森の主
更新が遅くなり申し訳ない。
第二章が終わり次第学園編を予定してましたが……ペースは不明です。
ちょっと迷走してますが、第二章のオチは用意してます。
あれからなんだかんだでエルフの里で歓待されること5日、久々の客人ということで色々世話を焼いてくれていた。
それ自体は嬉しいんだが、ジルの仕切りでやってきた美人さんから逃げ回ったり、ディースを含む暴走気味なイケメン連中をしばいたり。
なんかもう、色々悩んでいるのがアホらしくなるワケだが、リリーナやフランに負担が行っていないように見えるのは幸い……なんだろうか?
3日もすれば、俺とてもう遠慮する気はなかったし。あ、色事的な意味じゃないよ。手段的な意味で。いい人たちなんだけどねぇ……。
そろそろ日頃か、と思っていたその矢先、ペットサイズでいたガルムとリュタンが、突然本来の姿に戻った。
何事かとは思わない。気配に敏感な二匹だから、気付いたのだろう。
あるいは、予め俺が張っておいた、[探知]という結界系術式に引っかかったのが、二匹にも伝わったか。
『ダンナ』
「穏便に済ませたいがな……」
リリーナはきょとんとしているが、フランは表情を険しくさせている。
「むう……強敵なのだ」
「いや、敵と決まったわけじゃないから」
そもそもどんな奴が近づいてきているのか分からないというのに、フランは勝手に敵認定している。
『あちらさんがどう思ってるか知りやせんが、友好的って感じはしやせんぜ』
「とりあえず話くらいは聞いてくれるだろうと信じたい」
まだ見てもない相手にどうこう考えても仕方ないが、ガルムやリュタンも敵と判断しているのだろう。
俺はそこまで気配やら敵意やらに鋭いわけじゃないが、確かに友好的ではなさそうだ。
もっとも、俺自身思うところはあるわけだが。
「一体何が始まるの?」
「だ……もとい、まだ分からんけど、とりあえず帰宅の準備、かな」
リリーナの問いには曖昧に答える。実際その通りのはずなんだが。
念のため、荷造りだけはしておくことにする。
妖精族のこともあるし、帰る前にもう一度ここに戻ってくる予定ではあるが、最悪逃げ出すという可能性も十分有り得るからなぁ。
「主様の御使い様、ご機嫌麗しゅう」
頃合を見て外に出ると、エルを始めとした数名のエルフが、一匹の狼に頭を下げていた。
単純に狼と呼ぶには、少しばかりサイズが大きい。普段の[三頭犬]クラスのサイズで、深い青色の毛並みをしたその狼は、威厳を感じさせる。
【完全解析】を試みたのだが、結果は芳しくない。というのも、この「使い」を対象として解析が効かないのだ。
理由は単純で、どうやら今見えている狼は、一種の「幻影」と思われる。
[探知]の感じや、魔力の感覚からしても、設定したラインを踏んだところからそれ以上入り込んでいる気配がない。かといって俺の目視が利くところに、この幻影を作り出している「本体」も見当たらない。
インビジサウルスのように、[看破]や[遠視]も使えば見つけられるかもしれないが、[探知]に引っかかった以上に踏み込んでこないとなると、察知されたことに気付いた上での幻影による登場だろう。
となると、かなり知性的であることは察することが出来る。余計なことはせず、様子見することにしよう。
『長よ、今日は客人の案内に来た』
狼から放たれた言葉が聞こえてきたが、俺にはそう聞こえたというだけで、実際に人語を話せているかどうかは不明だ。
これだけ明瞭に聞こえて、聞いてるエルの感じからしても、実際話せてるんだろうが、この辺りは前世からしてもあまりアテにならなかったりする。
聞こえは便利な【完全翻訳】だが、異能には違いないわけで。デメリットもそれなりにあったりするわけだ。
「客人というと、我らの同胞とその番でございましょうか?」
『左様。主様から連れて来るように命じられている』
「左様でございますか。あの者たちも、主様に用があると聞いとります」
元々エルには「森の主」に会いたいと希望を伝えてある。隠すことなく、率直に伝えてくれたようだ。
それを聞いて、エルの傍に居たイケメンエルフが、俺の元に走り出そうとしたので、こっちから出ることにする。
狼の幻影の前に歩きながら、視線を別の方向をやりつつ、声をかける。
