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転生者は創造神  作者: 柾木竜昌
第三章 幼年期 ~迷いの森編~
58/84

神獣ヴリテクト

久々に早めのアップ。

最近文字数が減少傾向にありますが、このくらいで書くのが負担が少ないように思います。

 ヴリテクトは戦慄した。いや、元々していたというのが正しい。

 今自身に寄りかかる存在、ゼン・カノーと娘2人。そして2体の精霊獣。

 娘2人は相当強い。これほど強い人類種を見るのは、シツネ・ミナモ以来ではないだろうか。

 2体の精霊獣は自分の眷属と互角以上に戦えるであろう。同時に戦うとなれば、自分も苦戦する可能性が高い。


 だが、ゼン・カノーには及ばない。自身が全力を尽くしたところで勝てるかどうか、相当危うい。


 最初はまず一戦するつもりだった。

 過去の人類種の英雄達には、まずその力を試した。

 その力を以て何を成すか。その覚悟を問う。それが地上に存在する神の勤め。


 だが、ゼン・カノーには挑めない。一目見て、自身を超える力の持ち主だと確信した。


 自身の姿の異質さはよく理解している。なんと矮小なことかと自覚したうえで、少しでも「恐怖」を与えたかった。

 神族にあるまじき意識である。たとえ邪神が相手でも、力を以て対する。下級なれども、神族としてのプライドがある。

 何のことはない。ヴリテクトは初めからゼンを恐れていたのだ。


 だが、ゼン・カノーには通じない。どころか娘にも懐かれてしまう有様だ。


 それでもヴリテクトは戦うつもりだった。

 敵わないまでも、老いる身を捨てるには、十分すぎる相手。

 予感通りに、自身に引導を渡すべく現れたのだと。


 だからこそ、ゼン・カノーの問いかけは、ヴリテクトに強烈な衝撃を与えた。


 世界神。


 地上に住む者が知りえるはずもないその存在。

 何千年と生きた神獣ヴリテクトですら、声を2度聞いただけ。


『世界神として命じます。貴方には神獣として、野に生きる獣を魔物から守護する役目を与えます』


 その声を聞いた瞬間、ヴリテクトは神獣としてこの地上に現れた。

 それ以前のことはあまり覚えていない。異形の獣として生きてきた、それくらいしか分からない。果たして獣と呼べる存在であったかどうかも不明なのだ。

 神獣ヴリテクトとは、世界神の声を聞いた瞬間に産まれた、最古の地上神の1柱であり、最後の地上神である。


『この声が届くかどうか分かりません。でも、このまま見てるだけなんて、私はしたくない!この世界を、みんなを、私は助けたいんです!』


 その声を聞いた瞬間、ヴリテクトは神獣として緩やかな死を迎えつつあった。

 神族は基本的に歳を取らない。だが生命体として地上に存在する以上、衰えというものはある。

 極めて不死に近い特性を持ちながら、実体を持つ地上神であるがゆえに、限界が存在するのだ。


 声の主は以前と違う。しかしその存在は、以前聞いたことのある世界神のものだと確信出来た。

 ならば従おう。そう思ったヴリテクトは、自身の森を広げ、結界で封じた。迫り来る魔の手から、この世に生きる者を守るために。


 ヴリテクトは思い出す。結界を張る以前のこと。結界を張った後のこと。

 あの勇者も、あの魔王も、神からの贈与能力(ギフトスキル)は持っていた。


『私が再度、生を受けた理由は分からぬ。だが、ここには救うべき人々がいる。それが私の戦う理由だ!』


『オレには力がある!だから自分より弱い奴の下に付く理由なんてねぇ。だから今オメーに挑むんだよ!』


 確固たる意思を持ち、挑んできた。神として、神獣として、その姿勢は好ましかった。

 そんな彼ら、彼女らを思い出すが、誰一人として世界神への追求はなかった。神の存在は認めていたが、それだけだ。


 幾千の時を経て、初めて世界神の存在を告げた人類種。

「前」世界神という呼び方。

 ヴリテクトはゼンの存在がその力以上に異質なことを悟った。


 そして――。



◆◆◆



「……違ったか?前世界神からの命令でこの森を守っているかと思ったんだが。今の世界神は直接世界に干渉が出来ないから、お前に知らせるのが精一杯だったとか、そんな感じで聞いたけど」


