231 紅蓮の魔馬を穿つ策
肩で息をする二人。ライデンさんは瞬時に状況を理解し、最適な作戦を実行し、それにスカイは対応してみせた。
師弟ならではの息の合った連携に少しだけ嫉妬する。親友を奪われたような感覚がかすかによぎる。
それを振り払うように首を振ると、深紅のスレイプニルに向かおうとするガリュウの肩に手を置く。
「ガリュウ、あの魔馬は俺が倒すよ。君は三王との戦いに備えて、体力を温存しておいてくれ」
深紅の魔馬から視線を切ることなく告げる。彼は何か言いかけようとしたが、口を閉じて肩に置かれた手を軽く叩いた。
それを了承と受け取り、頷くとフォルテに声をかける。
「悪いけど、神銃を貸してくれないか。もちろん、レプリカの方でいいから」
彼女は首を傾げながらも、レプリカの神銃を差し出した。
「……どうぞ。でも、あの巨体を吹き飛ばすなら、二丁の銃を合わせライフルにした方がいいですよ?」
フォルテの提案に苦笑いを浮かべ、首を横に振る。何に使うか説明したいが、あまり時間がない。炎を食い尽くしたスレイプニルがこちらを見据えている。
慌てて彼女に感謝を伝え、丘を下りると、俺はスレイプニルのもとまで一気に駆けた。
やがて深紅の巨躯がはっきりと見えてくる。たてがみは炎のように燃え上がり、体毛も火花のように逆立っている。
近づくにつれ、空気は熱くなり、吸い込む息が喉を乾かす。目の前に着くとその存在感に圧倒される。
スレイプニルが吐く熱息のせいで、周囲はうだるような熱さが漂っていた。
じっとこちらを見つめる魔馬は、焦げた土の上で激情を鎮めるかのように、蹄を激しく踏み鳴らした。
直後、俺は魔法で水弾を放つ。ヒュンと大気を裂き、一直線で飛んでいく。だが、炎馬に届く前に蒸発した。
想像以上の熱量を持った炎馬に息を呑む。中級以上の水魔法でも、おそらく焼け石に水だ。たいして傷をつけることはできない。
次の一手を考えるが、その隙をつかれた。魔馬はいななき、猛然と突っ込んできた。
蹄が地面を蹴るたびに火柱が立ち、周りを焦がす。少しでも触れれば、ただでは済まない。肌は焼けただれ、肉は焦がされる。
掠ることも許されない灼熱の突進。大きく跳んで十分な距離をとる。膨大な熱と巨大な体躯は、それだけで凶悪な武器になった。
ぎりぎりで躱すが、反撃することは不可能。加えて、巨馬は十二本の足を巧みに使い、避けても鋭く曲がり、最短で距離を詰めて隙を与えない。
――やはり銃を借りて正解だった。魔力操作を駆使して魔弾を素早く装填すると、引き金を引く。
銃口が迸り、土魔法で作られた鉄弾は、灼熱に溶かされることなく、着弾する。だが、かすり傷にしかならなかった。
わずかに血が流れる様子を見て、笑みを零す。これなら間違いなく倒せる。そう確信して初級火魔法――ファイアボールを展開した。
猛然と向かってくる魔馬を横に跳んで回避し、銃を撃ちながら火球を放つ。先ほどの掠り傷を狙った鉄弾は、正確に命中して肉を抉る。
一方、火球は食われて、紅蓮の魔馬はさらに赤く染まった。
ちらりと丘を見ると、俺が何をしたいのか分からず、全員が訝しげに眺めている。その姿に眉を下げ、口元を綻ばせる。
ひたすらに体当たりを狙うスレイプニル。それを冷静に避け、確実に鉄弾と火球を当て続ける。
――銃を撃つたび、肉を裂く乾いた手応え。火球は、怪馬が食えば食うほど内側を膨れ上がらせる。
やがて多くの火球を食らい、深紅に燃え上がるスレイプニルを見据える。大気を焦がすほどの熱量を蓄えているが、走り続けたせいで息は荒い。
走る速度も落ちて、俺に余裕が生まれる。何度も撃ち続けた傷は深く、多くの血を滴らせていた。
――すべての準備が整った。
そう確信すると、土と水の合成魔法で特製の魔弾を作り始める。わずかに足を引きずり突っ込んでくる魔馬に銃口を向ける。
今度は寸前まで引きつける。熱風が全身を撫で、大粒の汗が吹き出した。
それでも耐える。かすかに髪が焦げ出したとき、魔弾が完成した。その瞬間、倒れ込むように跳んで、引き金を引いた。
魔弾は螺旋に回転し、寸分狂わず傷口に向かって飛ぶと、そのまま体の奥深くまで侵入した。
スレイプニルは痛みで一瞬硬直するが、たった一発の魔弾が体内に入っただけでは、倒れることはなかった。
再びこちらに向き直り、走り出そうとした――
直後、ボォンと鈍い音とともに胴体が膨らむ。魔馬は白目を剥き、大量の血を口から吐いて倒れた。
目の前で起きたことが理解できず、誰もが言葉を失っていた。
――内爆弾だ。水を鉄で覆い、灼熱の体内で水蒸気爆発させた。
地面に横たわる魔馬を一瞥して、安堵の息を吐く。すべてが計画通りだ。
ふと視線を上げる。俺が入れた偽りの青空のひび割れから、一陣の風が差し込む。それは淀んでいた空気を攫い、少しだけ俺の緊張を解いた。
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