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転生者は創造神  作者: 柾木竜昌
第四章 青年期 ~学園編~
78/84

【幕間】アルバリシア帝国にて

遅くなりました。

フランの洗礼話を書く予定だったのですが、なんか違う話になりました。

次からようやく入学かな、と。

 アルバリシア帝国は大国であり、強力な軍事国家である。そこに異論を挟むものはあまり多くない。

 だがそれでも、カルローゼ王国との差は確実にある。

 その差というのは、両国の歴史のこともあれば、国内の情勢のこともあるし、人口のこともある。

 では最も大きい差とは何か。

 前述したものと合わせて、アルバリシア帝国は「大国であっても、豊かではない」という点。

 それはどういうことかといえば――。



「弓士隊は先んじて矢を放て!剣士隊、盾構え!」


「応ッ!」


 領内に<災害級>発生の兆しあり、という情報を得た帝王ヴィーは、すぐさま千人隊長ノリスに討伐の命を下した。

 迅速な討伐が必要な際には、アルバリシア帝国の軍事行動は早い。

 その甲斐あって、<災害級>になりかけている魔物の群れに対し、500名という人数を揃えることができた。

 A級魔物も複数確認されており、容易に討伐出来る群れではないが、それでも数は力であり、中枢を担う兵士はA級魔物を目の前にしても恐慌することはない。

 一時期、壊滅的な被害を出したものの、元冒険者で構成されるアルバリシア帝国兵の精鋭達は強い。


「魔法隊、詠唱開始しましたッ!」


 だがその強さも、A級が複数となると、力不足。

 指揮を執る千人隊長ノリスにしてもそれは理解しているが、彼らなしでは前線を構築出来ない。

 A級の魔物というのは、高クラスの冒険者でもなければ、それほどまでに強いのだ。


「槍士隊、前進!剣士隊の後退を支援せよ!」


「応ッ!」


 500名からなるこの部隊、かなり歪な部隊編成となっている。

 剣士隊・槍士隊はそれぞれ50名。弓士隊が300名。魔法士隊が100名。

 前線を任せられる前衛は、剣士隊と槍士隊のみ。それが全軍の二割。


 おかしな編成に思えるかもしれない。

 だが、本来魔物の群れと軍の正規兵が対峙するとなると、これが一般的な形になっている。

 その理由はシンプルで、「一般兵」と「Cクラス以上の冒険者」の間には、「個」の力に大きな隔たりがある。

 厳密にはステータスで言えば、一般的なCクラス冒険者と、一般兵の上位陣との差はそれほどないのだが、普段から魔物を狩っている冒険者と比べれば、対魔物において経験があまりに違いすぎる。

 要はノウハウと慣れの問題であり、戦い方の違いでもある。


 例えばの話、1体のA級魔物がいるとする。

 冒険者であれば、それなりに熟練したBクラス冒険者が4~5人いれば十分倒せる。

 だが一般兵のみでは戦いにすらならない。魔物から受ける恐怖に耐えられないからだ。


 では、10体のA級魔物がいるとする。

 冒険者であれば、Aクラス冒険者が5~6人いても、正攻法では難しい。

 一般兵100人居たとしても同上の理由で不可能だ。


 だから国がA級魔物討伐を行う際には、数という力と、正面から受け止められる前衛陣を揃え、遠距離からの後方支援で倒す。これがこの世界のスタンダードであり、編制も歪なものになる。