「失礼、話は聞いておりました」
『貴公が客人か。まだ幼いようだが、エルフの民とは少し異なるようだな』
「種族こそ多少違えど、私もエルフには違いありません。連れがおりますが、こちらは番というわけではありませんので、あしからず」
後ろに居るリリーナとフランの視線が若干非難混じりに感じるのは何故だろうか。君たち王族だよね?俺まだ何もしてないし、決めたわけでもないんだけど。その気が全くないとは言わないけどさ。
目の前の狼は、俺がそちらを見ないのが気に食わないのか、厳しい目線を向けてくる。
『貴公は話す相手を見ずに会話するのか?』
「使者殿を無碍にするつもりはありませんが、影と面を向かってお話する必要はありますまい」
『如何なる意味か』
「言葉通りの意味に捉えて結構。お願いする立場ではありますが、虚像相手に侮られるつもりもありませんな」
俺の挑発しているような態度に、エルフ族が冷や汗をかいているようだが、「使いの幻影」程度に舐められるつもりはない。
どう話を持っていくかは「森の主」の態度にもよるが、ここにいる狼はあくまで幻影。そんなものに畏まる必要もない。
この狼の実体が近くにいることは間違いない。敵対したいわけではないが、森に来た当初から警戒されているわけで。
頼みたいことはいくつかあるが、下手に出るつもりは毛頭ない。
「森の主」がどう考えるかは分からないが、こっちは被害者で、閉じ込めていたのはあっちだ、という思いも少なからずある。あくまでこちら側の主張ではあるけども。
「我々は迷子のようなものでしてね。そちらにご迷惑をおかけしたのであれば申し訳ないが、説明もなしに囲われるのは些か不本意でありますな」
迷いの森の特性や種族の内情を考えると、身勝手な主張かもしれない。
悪いことばかりでもなかったし、迷いの森を突き抜けていたらどこまで行ったか、という気がしなくもない。
「私一人であれば、まだ良かった。こう見えて生きる術をそれなりに持っておりますので。ですが、連れはまだ幼き少女。これ以上囲われるのは危ういと思い、こちらから出てきた次第。我々が向かう前に、そちらの主に伝えておくがよろしかろう」
密かに探っていた、狼の本体をリュタンが見つけたらしく、【念話】で伝達してきた。
魔術を使わなければ、一般人よりはいくらかマシ、という程度の視力では、発見までは至らなかったが、あくまで視線はそちらを向ける。
『なるほど。偽りの姿では貴公を相手にするのは難しいようだな』
どうやら本体に向けているつもりの視線に気が付いたらしい。感じてる視線の主は、俺じゃなくて、リュタンかもしれないけど。そこはどっちでもいい。
「もっとも、案内して頂けるのであれば、その姿でも構いませんがね」
狼も俺の態度を横柄と思ったりはしなかったらしく、頭を少しだけ下げて了承の意を伝えてきた。
言葉や態度からすると喧嘩腰に見えるかもしれないが、幻影を相手に直視して対峙することは、魔術的観点からしてあまり良くない。
どうやって幻影を見せているかまでは知らないが、俺が知る【闇法術】にある幻術系の効果を考えると、これは幻であるとしっかり認識する必要があるのだ。
この狼の幻影に、そこまで深い意味があるとは思っていない。ただ、この程度のもので俺が惑わされると思うなよ、という認識を持たせたかった。
『承知した。ではエルフの民よ、この者らは我が主の元へ届けよう』
「ほんに、よろしゅうおねがいします」
エルは慌てるエルフ族の中でもさして態度が変わりない。
あるいは俺のレベルを知っているから、ある程度許容されると思っていたのか、その辺はよく分からないが。
『では、向かおうか、客人。ところで一つ尋ねるが』
「何か?」
『我には娘より貴公の方が幼く見えるのだが。確かに波長は雄のようではあるが、見た目では分からんぞ』
「……人は見た目によらないということだ。私はエルフなのだから、おかしくはありますまい」
『そうであろうか?客人は成長が遅いのだな』
やかましいわ。俺だってちょっとは気にしてるんだよ。
3歳の頃から変わらんのだから、成長が遅いってのは違うと断言出来る。けど、腑に落ちんのは確かだ。
