221 六人の誓いと揺らぐ灯
ガリュウ殿下の話が終わると、沈黙が落ちた。
レオン陛下が試練に挑まれたときの話だとは聞いていたが、想像とはまるで違っていた。
それは陛下の相棒ベアモンドと、その妻リリーナにまつわるものだった。
当時幼かった俺でも、レオン陛下とベアモンド、そしてリリーナ――三人のS級冒険者の名は耳にした。
全員が一騎当千の実力者で、数々の伝説を築き上げていた。
そんな三人が獣王神令の儀で十王の遺跡に挑むと聞き、誰もが十王すべてを討伐すると信じて疑わなかった。
だが結果は中層まで。討伐できた王も五体にとどまった。
それでも過去最高であり、一体でも倒せば王として認められることを思えば、十分に偉業だった。
それほどの成果を挙げながら、レオン陛下とベアモンドの顔には笑みはなく、深い悲しみで歪んでいた。
理由は明白だった。結婚間もないベアモンドの妻――リリーナが二人を庇い、命を落としたからだ。
なぜ命を落としたのか、その詳しい事情は殿下も聞かされていない。だが首を横に振りながら、静かに言った。
「親父は親友の妻の死を前に嘆くだけの男じゃない。きっとリリーナさんの仇を討つため、命を懸けて十王すべてを討伐しようとしたはずだ。
ベアモンドも同じだったと思う。だが二人でも中層までしか進めなかった。それほどの場所なんだ、この遺跡は」
誰もが黙って耳を傾ける。殿下の声には、どこか独白のような響きがあった。試練を前に浮かれていた自らへの戒めが、かすかに滲む。
殿下は視線を落とし、拳をぎゅっと握りしめた。魔導具のせいで、その音さえ大きく響く。皆が次の言葉を待つ中、やがて口を開いた。
「俺は興奮して、周りも自分も見えていなかった。親父ですら中層までしか辿り着けなかった遺跡に、少人数で挑もうとしていた。その愚かさを親父が気づかせてくれた。城を出るときに言われた――
『一人で何でもしようと思うな。なぜ試練が一人ではなく六人なのか、よく考えろ』と――」
言い終えると殿下は拳を解き、椅子に背を預けて天を仰いだ。
魔導具の灯りに照らされたその顔は、炎の揺らめきに合わせて表情を変え、何を思っているのかは読み取れなかった。
◆
すべてを語り終えた俺は、力なく座り込み、天井を見上げた。
この六人で遺跡に挑み、十王すべてを倒す。そう決めた俺は、自らの覚悟と不安を正直に打ち明けた。
命を預ける仲間に虚勢は不要だ。むしろ害になる。ここにいるのは身分の上下もなく、ただ共に戦う者たち。
だからこそ、俺はアークたちに敬称で呼ぶことを禁じた。ライデンにもそう伝える。俺の試練に付き合ってくれる仲間に、遠慮も気遣いもいらない。
必ず生死を分ける局面が訪れる。そのとき、わずかでも躊躇えば命を落とす。
そんなことは絶対にさせない。そのためにも王太子という身分は忘れてもらう。今はただのガリュウだ。
――改めて宣言すると、全員が深く頷いた。
やがて誰からともなく自然に手が差し出され、俺の上に重なった。六人の思いが一つになったと実感する。
そう確信して俺が頷くと、五人もまた頷いた。
その瞬間――ランプの炎が激しく揺らめき、結束を祝うかのように燃え上がった。ただ、壁には不吉な影が浮かび上がっていた。
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