 高クラス冒険者を精鋭として引き抜くには、金がかかる。

 だが、C~Bクラスの冒険者であれば、個人の稼ぎにも限界がある。そういった者を優遇して抜擢し、精鋭を揃えるのだ。

 無論肉壁要員として磨り潰すような真似は出来ない。そのための魔法士、治癒士を用意するのも当然の話。

 しかし、実戦において危険な真似を晒すわけにはいかない。彼らもまた貴重な存在だからだ。


 こうなると、遠距離攻撃を持ち、なおかつ兵士として揃えやすいのは、弓士となる。

 強力な攻撃手段となり得る魔法士は大打撃を与えるための切り札として使い、その詠唱時間を稼ぐのが前衛を支える精鋭であり、手数で魔物を止める弓士なのだ。

 もっとも、フィナール領での<厄災級>においては、そこまでの配慮がされておらず、両軍合わせて1万にも及ぶ数なのだからと侮った結果が、あの様であったのだが。


「槍士隊、拙速に出てはいけません!決して突出せず、足並みを整えましょう!」


「承知!」


 最前線で魔物を足止めしていた剣士隊を下がらせ、遠距離攻撃で一掃すべく、槍士隊の隊長が声を張り上げる。

 その隊長の名は、ローレンス=アルバリシア。

 半年ほど前から見違えるような体つきと、ゾークやオウカイといった槍の名手から学んだ槍捌きは、B級魔物くらいなら単体でも十分倒せる実力を持つようになった。

 本来ならばノリスではなく彼が総大将を務めるべきなのだが、将としての経験を積みたいという本人の希望もあり、中衛となる槍士隊を率いている。

 こうして戦場に立つのも帰国してから三回目。最初は幾分緊張もあったものの、イストランド群での修練の日々は裏切らなかった。


「せいっ!」


 ローレの突きがB級魔物、ブラックシープの頭を貫く。

 すぐさま槍を引き戻し、次の相手を見据える。

 決して突出はしない。一騎駆けなどするつもりもない。

 強くなったとはいえ、慢心はしない。彼は身の丈というものをよく理解している。


 そして、今日の討伐戦において、本人がどうしてもと言うので、渋々ヴィーが従軍許可を出した、反則的な存在が一人。


「押されておるのだ。妾が出るのだ!」


 今もこうしてノリスに直談判しているのだが、彼はとてもではないが許可は出せなかった。

 何しろ相手は、明後日には洗礼を迎える、帝国の天才であり、征西帝の婚約者。

 幾度となくこういった討伐戦に参加はしており、無双の勇を持つことは知っているが、万が一、ということもある。


「その、フラン殿下。明後日は……」


「分かっておるのだ!だからすぐに終わらせるのだ!」


 そう言ってフランは目標を定める。

 いくらかA級魔物も残っているようだが、距離を詰めるまでもない。

 この距離なら外しようもない。ゼン直伝の魔術は伊達ではない。


「皆の者、聞くのだ!その場からすぐさま後退せよ!全てなのだ!後ろを向いて走っても構わぬのだ!」


 そうしてフランが放つのは、[水壁(ウォーターウォール)]という、中級の水魔法。

 無論、魔法ではなく魔術なのだが、それを知るのはローレくらいなもの。その彼とて理屈はよく分かっていない。

 それとほぼ同時に放つのは、[風球(ウインドボール)]と[土球(アースボール)]。どちらも初級レベルの魔法。

 3属性をほとんど同時に使う、というのも驚きに値するのだが、それ以上に圧巻なのは、その「数」と「質」。


 元より[水壁]という魔法はそれほど使い勝手は良くない。せいぜい火魔法を相殺するのに使う程度であり、同じ防御系統の魔法なら[土壁]など、物理的な防御が可能なものを使う。