フランでさえ相当アレなのに、リリーナもあんまし俺と変わらん。同じ年代の女の子とは思えん。
俺成長期に入ってるはずなんだけど、そんなに変わってる感じがしないんだよなぁ。まあ、まだ入って間もない頃だと思うけど。
集落を出る寸前に、【完全解析】でエルのスキルを確認しておいた。
何か言いたいことがあったとすれば、このスキルなのだろうと思うが……どんな内容だったのかは結局分からんなぁ。
【予知】。果たして彼女は何を視たのだろうか。あの様子だと、決して良くない内容だったのだろうけど。
しかしこれ、本当に固有能力と呼べる代物なんだろうか?ぶっちゃけ「ひらめき」とか「天啓」とかそういった類のものな気がせんでもないんだが。
【予知】
能動能力
稀に不確定な未来を予測することがある
その頻度と精度は自身の運に比例する
更なる進化が可能
【人物鑑定】
発動能力
[人物鑑定]が固有能力化したもの
対象のステータスを確認する
その精度と範囲は本人の知識と精神力に依存する
予知夢とかっていうけど、そういう類のもんだろうか?
まあ考えても仕方ない。「不確定な未来」って時点で、一種の可能性の示唆程度に過ぎんように思う。
それでもスキルの名前からすると、そういうのを信じる人も、いるんだろうけど。
エルの過去まで探ろうかと思ったけど、チラ見で感じ取るには、少しばかり彼女の人生が長すぎたようだ。
聖国関係の事件で、この【予知】が何かしら関与があったのかもしれないが、ひとまず棚上げするしかないか。
ちなみにもう一つ持っていた固有能力の【人物鑑定】は、俺が以前所持していた【解析】と似たようなものらしいが、母さんの[鑑定]より性能がいいという程度っぽい。
比較するなら[人物鑑定]の方なんだろうが、それらしき魔法は産まれてからの鑑定官がやったことしか覚えてない。
固有能力もピンキリってことだろうな。【人物鑑定】でも十分すごいと思うけど。ちなみに進化云々の記載はなかった。
以前アインから聞いたように、極めた末の代替スキルとでもいうべきか、そんな感じかな。
それだけ【解析】がスペシャルなものってことかもね。
◆◆
あれから2時間は経っただろうか。
狼は振り向くこともなく、無言で俺たちの前をひたすら歩く。
そんなにペースが速いわけではないのだが、道らしき道もない森の中をひたすら歩くというのは、こっちとしては大変なわけで。
俺はともかく彼女たちには負担だろうと思っていたのだが……。
「ガルムがおるからな。それに妾やリリーナもそれなりに慣れたものなのだ」
そういえばそうだった。ガルムが歩くだけである程度道が出来てしまうんだった。
『あの、アッシが先頭に立てば』
「あー、いや、いい。そのままガルムがリリーナとフランの前。後ろはリュタンで」
さっきから狼は一言も喋らない。
結局本体は姿を現さず、そのままどこかへ行ってしまったようだ。主に報告にでも行ったのだろう。
基本的に幻術というのは、ある程度術者と離れると、パターン化した行動くらいしか取れなくなる。
俺が狼の近くにいるのは警戒のためではあるのだが、この分だとあまり意味はないかもしれない。
となると、この幻影は案内する役目でしかないように思う。リリーナ達にもこれといって影響がないことを考えると、[幻惑]や[魅了]みたいな余計な効果は付いていないと見ていいだろう。
一応、万が一とか、そういうこともあるからな。決してガルムのナチュラルに発生する風魔法の存在を忘れていたわけではない。うむ。
ふと、先頭を行く狼が立ち止まり、また無言で歩き始める。
その行動に不可解なものを感じたが、狼が立ち止まったところを越えた瞬間、納得した。
(そのまま聞け)
後続の2人と2匹に【念話】で呼びかける。
(ここから先は魔法や魔術が使えない可能性がある。ガルムとリュタンは何があろうとリリーナとフランから離れるな)
(……ッ!旦那、こいつは……)
ガルムも一歩踏み入れたところで気付いたのだろう。なんだかんだで「神」と付く種族なだけある。
あの狼が何をしたのかは知らないが、何かしら入る許可を得る行為だったのではないかと思う。
そう、魔素が一切感じられないこの雰囲気。
あちらが「神界」ならば、こちらは「神域」とでも呼べばいいだろうか?
