236 偽りの王、白銀の裁き
繁忙期と娘のインフル……辛い(T_T)
ガリュウが一気に勝負に出た。満身創痍になりながらも距離を詰める。残り二メートル。五本の矢が襲った。
二本は体毛に阻まれて落ち、三本は腕と両太腿に突き刺さった。視覚を限界まで強化した俺は、筆矢が鋭矢を透明に<上書き>する刹那を捉えた。
その瞬間、心に引っかかっていた<嘘>の正体に気づく。すぐにサリオの足元を凝視する。ないはずの足。その下の草が押し潰され、薄く影を落とす。
視線を上げると、今まさに拳を振り上げるガリュウの姿が目に飛び込んできて、咄嗟に叫ぶ。
「ガリュウ、脚を狙え! ヤツは三本脚なんかじゃない。権能で消しているだけだ!」
刹那、サリオは顔を歪め、腰を落とす。明らかに三本脚では不可能なほどに安定した姿勢。このまま逃げられれば、両足を傷めたガリュウに勝機はない。
思わず息を呑む。だが、ガリュウは反応した。振り下ろす拳は軌道を変えて足元へと向かう。さらに強引に体を捻りながら、残りの腕を足元に伸ばした。
ガシッ――後ろへ跳躍しかけたサリオの足を掴んだ。上半身を纏った衣服はめくれ、足の付け根が露わになる。そこには筆矢の鏃だけが根元に刺さっていた。
平面に切れたように不自然に消えていた。それを隠すためのゆったりとした衣服。「一歩も動かない」と告げた言葉は<嘘>だった。
呆れるほどの狡猾さ。王には相応しくない戦い方だ。ガリュウが咆哮すると、ボキッと骨を砕く音が響き渡った。
あり得ない方向に曲がった右足。消された左足だけで支える姿は、後ろ足二本だけで直立して見え、滑稽だった。
本当の意味で三本脚になったサリオは、恐怖で顔を歪め、不安定な姿勢のまま後ずさる。
ガリュウが一歩前に出ると、矢が立った太腿から血が滲み、歩幅が乱れた。その姿を見て、サリオは体を翻して逃げようとした。
だが、バランスを崩して倒れる。折れた脚を引きずるように這う。美しかった金色の体毛は泥に汚れ、もはや見る影もなかった。
偽りの夜空に、偽りの草原。そこに君臨していたのも――やはり偽りの王だった。
ガリュウは、四つの拳を腰まで引いた。筋肉が極限まで膨れ上がり、三本の矢を押し出し、出血を止める。まさに神気を迸る白銀の獣神。
その姿に恐れおののくサリオは、なにか言おうとして口を開く。
だが声が届く前に、白き稲妻のような打突がサリオを貫く。
地面に横たわるサリオの脇腹へ深々と刺さった拳。衝撃でかすかに地面が揺れ、ヤツの体が少しだけ浮く。
その隙間へガリュウのつま先が滑り込み、そのまま蹴り上げた。宙に浮き、無様な姿をさらすサリオに、無数の打撃が襲いかかった。
四本の腕が縦横無尽に舞う。裏拳が薙ぎ払い、手刀が打ち下ろされる。掌底が胴体を穿ち、正拳が背骨を折った。
突きで浮かせ、蹴りで上げ、空中で畳みかけ――そして地へ。鈍い衝突音が、静寂を裂いた。
ガリュウの凄まじい連撃に何もできず、サリオは地面に横たわり、その醜態をさらすだけ。
――気づくと、消えた左足が現れ、根元に刺さっていた鏃は消えていた。
それでも攻撃の手を緩めないガリュウ。意識が飛んでいた。このまま殴り続ければ体力の消耗に加え、傷も広がる。
ちらりとフォルテに目配せすると、彼女は肩をすくめて頷いた。
「わかりました、アーク。あまり仲間にこういうことはしたくありませんが、体力的にも限界でしょうし、仕方ありません」
そう告げてホルスターから神銃を抜くと、息絶えたサリオを殴り続けるガリュウに銃口を向けた。
次の瞬間、火花が閃き、乾いた炸裂音が響いた。
雷の魔弾がガリュウに当たり、全身に電流が駆け巡った。ビクリと硬直すると、そのまま倒れ込んだ。
安堵の息を吐き、顔を上げる。そこには夜空はなかった。無機質な石の天井があるだけだった。視線を落とせば、草は命を失い、緑色の紙屑へと変わっていた。
沈黙が落ちる中、すきま風が頬を撫でた。紙屑をぱさつかせて絵具の油臭を攫う。そのかすかな息吹だけが、微細な命の感触を感じさせた。
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