 だが、フランが放った[水壁]は、本来、大人が二人並べる程度の範囲でしかないものを、数十メートルの範囲をカバーするという、凄まじく広域に渡る壁。

 しかも高さだけではなく、厚みを持ったその[水壁]は、物理的な防御はほとんどないにせよ、足場まで水を染み渡させた。

 そこに、50はあろうかというバレーボールサイズの[風球]と[土球]による、面制圧。

 [風球]は威力の低さから使い勝手の悪い魔法とされているが、弾き飛ばす、という一点において、初級レベルの魔法の中では随一。

 [土球]は言うなれば石礫のようなものだが、散弾のように放つことが可能で、殺傷力は低いものの、狙わずとも当たる。足止めとして非常に有効なものとされている。


 フランの放った魔術が魔物の足を止め、一箇所に集めるように誘導する。

 そこに降り注ぐのは、数百の矢。

 物理的なものだけでなく、[火矢]や[雷矢]といった魔法の矢も放たれた。

 後衛部隊による斉射は、高レベルの魔物に対して非常に有効な戦術である。

 個々の力が弱くても、魔物のプレッシャーに関わらない距離から放つそれは、確実に魔物にダメージを与えられる。

 特に魔法による攻撃は、属性による相性の良し悪しはあれど、物理的な攻撃に比べて威力も高い傾向にある。

 ただし、あくまで「比較的」というものであって、一概にはそう言えないところもあるのだが。


 立場上、最後方でノリスと共に魔術を行使していたフランは、その斉射を見てやや苛立ち気味に声を上げる。


「ノリス!狙わせるのだ!」


「……ッ!申し訳ございませぬフラン殿下!弓士隊、左右に散開せよ!魔法士隊、初級魔法で構わぬ!フラン殿下が魔物の足止めをなされておられる!あの『場所』を狙え!」


 フランは魔物の足止めをした。それは正しい。

 が、ノリスはそこまでしか考えていなかった。

 だが、現状を見れば、それだけではなかった。

 初級・中級魔法を巧みに使い、魔物を一箇所に封じ込めていたのだ。

 足場は悪く、[風球]や[土球]で移動を制限された魔物の群れは、防衛本能も働いたのか、一箇所に固まってしまっている。


 そこに弓士隊や魔法士隊の飽和攻撃が繰り出され、魔物の群れはほぼ壊滅。

 残すはA級魔物3体……と思われたが、フランの魔術、[火閃(ファイヤーレーザー)]によって魔物のコアを一瞬にして溶かしてしまった。

 早業すぎてそれに気付いたものは、ノリスを含めごく僅かであったが。


「群れは全滅したものかと」


「ノリス、最後まで気を抜いてはならぬのだ。剣士隊と槍士隊を3人1組で警戒に当たらせ、魔物の死体を確認するのだ」


「確かに……しかしフラン殿下、いつもこのような戦術を取られておられるのですか?私はあまりフラン殿下が兵を率いて戦うところを見たことが無いのですが」


 フランは類まれなステータスと戦闘技術を持っているため、これより小規模ではあるが、自ら前線に出ることはこれまでにも多々あった。

 だが、指揮官適正まで卓越していることは知らなかった。恐らく帝王ヴィーもそうだろう。

 それに対してフランはこう答えた。


「ゼンからこう言われたのだ。『下に功績の場を与えなければならない。それが上に立つものの責務である』と。妾もいずれゼンに嫁ぐ身ではあるが、母国のことも考えておるのだ!」」


「流石は征西帝様ですな。先祖返りとはいえ、まだ10歳とは思えませぬ」


「ゼンは先祖返りではない、と言っておったのだ。少なくとも「カノー」たる称名(ミドルネーム)は『この世に生きたことはない』と言っておったぞ?ところで勝ち鬨はどうしたのだ?」


 それはそれでどういうことだと考える前に、フランに言われて自分の職務を思い出すノリス。


「魔物の群れは駆逐した!我らの勝利だ!」



◆◆



「――以上、今回の討伐が無事成功に終わりましたことをご報告しました」


「おう、よくやった。ローレも帝国人らしくなってきたみてぇだな」


「ぼ……私も、それなりに鍛えられましたので」


 ノリスが謁見の間で帝王ヴィーに直接報告する光景に、周囲も随分見慣れて来た。

 彼自身、今でこそ高位の軍人ではあるものの、まだこれといった官位を持っているわけではない。

 本来ならば相応の官位を持つ武官、いわゆる将軍を通して報告する、というのがアルバリシア帝国においては正しい手順ではあるのだが、それを咎める者は少ない。

 単純にヴィーがそれを許していることと、先の<厄災級>において多くの前線指揮官を失ってしまったことにより、「千人隊長」という肩書以上にノリスへの評価が高まっていることが理由になる。

 千人隊長に就任して一年にも満たないが、そろそろ将軍位を、という声も上がるほどだ。


 ここ一年で将軍に代わり、兵を率いる回数も増えていることも要因の一つだが、何故ノリスがその役目を担っているのか、というと。

 端的に言えば、人材が不足しているのだ。

 ただ強いだけ。あるいは、指揮能力だけで言えば、ノリスよりも余程上だと思われる人材はいる。

 それでも万人を率いることの出来る将軍を差し置いて、格下の千人隊長であるノリスが兵を率いることが多いのか。

 その理由は簡単で、将軍が出払ってなお足りぬ程に、出兵頻度が高いためである。


『アルバリシア帝国領は広大である。しかし、開発された土地は少なく、豊かではない』


 元々帝国領は初代女帝アリシア=アルバリシアが国家として立ち上げるまで、国とも呼べないような体裁の小国群の集まりだった。

 それを統一出来たのは、アリシアが卓越した個人的武力を持っており、将兵を率いるのに十分なカリスマを誇っていたことと、その小国群で起こった<災害級>を立て続けに討伐してみせたことが要因である。

