232 炎を食う獣の理、深緑の門
繁忙期が憎い!
アークがしたことを理解した瞬間、目を見開く。まさか火食の魔物の特性を逆手にとるとは――。
この世界に炎を食する魔物は稀に存在する。ただ、それは比喩でしかない。熱を蓄えて魔力に変換しているだけだ。
体を成長させ、動かすには、普通の食事をする必要がある。だから、あの魔馬は炎を食べていたにもかかわらず、走り続けて体力を消耗し、動きが鈍ったのだ。
加えて食物と違い、炎は消化することなく魔力にするか、そのまま蓄積するかのどちらかだ。いずれも消費しない限り、残り続ける。
紅蓮のスレイプニルは火球を食べ続けた結果、魔力変換の限界を超え、体内に溜め込み、熱は際限なく上昇を続けた。
マグマの塊と化したスレイプニルの体内は、千度を超えていた。蹄の跡を見ると、土の一部はガラス化し、石は溶けて変質していた。
そんな超高熱の中に水を密閉した金属の塊を放り込めば、水は液体ではいられず、超高圧が生まれ、金属は破裂する。
さらに弾き出された水は、気体へと変わり、瞬時に千倍を超える体積に膨張して爆発を起こした。
まさしく「内爆弾」だ。聴力を強化していたからこそ拾えた言葉だ。アークが横たわるスレイプニルに向けたものだ。
――底が見えない。恐ろしいが、頼もしい。
スカイの成長の速さにも驚いたが、やはりアークは別格だ。
第3師団長として経験を積んできたからこそ、理解できたが、周りを見れば、何が起きたか分かっていない様子だ。
誰もが口を閉ざし、アークを見つめるだけだった。
うすら寒いものを感じる。魔法も武術も達人並み――だが、それに頼らず、知識を駆使し、智策を練り、知恵で制した。
その戦い方は武人というよりも戦略家や暗殺者に近い。敵の弱点や隙を突き、最小限の力で一瞬で仕留める。真正面から打ち破ろうとするスカイとは違った。
だからこそ、いいコンビだとも思う。真っすぐ突き進むスカイと、影となって周囲を支えるアーク。
この探索で二人がどのような成長を遂げるのか。そして、ガリュウにどのような影響を与え、成長させるのか――幾重もの楽しみが重なり、口元が綻んだ。
突然、風が吹いて焦げた匂いを攫っていく。ふと視線を上げると、遥か遠くまで続いていると思われた草原の先に、深緑の門が現れた。
その上空には、鈍い鉛色の雲が描かれ、それに触れる光をすべて喰らい尽くしているようだった。
――不安がよぎる。その瞬間、風向きが変わり、苔むす匂いを運んできた。
◆
作り物めいた草原を抜けて、深緑の門に立つ。その姿に肩の力が抜ける。苔だと思った緑色の正体は絵の具だった。
どこか嘲るような趣向にため息をつくと、アークが声をかけた。
「ガリュウ、気を抜かないで。たしかにちょっとおかしいけど、仮にも三王だ。あのサイクロプスやデュラハンよりも上位の魔物――決して油断していい相手じゃない」
心配そうに見つめるアークに表情を引き締めて頷く。どうやら順調に進み過ぎて、気持ちが緩んでいたようだ。
俺はベアモンドの妻――リリーナさんの顔を思い浮かべる。
彼女は自らの命と引き換えに三王を倒した。親父はもちろん、ベアモンドの心の傷は大きかった。いまだに彼女の首飾りを身につけている。
あの厳つい巨体に似合わない赤いハート型の首飾りを思い出し、笑みを浮かべる。同時に彼の悲しみの深さが、胸をよぎる。
複雑な表情を浮かべる俺を、アークたちが不安げに見ていた。
――リーダー失格だ。両手で頬を叩き、気合を入れ直して顔を上げる。そして、眼前の強く緑光を放つ扉に手を触れた。
招かれざる俺たちにも門は抵抗なく、ゆっくりと開いた。その先には小高い丘に立つ三本脚のケンタウロスの姿があった。
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