神界には魔素が存在しなかった。だからこそヴァニスに専用のルームを作ってもらって、そこで魔術の訓練をしていたわけだ。
【精霊魔法】は使えるか?これは使えるだろう、妖精がすぐ近くにいることは感じられる。だが無制限にってわけにはいかないかもしれない。
ともあれ、ここから先が真の「神獣」の領域ということになる。
ただでさえ森は相手のテリトリーだ。それに加えて魔術が使えないとなると……。
念のために、一つ[空間箱]から長刀を取り出そうとすると、手応えはある。まだ出すつもりはないが、長物を持って主に会いに行くというのは、流石に不味いだろう。
腰に下げていた刀と暗器を密かにチェックしていると――。
『来たか、人の子よ』
突然脳内に声が響き渡る。
この威圧感……これが神獣か!
『人の子よ。名を名乗れ』
……ほう。知性はあるようだが、礼儀がなってねえな。神だとかそんなもん知らん。
「まず姿を見せろ。ついでに名乗りは自分からするもんだ、そっちから言え」
「ゼン様!?」
リリーナが慌てて咎めるように声を上げた。
確かにプレッシャーは凄まじい。短い言葉に感じる、強烈な畏怖の力。
振り返るとフランも身を固くしているのが分かる。だが、ガルムやリュタンは警戒を強めてはいるが、平常心ではあるようだ。
実際のところ、俺も少なからず恐れている部分があるのは自覚している。
その理由を知っているからある程度冷静で居られるだけで、口調が荒っぽくなっているのはある種の鼓舞だ。
「さっきの使いにも言ったがな、こっちはアクシデントでこの森に来ちまっただけなんだよ。もっと早い段階で接触してくれりゃいいものを1年も待たせやがって」
『我が使命はこの森の守護。異端の者と接触するのは慎重にならざるを得ん。汝の言は正しいであろうが、この身を見て恐れてはならんだろう』
「つべこべ言わずに姿を現せ、迂遠な問答をするつもりはない」
『汝はそうであろうが、後ろの娘はどうか?』
「人をあまり侮るな。この二人はお前がどんな姿であろうと、そう簡単に恐怖したりしない」
口では強硬な姿勢を取っているが、守護獣には二人の盾になるように指示してある。
魔素がない以上、[沈静]などの回復魔法は使えない。
もし恐慌状態などになっては回復する手段がない。が、そこはあまり心配していない。
シェラから聞いた話だが、一定の強さを持つ個体と相対した場合、一般人ではそれだけで恐怖するものらしい。
魔物が一定以上の強さを持つ個体になると、危険度が跳ね上がる理由がそれだ。
これをカバーするにはどうしたらいいかというと、経験を積むか、精神力を高めるしかない。
父さんや母さんみたいな高クラスの冒険者ならば前者。促進栽培になってしまったが、リリーナやフランは後者に当たるはずだ。
ただまあ、これは一般的な話であって、そんなプレッシャーを全く感じないタイプもいることはいるらしい……ネリーさんのことですねわかります。フランもそれに近いかもしれん。
『ならば我が身を見るがいい。我が名はヴリテクト!人類を守護せし神獣なり!』