 逆に言えば、アリシアがアルバリシア帝国を建国していなければ、この地から<厄災級>以上のものが起こり、大陸を震撼させていた可能性もあったのだが、それはさておき。


 ともあれ、アルバリシア帝国という国は、貧しくはないものの、豊かでもない。

 正確には大陸の南西という世間の認識は誤りであり、迷いの森と隣接しているがための僻地扱いなのだが、カルローゼ王国はまだしも、他国の一般的水準より未開の地が多く、それだけ魔物の発生率も高い。

 強兵で知られるアルバリシア帝国だが、「強兵でなければならない」というのが正しい。

 兵は強く、土地も広いが、未開である。

 となれば、隣国の大国カルローゼ王国から奪ってしまえば良い、という風潮があったのは、このためである。


 加えて、実は帝国内には冒険者ギルドが存在しない。

 厳密には冒険者は存在するし、帝国が国営としてギルドを運営しているのだが、アジェーラ聖国にある冒険者ギルド本部とは全く関係がない組織である。

 故に魔物の討伐は疎かになりがちで、国家の将兵で対応しているため、どうしても魔物の群れの規模が大きくなりやすい。

 現帝王ヴィーがフィナール領へ流民が増えていることを咎めないどころか、いくらか感謝しているのも、国家として守護出来る人数に限りがあるからだ。


 自分の身を守れる程度に腕が立たなければ、帝国内で平和に生きることは難しい。

 それでもアルバリシア帝国という国は、大陸の覇権を担う国である。


「そういやフランはどこ行った?ノリスの報告じゃ、随分といい働きをしたみてぇだが」


 謁見の間に報告に現れたのは、ノリスとローレの二人。

 本来ここにフランも同席すべき、というより席次で考えた場合、フランが今回の出兵の責任者になってもおかしくはないのだが、今回は無理を言って従軍した立場なのでこの場にいないことはそれほどおかしくはない。

 それでもそれなりに責任感もあるフランが報告の場にいないというのは違和感がある。


「カルローゼ王国からの特使がお越しになられていると聞き、そちらに向かいました」


 私もこれから向かおうかと思います、と答えたのはローレ。


「そうか。征西帝も来てっからな、未来の旦那を優先するのは当然だな」


 ヴィーの言葉通り、リリーナの洗礼とは違い、フランの洗礼の場にはゼンも同行していた。

 とはいえ主目的は別にあるのだが。


「ともあれ、よくやった。明日のフランの洗礼に備えろ。では、下がってよし」



◆◆



「フランを贔屓しているように見られるのはあんまりよくないんだけど、ちょっと頼み事があってね。ヴィー殿に直接お願いしないとまずいかなと思って」


「お前ならいつでも歓迎するぜ。こっちとしちゃフランを優先してるように見えるのは悪いことじゃねぇしな」


 例によってネリーとエルを連れて[転移]であっさりと帝都アルバニア近くに跳んだゼン一行は、その日のうちにヴィーの元に赴いた。

 あらためて言うまでもないことだが、アルバリシア帝国内では「征西帝」という、形式上同格の官位を持つゼンならば、かなりの融通が利く。

 カルローゼ王国内での「名誉大公」よりもその自由度は確実に高い。国柄の違いもあることは確かだが。


「マリスから聞いてるかもしれないけど、彼女の力を借りたい。依頼したい内容は、イストランド群及びその周辺の代官業補佐。期間は俺が学園を卒業する頃まで、かな」


 元々ゼンがリリーナの洗礼に同行しなかったのは、イアンから「影響が強すぎるかもしれない」という助言を得ていたからだ。

 王城内で派手にやらかしたこともあるし、ステータスボードの件もある。

 フランの洗礼のことだけであれば、帝国にもゼンは同行する予定はなかったのだが……。


(母さんが妊娠。エルフだから負担はないって言うけど、実年齢は40近いからな。面と向かって高齢出産だけど大丈夫?なんて流石に言えないし、入学までの期間もない)