 沈黙を続けるヴリテクトに再度問う。


「もっとも、前世界神のことはよう知らんのだけどな。俺は今の世界神のために、この世界に産まれて来たようなもんだからな」

『……やはり、世界神様は代変わりなされたのか』

「代変わりというのかはさておき、前の世界神はこの世界から離れたらしいな」


 流石に「放り出した」とは言いにくいので、ちょっとオブラートに包んでみた。ヴリテクトの返事からすると、世界神が変わった、くらいしか知らないんだろう。

 蛇の顔に表情なんてないだろうし、ヴリテクトの身体に寝転がってる今の角度じゃ、顔色なんて分からんのだけども。

 あっちからの【念話(テレパシー)】だからか、あるいは精神的なものなのか分からんが、感情はあまり感じられない。


 しばらくの無言の後、ヴリテクトの三つの頭のうち一つが、俺を覗き込むように近づいて来た。

 うん、間近で見ると結構怖いかも。


『ゼン・カノーよ。汝は使命ありきか?』

「使命というか、頼まれごと?スケールがちっとばかし、大きいけど」

『それは世界神様からか?』


 んー、世界神から、ってのは俺の中ではちょっと違う。


「今の世界神は、生前……って言えばいいのか分からんが、ちょっとした縁があってな。彼女の願いを叶えてやりたいんだよ」


 仮に世界神がアズじゃなかったらどうしてたか?

 同じ望みを持っていたのなら、やはり同じようにしたのかもしれない。あくまで練習というのなら、神界での修行なんてせずに、のびのび暮らす日々を過ごしてたのかもしれない。

 今となっては「たられば」の話に過ぎないけど。


『生前と言ったが、汝は元人間族か?』

「それに近いものだったな。恐らくは、シツネ・ミナモやデビモス=コウに近いんじゃないか?」

『あの勇者と魔王か……彼の者らは、異なる理より産まれし者と言っておったが』

「あくまで近いだけで、全く同じ世界から転生してきたかどうかは分からんがな」


 俺の知る牛若丸や楚王がそのまま転生してきたとは限らない。

 元より歴史は勝者が作るもの。必ずしも俺の知る二人と、実際の二人が同じものとは限らないし、ホウセンにしても少々毛色が違う気がした。

 デビモスについてはだいたい合ってる気がするけどな。

 【大魔鬼化】は未だに完全な制御が出来ているとは言い難い、破壊衝動に駆られるあの感覚は馴染めない。

 でもそれは、【大魔鬼化】を使いこなせない俺にも責任があるというか、デビモスになりきれないのが悪い気がしなくもない。

 ネリーが【百獣王化】を習得し、間もなく使いこなせているということを考えると、やはり根本が違いすぎるのだろうか?それとも――。


『……汝の問いに答えよう。我は世界神様から、二度、使命を受けた。最初は獣の守護。次は崩壊の停滞化、とでも言えばよかろうか』


 ヴリテクトの言葉に違う方向へ行きかけた思考が戻る。


「最初は分かるが、二度目はどうにも難儀な使命だな」

『うむ、我も自身の行動が正しいものかは分からぬ。だが世界神様からの使命は、「皆を助ける」というものであった。それに対して我に出来ることなど、たかが知れておる』


 アズらしいと言えばアズらしい、曖昧な命令というか、お願いだったようだ。

 それでもヴリテクトは最善を尽くしたと言えるのかもしれない。実際森を結界化することで、恐らくは酷い状況になっている西側からの侵攻を食い止めているのだろう。

 思わず苦笑するが、アズとしてもそれが精一杯だったということか。

 ならば次はこれを聞いておこう。


「ここから西側はどうなっている?」


 その問いにヴリテクトは答えに悩んだようだ。少し間があった。


『はっきり言えば、西側の魔物の侵攻を食い止めるのが精一杯で、近年西側の様子など見る余裕はない。最後に見たのは……1000年ほど前だったか?長いこと生きておると記憶の前後が曖昧でな。その際勇者と共に見に行ったが、荒廃した土地、という他なかろう』