恐らくは【威圧】を込められた脳内への宣言とともに、俺の目の前に現れたのは……。
「……えっと、蛇さん?」
「ふむ、ガルムに似ておるのだ」
……うん、確かに見た目は可愛くはないけど、怖いかって言われると、微妙だ。
後ろの二人もなんだか力が抜けたように感じる。うん、そうなんだよね。[三頭犬]を傍に置いてる身からすると、そんなに極端に怖くもない。
『……恐ろしくはないか?』
微妙に呆れが混じっている気がする問いかけに、改めてヴリテクトの姿を見る。
何と言えばいいんだろうか。端的に言えば三つの頭を持つ巨大な蛇になるのだが、胴の部分に何やら翼やら尻尾やら腕やらが付いている。
神獣というよりも、魔獣というか、パーツ取りをしたキメラみたいな感じがする。
大きさも申し分ない。俺の4倍近い体長ではないだろうか。蛇の頭から突き刺さる視線に、決死の意思を感じる。
うん、怖いっちゃあ怖いかな。けどねえ……。
「なんというか、サイズだけならもっと大きい存在を見たことがあるし、確かに強烈な力を持ってるんだろうけど……」
「触っていい?」
「ふわふわなのだ!」
そう、キメラみたいな姿の割には、纏っている毛並みが羊みたいにモコモコなのだ。しかも白くてちょっと可愛いし。
パーツ1つ1つは怖いような気がするが、三つの蛇頭以外に体毛がびっしり生えてるもんだから、そのギャップがユーモラスな感じを出している。
あれだ。こう言っちゃなんだが。
「……残念?」
『我に喧嘩を売りに来たのだな?』
蛇だから喋れるわけじゃないけど、何やら神経に触れるものがあったらしい。
だってさ、森の主ですよ?神獣ですよ?多分眷属だろうけど、使いに狼を出す存在ですよ?
「いや、でもさ。お前の使いの方がよっぽど神獣っぽいし……」
『無礼な!勝手に触るでない!』
「すごいふわふわ!もふもふ!もふもふ!」
「少し毛を分けて欲しいのだ!服……いや、ベッドや枕にもしたいのだ!」
これなら姿を現さなくても良かった気がしなくもない。二人ともしれっと触りに行ってるし。ぶっちゃけ俺もちょっと触りたい。
ヴリテクトは鬱陶しそうにしてるけど、尻尾みたいな部分がピクピクしてますよ?
さっきまでのシリアスな気分がどっか行ったわ……。毒気が抜かれたっていうのかね、これ。
「はあ……喧嘩腰みたいになってすまんかった。俺の名前はゼン・カノーだ。まずは話をしたい」
『その前にこの娘らをどうにかせよ!』
「いやあ、俺も触りたいし。てか触るし」
『貴様まで何をするかぁ!我は神獣なるぞ!』
「いいからいいから。とりあえず触るから。もふもふするから」
ケモナーじゃないけど、これは触らざるをえない件。
このもふもふしたくなる魅力は驚異的かもしれないな、うん。
◆◆
俺も数多くの野生動物と触れ合ってきたが……ヴリテクトは正しく神獣だと認めざるを得ない!
もっふもふのふっわふわでぽよんぽよんなのである!
そう、もっふもふのふっわふわでぽよんぽよんなのである!
思わず触ってるうちに背中からダイブしてしまったくらいだ!