 シャレットの妊娠を聞き、複雑な感情を少しばかり抱いた後、これは早急に手を打たねばと思い、ヴィーに直接話を付けるために来た。それが同行の理由である。

 その依頼内容を聞き、ヴィーはニヤリと笑って問う。


「マリスも行きてえっつってっからよ、俺としちゃ問題はねぇんだが……国としちゃ、第一席のマリスと第二席のフランが同時に国外に出る、ってのは、なあ?」


「やっぱそれなりの理由が要るか……あとは、対価のことか?」


「それもある。が、そっちはこっちも得るもんがあるってことで、マケといてやらんでもねぇ」


 カルローゼ王国領は概ねアルバリシア帝国領より裕福であると言っていい。その中でもイストランド群は突き抜けて富んでおり、更なる発展の最中でもある。

 それでも帝国のような国に対して、金で支払えるほど富があるほど、規模が大きいわけでもない。

 それにヴィーは対価についてはそれほど気に留めていない、となると理由の方か……とゼンが考えていると、ヴィーがとんでもないことを言いだした。


「5年後で構わねぇ。お前とマリスとの間の子を寄越せ」


「は?」


 理由というより対価の方ではなかろうか、などと考える前に、何を言っているんだと思考が飛んでしまったゼン。


「帝国は初代が女帝だからな。別に女王でも構いやしねえんだが、その子を成す相手となると厄介なモンでな。征西帝の種なら格も問題ねぇ。それならマリスをそっちに寄越す理由にもなるだろうが」


「……いや、いやいやいや……えー?」


「結構いい女だろうが。何か不満でもあるのかよ?」


「いや、そうじゃなくて。てかマリスにもなんか不穏なこと言われてたけど」


「お前がマリスも嫁にしちまえば帝国が手に入るってか?それが一番いいんじゃねえかと俺も思うがな」


「それでいいのかよアルバリシア帝国……」


 良くも悪くも、アルバリシア帝国は「血統」に拘りがない。

 国家としてこの世界の中では歴史が浅い、ということもあるが、住んでいる土地が魔物の巣のような場所であるからこそ、「他国との繋がりを云々」などという理由で王族との婚姻を決めたりはしない。

 ヴィーの王妃にしろ、正式なものでは3名いるが、彼女たちにしろ元々どこぞかの高貴な身分であったり、という基準で選んではいない。

 まあ、ヴィーのお手付きもあったりするが、フランの母であるセレスは誰もが認める実力者だったので文句は言われない。


「てかさ、今のところ特殊な肩書が付いてるだけの自由民の子供に、娘を二人寄越すって、親としても王としてもどうなの?」


「お前こそ征西帝って立場分かってるか?少なくとも自由民の子供、なんて評価は誰もしねえぞ。だいたいな、こんなステータス持ってる奴を誰がどうしろってんだ」


 ヴィーの手元にはゼンのステータスボードの写しが握られている。

 それを見て意識が飛びかけたが、「コイツなら仕方ない」と立ち直りも早かった、流石帝王である。

 なおカルローゼ王ソルはどうだったか、ここでは触れない。イアンの父だった、とだけ伝えておく。


「どうせあれだ、特殊能力(エクストラスキル)も一つや二つじゃ済まねぇんだろ?馬鹿みたいな数の固有能力(ユニークスキル)を持ってるお前のこった」


「否定はしない。けどまぁ、流石に全部ってのは勘弁してくれ。とりあえずアレだ、フランの【無限成長(ノーリミット)】なら俺も持ってる」


「……【無限成長(ノーリミット)】ってのは100年に1人出るか出ないかってくらいスゲェスキルだって、お前分かってっか?」


「他人から見ればそうなんだろうけどね。フランにも聞いてみれば分かるけど、あまり本人は実感しにくいんだよ、それ。特にフランは天然の天才っぽいし」


 【無限成長】は無限に強くなれる強力な特殊能力(エクストラスキル)と知られてはいるが、実際の効果については実は深くは知られていない。

 ただ文献や神話に残る英雄達は、このスキルを持っていたと言われることが多く、直近の大英雄であるシツネも所持していたとされている。持ってるだけで英雄候補、という認識だ。