「西側には過去に強大な力を持つ国があったと聞いたが?」

『その頃は人類種にさほど興味がなかったのでな。せいぜい森に移り住む人類種を気まぐれに保護していた程度だ』

「エルフ族とフェアリー族か」

『左様。近年我としても痛恨事があったのでな、これから先も守護するには、少々難しいやも知れぬ』


 他にもいくらか話を聞き、ある程度歴史の流れは把握出来た。

 ヴリテクトの称号は「最古の地上神」。だが、人類種の歴史についてはさほど詳しくないようで、年数にしても適当なのだろう。

 だが自分なりにどんな経緯で今の状況になったのか、ある程度整理はついた。無論、謎はまだいくつも残されているが。

 やはり鍵となるのは森の西側だ。


『ではこちらから尋ねよう。汝の使命とは何ぞや』


 思うところがあり、【思考対話(テレフォン)】に切り替える。


(連れにあまり知らせたくないからな、【念話(テレパシー)】で失礼するよ)

(隠すようなことなのか?世界神様の依頼となれば、邪なものではなかろうが)

(彼女達は王族の姫だ。信用出来る娘たちだが、まだ知らせる段階ではないと思っている)


 恐らく彼女達なら理解した上で配慮した行動を取ってくれると信じられる。

 だが、最初に打ち明ける相手かと言われると、それは少し違うと思う。あくまで個人的な欲求に過ぎないかもしれないが、まずは家族に伝えたい。

 それでもヴリテクトには伝えておくべきだ。まだこの森でやって貰わなければならないことと、俺の状態異常の回復を依頼することを考えれば、打ち明けておかねばならないことがある。

 そう思い、まず目的を伝え、少しずつ自分のプランを話し始める。



◆◆◆



 リリーナは隣で眠るフランに小声で問いかける。


「【思考対話(テレフォン)】を使ってるのかな」

「そうなのだろうな。妾らに聞かせられぬ内容やもしれぬ」


 両者ともヴリテクトの感触を楽しんでいたことには違いないが、ここに至って熟睡するほど浅慮な存在でもない。

 ゼンとヴリテクトの会話を全て聞いていたわけではなく、ゼンの口から語られる言葉を聞き取っただけだったが、それでも理解出来たことがある。


「ゼンは常々先祖返りではないと申しておったが、納得は出来たのだ」

「ちょっと世間知らずっていうか、非常識なところもあるけど、色々なことを知ってる。変なギャップだったけど、そういうことだったんだね」


 異世界アクイリックの中で、始原の世界、即ち地球、或いはそれによく似た世界からやって来る魂はそれなりに多い。

 だが完全に記憶を持ちながら転生することは極めて稀であり、それを活かした活躍が出来る者はそれより更に少ない。

 カルローゼ王国の記録にある中で、シツネ・ミナモは自身が先祖返りであることは否定しなかったとされる。裏返せば、肯定した記録もないのであるが、「ミナモ」たる英雄が神話より更に昔に居たのだというのが定説である。

 ただし、この定説も証明する方法が無い。称名(ミドルネーム)の「ナモ」はシツネ・ミナモからの先祖返りとされているが、「ミナモ」という完全な称名(ミドルネーム)を持って産まれた人物は記録にないからだ。

