です」
ライデンさんは複雑そうな表情をする。複数で挑むほうがいいのは分かっている。だが、三王までは一人で討伐してきた。
俺にも誇りがある。それにそうなれば、必ずアークも参加する。そしてまた無茶をするはずだ。責任感が強いのはいいが、もう少し自分を大事にしてほしい。
そんな考えを汲み取ったのか、ライデンさんは深くため息をつき、頷いた。
「おい、みんな。この四王はスカイに任せる。他は戦闘準備を整えたうえで待機だ。スカイ一人で手に負えないと判断したら、全員で当たる。いいな!」
ライデンさんが皆を見渡しながら告げる。アークが口を開きかけたが、俺と視線が重なり、閉じる。
俺の意思を尊重してくれたのだ。自然と口角が上がる。
ライデンさんは俺とアークを交互に見て、もう一度ため息をついた。
「スカイ、三合だ。それで判断する。三合打ち合ったら、俺を見ろ。剣を抜いていたら、すぐに戻ってこい。全員で討伐する」
その言葉にアークは安堵する。一方で俺は眉を下げ、不満げな表情を浮かべた。思わず抗議しそうになり、口をつぐむ。
ライデンさんは再度、俺たちを見て苦笑いを浮かべると、周囲を見渡す。
「……それじゃ、三十分後に四王と謁見するぞ。身だしなみを整えておけ。いきなり襲ってくる暴君かもしれないからな!」
冗談めかした指示に全員が笑みを浮かべる。俺は重律槍を持ち、魔法を施す。重量を変化させ、重心を移動させた。
最後に石突を重くすると、くるりと回って重律槍が立つ。眼前の穂先をじっと見つめた。
刃こぼれ一つない刃に顔が映る。いつになく緊張している自分に、思わず苦笑した。
◆
四王と対面するために鋼鉄の門に触れ、ひやりと掌に冷たさが伝わる。力を込めるが動かない。今までは招かれるように簡単に開いたが――
これまでと違うことに不安がよぎる。隣に立つライデンさんへ視線を向けると、同じく眉をひそめ、困惑している。
「おい、アーク。身体強化しろ。一気に押すぞ。それと他は少し後ろに下がっていろ。これまでと少し違うようだ」
その指示に全員が頷き、フォルテは念のため銃を抜いた。ライデンさんがこちらを向いて頷くと、それを合図に一気に力を込めた。
久しぶりに全身を強化し、全力を出したが、鋼鉄の門はびくともしない。明らかに侵入を拒んでいる。
ライデンさんと目配せし、いったん強化を解いて門を仰ぎ見る。その隙間に、わずかな影が見えた。
閂がかかっているように見える。確認のため疑似飛翔魔法を展開する。空気の壁を足元に作り、ライデンさんにも乗るよう促す。
二人とも飛び乗ると、そのまま上昇気流を発生させて飛翔する。五メートルほど上がり、視覚を強化して門の隙間を覗き込む。やはり、閂がしてあった。
施錠された門。明らかに今までの王とは違う。不安が深まるが、先に進む以外の選択肢はない。俺は腰から柄だけの剣――ナナシを抜く。
眼前の隙間は一センチにも満たず、普通の剣は通らない。柄に魔力と神気を流し込み、薄氷をイメージする。
直後、柄から靄のような刃が現れ、切っ先が揺らめく。実体を持たない刀身を縦にすると、薄すぎて見えなくなる。
――これなら刃は通る。そう確信して上段に構え、狙いを定めて一気に振り抜く。
無音。手応えもない。ただ振り下ろしただけ――失敗した。そう思った刹那、鋼鉄の門は静かに開き始めた。
『ただ敵を討ち滅ぼすためだけに生まれた剣』。エジェイルの言葉を思い出す。結果を求め、それに最適な刃に変化した。
――ただ、代償に膨大な魔力と神気を消費した。指先が少しだけ冷えて震える。
ナナシを戻し、魔法を解除。すぐに地面に降りると、スカイたちと合流して門の向こうを見据える。
やがて完全に門が開くと、両断された閂が地面に落ち、土煙が上がった。視界が悪くなり、部屋の中が見えない。
そのとき、隣に立つフォルテが魔弾を放った。乾いた炸裂音が耳に届くが、反響はない。
この部屋も音の干渉――遮音域がある。銃口が迸った瞬間、見えない壁が空気を押し縮め、軽く鼓膜を叩いた。思わず耳に触れる。
顔を上げると、魔弾は地面を穿った直後、暴風が生まれ、土煙を吹き飛ばしていた。一気に視界が開け、奥に四王の玉座が現れた。
その瞬間、全員が言葉を失う。
そこに四王がいた。だが、その姿は幾重もの鎖で巻かれ、強固に拘束された囚人にしか見えなかった。
素早く視覚を強化して、鎖に束縛された囚王――四本角のミノタウロスを観察する。その身に巻かれた鋼鉄の鎖には複雑な紋様が刻まれていた。
――明らかに特別な力を帯びている。
必死に捕縛から脱しようとする囚王。だが、鎖は伸縮して絡みつき、千切れても修復――その場から逃がさない。
涎を撒き散らし、咆哮する四本角のミノタウロスだが、その叫びは遮音域によって、こちらには届かない。
身体も声も閉じ込められた哀れな囚王。このまま無視して通り過ぎることもできる。自然とスカイに全員の視線が集まる。
スカイはこちらを見て、苦笑すると、愛用の重律槍を肩に担ぎ、颯爽と囚われた四王に向かって歩き出した。
読んでくださり感謝です<(_ _)>
ブクマor★で応援いただけると励みになります!