「ちょっと脱線してるから話戻そうか。で、子供云々は流石に気が早いから、俺が卒業するくらいまではその条件については保留させてくれ」


「学園を、ってことか?」


 若干日和気味なゼンの回答に、下世話な笑みを浮かべるヴィー。

 卒業、とは何を示しているのかと聞いているのだ。その意図は、ゼンにも伝わった。


「……ご想像にお任せするけど、なんつーか体の方が、ちょっと、な。今成長期にまた入ったところだから、それ次第、でいいか?」


「なんでぇ、その気はあるんじゃねえか」


 男同士の会話である。

 元々ヴィーはゼンを子供という認識はしていない、見た目だけの問題だ。

 ゼンもそういう話は嫌いではないのだが、ため息混じりに答える。


「それに色々葛藤も多少、な。そこは深く突っ込んで来ないでくれると助かる」


「前世(きおく)持ちは大変だなぁ」


「まあ、色々あったんだよ」


 適当に言葉を濁すゼンにこれ以上はやめておくか、と話を戻すヴィー。


「ま、留学扱いってことでいいだろ。俺の周囲にいる奴らには、もうちょっと深く説明するがな」


「それなら助かる。決して悪いようにはしないし、いつでも帰ろうと思えば帰れるようにはする。具体的にはそっちから戻せって連絡が来たら、翌日にはここに着けるレベルで」


「……いや、それもどうなんだ?」


「実際、今日の訪問だって、イストランド群を出たのは今朝の話だからな。特殊な移動手段を持っていると思ってもらっていい、そういう感じだ」


「古代魔道具(アーティファクト)絡みか?まあそういうことにしとけってことだな」


 ゼンの微妙な言い分に含むところを感じ取ったヴィーが続きを促す。


「で、俺からアルバリシア帝国に提供出来るものと言えば、やっぱり知識だと思うんだが……帝国が欲しいもの、って何だ?勿論マリスには相応の知識を持ち帰ってもらうことになると思うけど、実践するにしても時間はそれなりにかかるだろうし、留学先ではこういうことが出来ますよってアピールは必要だろ?突拍子もない話でもいい、出来る出来ないは俺が判断する」


「突拍子もないものか。魔物の根絶、とかどうだ?」


「出来んこともない」


 無茶な要求をさらりと即答するゼンに一瞬固まるヴィー。


「もっとも、流石に根絶ってのは現実的じゃない。そんなことをしたら食糧難で大変なことになるわけだし」


 それでも発生率自体は下げられる、というのがゼンの自論である。

 低級魔物の肉は、アルバリシア帝国ならずとも、食糧の一種と考えられる以上、ある程度は魔物と付き合っていかなければならないのがこの世界である。

 そういった側面を減らそうと、ゼンも色々と工夫はしているのだが。


「……じゃあ、出来ないこともないってのは、しようと思えば出来るのか?それとも他にいい手があるってのか?」


「長期的な措置で言えば、単純に人口を増やすこと。人が多く住めばそれだけ魔素が薄まって、魔物の発生率は下がる。そのためには開発をしなきゃならん。これは別に説明するまでもないことだろうけど」


 その理屈は分かる。どの国でもやっていることだ。


「中期的な措置は、とにかく魔物の数を減らすこと。冒険者じゃなくても、狩った魔物に対して国が報奨を出すとか、そういう仕組みを作れば確実に<災害級>みたいな規模の群れが発生する頻度は下がる」


「何故そうなる?」


「<災害級>やら<厄災級>やらは、基本的に魔物を放置しておくと発生する。弱い魔物だから放置する、なんてのは愚策だってこと。特定の強さを持った魔物だけ対処してても、他を放置してたらいつまでたってもキリがない」