 それだけ特別な存在だったのだろう、というのが不確かな説として残るのみだ。


 事実を一言で言うと、シツネ・ミナモは幸運であり、聡明であった。

 偶然にも前世に近い名が与えられ、「ミナモ」という称名(ミドルネーム)はとある機会に自身で名付けた。

 この点はデビモス=コウと変わらないが、彼との違いは、家名として「ミナモ」を名乗らなかったことにある。

 何故家名を持たなかったのかまでは、彼の心情に寄るところが大きいのだが……それはさておく。


「神様かぁ。ほんとにいるんだねー」


 その呟きに、フランは首を傾げざるを得ない。

 確かに神という存在はいるのだろう。今クッション代わりにしている存在は、神と付く存在であってもおかしくはないほどに強大なもの。

 それでも恐れより興味が先に出てきたのは、ゼンの存在が大きすぎるからだ。


「そうなのだろうが、妾らの感覚もおかしくなったと思うのだ」

「言えてるね」


 リリーナは無神論者ではない。魔法神と呼ばれるシェラハーの存在は信じている。

 ただし、宗教として何かを奉ることはしていない。むしろこの世界では宗教たるものは未発達と言っていい。アジェーラ聖国という例外がある程度だ。過去に遡れば未発達というのは正しくないのだが。

 いずれにせよ王族の二人がアジェーラ聖国の教えを良しとするわけもなく、フランに至っては神たる存在を全く信じていない。

 アルバリシア帝国は初代女王の意向からして、「自分の道は自分で切り開くべし」という考えがある。

 他者に厳しい教えではあるが、帝国が短期間で広大な領土を持ちえた理由がそこにある。

 神頼みなど、自力を尽くした上での足掻きに過ぎない。それがアルバリシア帝国の指針である。


(……お嬢、そのまま右手方向を見てくだせぇ。声を出しちゃいけやせん)


 突然ガルムから【念話(テレパシー)】がフランに届く。

 寝ている振りをしたままなので、寝返りを打つ振りをしながら、言われた先に視線を移した。

 そこに思わぬ人物が居た。


(あれは……エルフの長ではないか。付いてきておったのか?)


 何かを探すように忙しく視線を動かし、木陰に隠れながら移動していたのは、エルその人だった。

 他に人は見当たらない。一人でここまでやってきたのだろう。


(アッシも今気付いたんでさぁ。相当距離を取って、ついてきたみてぇで……どうしやす?)

(ゼンは?)

(旦那は取り込み中らしくて、アッシの声が届いてないみてぇでさぁ。それでお嬢に知らせとこうと思いやして)