寝心地は抜群なんてもんじゃない。至福の一時である。
感覚としては羊のそれに近いのだが、ウールのような硬さはまるで感じられない。シーツもないのに極上の布団に包まれているようだ。
こんなサイズでこんなふわふわのもふもふなんて反則だ、いやもう神としか言いようがない。
「ああ、なんかこの一年、このために頑張った気がするわ……なんか癒やされるし……」
『……汝は話をしに来たのではなかったか?』
「もうちょい、このままで……連れも寝てるし……」
リリーナとフランは既に夢の中の模様。
さすがにガルムとリュタンはある程度警戒しているものの、どっちかといえば呆れてる気がする。
『ダンナ、アタイらどうしたらいい?』
「そのまま待機で」
『いいんですかい?これで』
二匹の役割を考えれば、今の状況はカオスというか、脱力する以外にあるまい。それは分かる。
でもねー、ダメだわコレ。とりあえず癒やされようそうしよう。
といっても、俺とて全くの無警戒というわけでもない。ヴリテクトの【完全解析】は済んでいる。
それを踏まえた上で、こうしてヴリテクトに体を委ねている部分がないわけでもないのだ。
名前 ヴリテクト
年齢 ??歳
種族 第二級下級神/蛇神族
職業 地上神神獣
称号 最古の森の主
状態 健康/老衰
Lv:なし
生命力:36300/45000
魔力量:22300/25000
筋力:9212
器用さ:6954
素早さ:9831
魔力:6812
精神力:9846
運:3000
魅力:6000
経験値:なし
唯一能力:【自己再誕】
特殊能力:【活身者】【分裂】【魔闘気】
固有能力:【契約】【威圧】【念話】【飛行】
汎用能力に関してはガルムやリュタンとそれほど違いはない。強いて言えば魔法はあまり得意ではないらしい。
蛇らしく【猛毒10】なんてスキルを持ってたりしたが、俺にとって脅威かどうかは不明なところだ。
気になるのは【絞殺MAX】という表記があったこと。即ち、スキルレベルは10が最大値じゃないということだ。
10より上のレベルは見たことがなかったのだが、納得は出来る。
俺のスキルレベルにはどうにも違和感があったのだ。
魔術は理詰めだからレベルが高くてもおかしくはない。だが【長刀術】などの武術系が最大値というのは、鍛錬期間からしてどうにも早すぎる気がしてならなかったのだ。
いくら【無限成長】があるといっても、実戦の少なさからして極めたとはとても言えないだろう。
師事したのがホウセンであることもあるし、俺の前世の経験もあるのかもしれないが……今気にしても仕方ないことか。
ステータスだけではなく、可能な範囲で過去も探ってみたのだが、ここはあまり芳しくない。
というのも【完全解析】で見える過去は結構限られるのだ。アバウトに言えば、「最近の記憶」程度しか分からないことが多いように思う。
ヴリテクトは何やら思いつめている、ということは理解出来たんだが……ここはどうも勘違いというか、自身の能力を把握していない可能性が高いのではなかろうか?
いずれ時が来れば分かることだと思うのだが。
なんだかんだ言って、ヴリテクトはこちらに危害を与えてこない。文句は言うけど、暴れたりしない。
んでもってコイツのスキルの【活身者】、これが今の俺にとってすごく大事。
【活身者】
能動能力
スキル所持者の生命力を常に回復する
スキル所持者と接触している対象を癒す
効果は本人の最大生命力と精神力に依存する
どうやらこの特殊能力、俺の「損傷中」まで癒す効力があるらしい。
気分的なものではなく、実際の数値が回復しているところを見ると、間違いあるまい。それほど一気に回復するわけじゃないみたいだけど。
でも本人の生命力が減少しているところを見ると、やはり状態の「老衰」というところがひっかかっているのだろう。
不死であっても不老ではない、ということだろうな。
しかし「癒す」って、随分ファジーな効果なんだが……ある意味精神的なところもあるんだろう。
一応蛇であることは確か。見た目が怖いのも確か。でも癒やし系。
意味わからんけど、そんな感じ。
『ゼン・カノーよ、我はいつまでこうしておれば良いのだ』
「……今ちょっと考え中だ。少し纏める」
俺が回復するまで、って言いそうになったのは秘密。
さて、何から話すべきか……いや、リリーナやフランが寝ている今こそ、語るべきことがあるんじゃないか?
今最優先するべきこと、それは迷いの森からの帰還。
それに付随してエルフ族やフェアリー族の保護。
それはそれとして、今のうちに話すべきことがある。
「ヴリテクトの使命は人類の守護と聞いた。それは前の世界神からの指示か?」
ゼンは成長期について1つ勘違いをしています。