 うむむ、と唸るヴィー。

 冒険者ギルドは国策として用意しているが、やはりアジェーラ聖国の「本職」と比べると、冒険者の質はかなり落ちる。

 だからこそ国でも正式なAクラス冒険者を抱えていたのだが、先の<厄災級>の顛末を考慮すると……。


「……難しいな。そもそもあの国は俺らを敵視してやがるし」


 何故アジェーラ聖国の冒険者ギルド本部が支部をアルバリシア帝国に作らないか。

 人間族至上主義のアジェーラ聖国が魔族主体の国であるアルバリシア帝国に関わろうとしないためだ。

 そこを分かっているからこそ、独自の冒険者ギルドを作ってはいるものの、あくまで国内に限るものであり、冒険者クラスも他国では通用しない。

 冒険者としての栄華を望むなら、アルバリシア帝国で活動する、というのは基本的に選択肢に入らないのだ。


「冒険者である必要はないって言ったっしょ?あくまで中期的な措置として、E級やらD級程度を間引く、その程度のことでいいんだよ」


「そんなもんでいいのか?D級くらいまでなら俺らの国に住んでいる連中なら、狩れないこたぁねぇだろうが」


「やる、やらないはヴィー殿次第だからね。少なくとも居住している土地の近くの安全は、それだけでも大分マシになる。それから最後に、これは短期的措置というか、一種の手当てみたいなものだけども……」



 ゼンが語った魔物対策の短期的措置。

 それで効果が出るのなら、と、マリスをイストランド群に派遣すること自体はすんなり決まった。

 元々ヴィーには反対するつもりはなかったのだが。


 それからおよそ一ヶ月。

 措置内容はヴィーを困惑させるものであったが、その効果は絶大であった。

 毎日とは言わずとも、週に二~三回程度の頻度で発生していた魔物の群れの報告が、全く上がって来なくなったのだ。


「あいつ、何したんだ?」


「分からんの、婿殿はうろうろしておったようじゃが……いかんせん神出鬼没でのう。こちらもほとんど追えず仕舞いよ」


 セレスが伝手を使い、ゼンの「措置」について方法を探ってみたのだが、[転移]で帝国領を跳び回っていたため、そもそも捕捉すらろくに出来なかった。

 それらしき目撃情報や、たまたま姿を見つけた場合でも、「何もしていなかった」という。


「一応人であるとは言うておったが、婿殿の種族はよもやの亜神。ならば神の所業なのやもしれぬなぁ」


 セレスの嘆息混じりの呟きは、ある意味正解に近いものであった。



◆◆◆



 つつがなく――というには騒がしいと思うが、フランの洗礼は終わった。

 エルの踊りには笑わせてもらった。踊りっていうか、ポーズを決めるだけ、みたいな。

 流石に王族は神妙な顔つきだったけど、周囲はそうでもなかったようで、呆れやら苦笑やら、微妙な表情をしてた。

 けどまぁ、その後のステータス開示の時は大騒ぎ。


 一体これはどれほどの強さなのか、果たしてこれが人の持つステータスなのか。


 疲れたようにエルが説明していたが、フランの詳細なステータスは多分俺にしか分からない。

 それから、実のところリリーナもそうなのだが、ステータス上は俺の両親を遥かに上回っていても、実際相手にすると、楽勝とはいかないだろう。

 本気でやったら大激戦になりそうだが、それでもあの二人相手に勝利を収められるかどうかは、リリーナはまず不可能。フランでも勝ち切れるかどうかは微妙かな。

 ともあれ、まだ喧騒が収まらないので、助け舟を出してやることにする。


「私から、よろしいですか?」


「レリック征西帝ならば、お分かりですか?」


 片手を上げて発言しようとすると、目敏く進行役の女性が拾ってくれた。

 確か、ソニア、だったかな。ヴィーの正妻の人だ。


「フラン殿下のステータスがどの程度のものか。これはもう人類種が持つ能力としては最高峰と言っていい。程度にもよりますが、<厄災級>を単独討伐するくらいの力はあるでしょう。何しろ私やネリーと同じステータスですからね」


 俺の言葉に一瞬シンと静まり返る一同。


「事実、私のネリーは、<厄災級>を何ら苦も無く降しております。つまりは、最低でもそのくらいの力は持っている、ということです。最低でも、というのはこれ以上の物差しがない、ということでもありますね」