 フランの見る限り、エルがこちらに気付いている様子はない。追跡してきて、見失った状態なのだろう。

 どうするか、少しばかり悩んでいたところで、リリーナがフランを指でつつく。


「フランちゃん。そろそろ起きた方がいいかも。あのエルフさんのこともあるけど……」


 リリーナもリュタンから似たような【念話(テレパシー)】が届き、エルの存在に気付いている。

 それ以上に、ヴリテクトの様子が変化しつつあることを感じ取った。


「ここにいると、ゼン様の迷惑になっちゃうかも。あんまりいい雰囲気じゃなくなってきたし、エルフさんのとこまで逃げた方がいいかもしんない」


 そんなリリーナの感覚は、正しかった。



◆◆◆



 ヴリテクトは俺のプランに概ね同意してくれたように思う。

 荒唐無稽だと言われたが、それは仕方ない。自分でも相当無茶なことを言っている自覚はある。

 それでもやはり、これしかないと思う。そこはヴリテクトも分かってはいるようだ。


『汝、勇者を超えるか』

「超えなきゃいかんのなら、超えるしかないでしょ。ま、今すぐってわけじゃないけどね」

『ならば』

「まあ、そうなるかな。本調子じゃないけど、それはもう仕方ない」


 戦わずに済むかと思ったが、そういうわけにもいかなくなった。

 気分的な意味でも、納得の行く理由が出来た以上、やるしかあるまい。

 いや、やらないと気が済まないのはヴリテクトの方であって、俺は絶対に戦わなければならないというわけではないんだが。


「再度確認するが、この森の結界はお前を倒す以外に解く方法が無いんだな?」

『然り。汝の願いにも、必要なこと』


 非常に曖昧な線引きになるのだが、迷いの森に張られている結界とは、ヴリテクトが張ったもの以外にもあるという。

 1つは迷いの森の侵入を防ぐための、迷宮結界。これはヴリテクト自身が張ったもので、東側から人類が入り込めないようになっているのはこのおかげらしく、ヴリテクトも任意で解くことが可能らしい。俺達が落ちた付近にも張ってたのがこれだな。

 もう1つが迷いの森への攻撃を防ぐための、守護結界。俺が拠点に張った結界がこれになるんだが、単純に防衛用として使う結界の類であるが故に、効果も高い。これを張ったのが、前世界神であるという。

 いずれもまともに抜けられる結界ではないが、守護結界については、ヴリテクト自身もあまりよく分かっていないようだ。

 外部の襲撃を阻む守護結界。内部への突入を阻む迷宮結界。この2つの結界を解かない限り、中から外へは出られないわけだ。


 ちなみに外から中へ入ることも出来ないわけだが、「イレギュラー」は存在する。

 件の勇者や魔王は、ヴリテクトの憶測になるが、神の加護を得ていたこともあり、守護結界を抜けたところでヴリテクトが迎え入れた。

 エルフの里を襲った者については不明らしいが、守護結界を抜けるような存在がそんな真似をするとは思わなかった、というのがヴリテクトの談だ。

 これについては俺なりの仮説があるが、今は棚上げだな。


 で、俺達の場合、というか俺限定らしいが、本来なら守護結界は通り抜けられてもおかしくはないという。

 問題は、強引に森を抜けて、遥か西の彼方まで飛ばす魔道具の効果が、守護結界の防衛に引っかかったこと。本来障害なく通れる筈が、異物のせいで守護結界に阻まれた、というわけだ。

 東側の守護結界をブレーキにして西側の守護結界で止まった、というのが事実になる。


『生きているのが不思議な程だがな。汝の異常も結界を強引に抜けてしまった弊害であろう。娘がいなければ、西側まで突き抜けたであろうな』


 どうも結界を強引に抜けたダメージは全て俺が受け止めた結果、「損傷中」という意味不明な大ダメージになってしまった、というのが真相になるようだ。

 そう考えると、俺がフランやリリーナを助けた甲斐はあった、と思う反面。


「俺がいなければ彼女達は迷いの森まで来ることはなかった?」


 という疑問が沸いたわけだが、これはヴリテクトが否定してくれた。


『汝がおらねば、娘は結界の阻まれ、物言わぬ骸と成り果てたであろう。汝の責にあらず』


 そう言われるとちょっとだけ報われた気がした。

 いずれにせよ、あの魔道具を投げつけてきた連中が悪いのは違いないが、ヴリテクトの行為も理解してやるべきだろう。

 最上位の神である世界神の結界を強引に抜けてくるような存在。地上神であるヴリテクトが警戒しないわけがない。かといって放置するわけにもいかないので、様子を見る。

 理屈は分からんでもない。俺も慎重すぎた点はあると思う。

 二人にはまだ何も説明してないが、少なくとも俺はある程度わだかまりが解消した。


 そこで話は戻って、俺達の帰還、及びエルフ族やフェアリー族の外への移動についてだ。

 元々エルフ族やフェアリー族は前世界神の意向に沿い、ヴリテクトが保護した種族である。

 本来であればこの2つの種族は森の出入りが可能なはずなのだが、近年――ヴリテクトにとっては、だが、限られた個体しか守護結界を抜けることが出来なくなったという。

 迷宮結界については、ヴリテクトの権限で個人の出入りは可能。しかし、守護結界はヴリテクトの権限が及ばない部分になる。


 但し、いずれの結界も、術者はヴリテクトということになる。

 迷宮結界については、守護結界を抜けてきた存在を迷わせるためにあるもので、ヴリテクト自身の裁量でどうとでもなる。外からやってきた存在を帰すかどうかは、ヴリテクトが決めるということだ。

