218 幻の剣、春光の鍛錬
アークが去ってから足を運ぶことのなかったレーヨンの町を、久しぶりに訪れた。いつ来ても冒険者たちで賑わっている。
その光景を目にすると、かすかに懐かしさが込み上げてきた。
街並みを眺めつつタイガ亭へ向かうと、裏の中庭に人だかりができていた。何か催しでもあるのかと思い、人垣をかき分けて覗き込む。
そこではアークとスカイが手合わせをしていた。すでに昼を過ぎ、陽気も暖かくなっている。体を動かすにはちょうどいい気候だ。
二人とも真剣な表情で打ち合っている。手にしているのは鍛錬用ではなく、それぞれの愛用の武器だ。
スカイは銀色の魔槍――重律槍を縦横無尽に振るっている。恐らく重量を限りなく軽くしているのだろう。
一方、アークは見慣れぬ武器を握っていた。漆黒の柄に、陽炎のように揺らめく刀身。切っ先は虚ろで輪郭さえ捉えにくい。
会うたびに装備を変えるアークに、思わず苦笑を浮かべる。
――本当に器用なヤツだ。
今も左腕の大きな手甲でスカイの槍を受け流しながら、隙を突いて反撃を繰り出している。
その剣は実体を持たぬようで、槍をすり抜けてスカイへ迫る。防御不能の斬撃に、スカイも舌打ちをしながら回避を続けた。
だがそのせいで攻撃の手が減り、次第に押し込まれていく。勝負あったかと思った刹那、スカイの動きが変わった。
回避に専念していたはずが、流れるように斬撃を放ったのだ。偶然かと思いきや、その後も連続して攻め続ける。
観衆は何が起きたか気づいていない。俺も最初は分からなかったが、すぐに悟った。
――あいつは、この一瞬で戦い方を切り替えた。
その動きは演舞のように淀みなく、美しい。独楽のように回転し、アークの剣を躱し、勢いを殺さず反撃へと繋げていく。
……あれは重律槍の恩恵だ。スカイは槍の重心を自在に操り、遠心力を完全に手中に収めている。
一気に形勢は逆転し、観客は大歓声を上げた。これだけで金を取れるほどの見世物だ。
とはいえ、あくまで鍛錬の一環。劣勢を悟ったアークは、あっさりと両手を上げて降参を示した。
そのとき、不思議なことにアークの剣は刀身が掻き消えた。残ったのは漆黒の柄だけ。
――まるで最初から幻だったかのように。
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