 敢えて「俺のネリー」という強調をすることでネリーのご機嫌を取っておく作戦成功。

 隣でネリーが尻尾を揺らしている。これネリーさんのご機嫌パターンやんね。


「……確かに比べようがない。<厄災級>を倒せるなら、その上は<天災級>。そんなもの、そうは発生しない」


 武官っぽい女性が答えてくれた。確かこの人もヴィーの嫁さんだっけか。

 実際SSS+というステータスがどれほどのものか、その数値は俺や両親、ネリーにしか分からない。

 そこまで教えるつもりはないし、教える意味もさほどない。

 ぶっちゃけ「今の」人類生存圏の中では、SSS+なんて能力は過剰に過ぎる。

 <厄災級>レベルの魔物しか出てこないなら、父さんレベルがいれば片付く話だし、<天災級>と呼ばれている魔物の名前を聞いても、両親がいれば事足りる気がする。

 結局本来ステータスの最大値がSだというのは、人類種が到達できる現実的なものであり、エルの【人物鑑定】の最大値がSSSなのも、それ以上となると地上に生息する生き物として異常ということなのだろう。

 ちなみに、フランのステータスボードはまだ人類種だった。ハイサキュバスになってたけど。


「征西帝よ。そなたはフランの婿なのだぞ?今更殿下などと付ける必要はあるまい。して、例えばじゃが、お主の母親と比べて、フランは強いのか?」


「呼び方については時と場所というものがあるかと思いますが……まぁ、分かりました。で、強い弱いの定義はさておき、潜在能力としては、間違いなくフランの方が上でしょう。ただ現時点ではどうですかね、母はSSクラス冒険者ですから」


「シャレット殿も同じようなステータスの持ち主であるのかえ?」


「強さを決めるのはステータスだけではありません。優れたステータスの持ち主でも、それを全て引き出せるかどうかは別の話になりますし、母は今でこそ代官業に就いておりますが、若い頃から得て来た経験の厚みが違います」


 俺の答えに納得してくれたのはフランの母、セレス。

 それにしても、王族たちにはあまり驚きがない。

 元々フランは[全適正(オールラウンダー)]だったし、初対面の頃から強かったし、こんなものなのだろうか。


「フランはそのうち俺より強くなるのは確実だったからな。早すぎるうえに、こんなステータスボードになっちまったことは想定外だが……守護獣のこともあったからよ」


 ああ、ガルムのことか。

 リリーナはあんまりリュタンを表に出すことはないみたいだけど、フランはガルムのことを周囲に話してたんだな。ガルムはリュタンに比べてあまり隠れて行動するのが得意じゃないし。

 てかフラン、お前の洗礼なのに何故他人事のようにガルムと戯れているんだ。


「ま、悪い結果じゃねえこたぁ間違いねぇさ。種族まで変わっちまって、ゼンは大変だろうがな」


「それは何故なのだ?父上」


「あー、ハイサキュバスってのはな……」


 ヴィーが手招きをしてフランを呼び寄せては、耳元で話をし始めた。

 その隣にセレスも近づいて、こちらも耳元で何かしら言っている。


 猛烈に嫌な予感がして、【天上書庫】でハイサキュバスについて検索をかけてみる。

 すると、断片的にではあるが、吸精族の上位種族であることは確からしく。


 知らなきゃ良かった系の逸話がぼこぼこ出て来た。

 精を搾り取るのは勿論のこと、自身が満足するまで続けようとするとか。

 ハイ・サキュバスの番いは長生きしないだとか。

 それでいて一途なので、未亡人になってしまうと、一気に老けるだとか。


 なんかまだキョトンとしてるけど、フランがそうなるかもしれんのか……。

 腹上死だけはなんとしても避けねばならん。

 性欲って点では、ぶっちゃけネリーも相当怪しいけど。

フランのステータスボードはこちら


 名前 フラン・ニス=アルバリシア

 年齢 10歳

 種族 人類種魔人族 <ハイサキュバス>

 職業 魔戦士/魔導師 <槍者・細工師>

 格位:熟練級

 筋力:SSS+

器用さ:SSS+

素早さ:SSS+

 魔力:SSS+

精神力:SSS+

スキル:【不明】【武士】【闘気】【付与】



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