 だが守護結界は維持するのみで、ヴリテクト自身も詳細を知りえないものであるという。元々森の外部を覆うように世界神が張ったもので、この結界がある限り、中から外へ出られる存在は非常に限られるという。

 その条件については、ヴリテクトもよく分からない。会ってみれば、およそ抜けられるであろう存在は分かる、という程度らしい。

 俺の祖父や祖母がそうだった、ということだな。


「俺達は出られそう。フェアリー族もおそらく出られる。問題はエルフ族、だよな?」

『然り。全てのエルフが森を出られるとは思えぬ。あの長は問題あるまいが』

「エルだけ出すってワケにもいかんからなあ……森から出すには、結界を壊す以外に無い、か」


『なれば、術者である我を殺す以外にあるまい』


 つまるところ、そういうわけだ。


 神族は自らを殺めることが出来ない。これはシェラから聞いた。

 狂うことも許されず、死ぬことも出来ぬ、棺のようなものだと。


 なんというか、そう言われると神のなり手が少ない、というアズから聞いた話も納得は行く。

 現実を見れば自ら神になりたいなんて奴はそうそういないだろう。

 ヨシュアやホウセンは気付いたら神界に居たらしいし。


 とはいえ、そんな絶望を抱えていたというわけでもない、というのがアインのだった。


「我とて何代目の「アイン」なのかよく分からんのである。神族といえど、いずれは魂が昇華されるのである。その知識や経験を引き継ぎ、次の魂がこの身に宿るのである!」


 あの芸人曰く、神族というのは、身体や経験を器として、魂だけ入れ替わるものらしい。

 神族は己の存在を維持しなければならない。だが中身は入れ替わっても問題ない。

 それでいいのか神様と思ったものだが、悠久の時を経て不変のままで居続けるのは、人の領域では不可能なことだ。そして俺の知る限り、神界に居た神は、全て人だった。

 そう考えると、それなりに理に適っている……のだろうか?まあ、今考えることでもないか。


『ゼン・カノーよ。我は自らの責を果たした。ならば最後に、我はただの獣として、強者に当たる機を願う』


 ヴリテクトも代変わりしたのだろうか?いや、アインは自覚出来るものではないと言っていた。

 記憶が曖昧なことを考えれば、代変わりした可能性はあると思う。だが、「神獣」としてのヴリテクトは、死期を悟っている。


「最初から、そのつもりだったんだろう?」

『是と答えよう。この身は戦うためにある。老いたる身は、不要』

「神は殺せないはずだけど?」

『否である。汝ならば可能であろう。死を待つより、迎えたいのだ』


 ヴリテクトと戦う以外の選択肢は、ある。

 要は守護結界を破壊してやればいい。偶然とはいえ、一度破っているのは確かなのだ。

 だが……。


「……分かった、介錯しよう。真剣勝負(タイマン)だ」

『全力を尽くす。汝が死せば、それもまた運命よ』


 いくつかの要素を考えると、ここでヴリテクトに引導を渡してやるべきだ。

 一方的な死を迎えられない以上、俺が殺るしかない。


 運命?俺は運命なんて信じない。

 だから、負けてなんて、やらない。

 本来なら手段を選びたいが、切り札になり得るパーツは、持っている筈だ。

改訂する可能性があります。

ちなみにゼン君の成長期の勘違いについては、微妙に分かりにくいというか、私の文章の書き方がおかしいだけなんですけどね。

私も「あれ?」と思ったので、いずれ修正しようかなと。


さて、次回は貴重なゼン君のバトルシーンです。

あんまし期待しないでください……戦闘描写は本当に未熟なんですorz

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