精霊とフェアリー族
フェアリー族。
妖精族とも呼ばれる彼女たちは、元を辿れば、精霊種妖精族という、全く別の種族から始まった。
精霊種は基本的に自我を持たない。だが、【念話】を通して人類と関わり続けた結果、その中で進化した種が、妖精族と呼ばれるようになり、いつしか肉体を所持するようになった。
それが人類種としてのフェアリー族の始まりであり、精霊種としての妖精族の終わりでもあった。
なお、「精霊種妖精族」は、ゼンが無意識のうちに、ゼンによる復活を遂げようとしている事実があったりするのだが、それはさておき。
「あー、来た来たー」
「ホントだー。確かに精霊さんいっぱい連れてるねー」
透明な4枚の羽を持つ、3~4歳くらいの少女達が、木陰に隠れて来訪者を待つ。
精霊たちから、自分の主が里に向かっていると聞いた。あくまでニュアンスしか受け取れないが、それらしきことを聞いた。
ならばその人物が到着したら、まず驚かせようと思った次第である。
元から自分達に害をなす来訪者だとは思っていない。もしそうなら、精霊が教えてくれる。
フェアリー族は、産まれた時から容姿は変化しない。
成長するにつれて身体は大きくなるが、せいぜい80cm~90cm程度まで。
こうして来訪者を待つ少女達は、これでも成人扱いになる。成人したからといって、何かが変わることもないのだが。
彼女たちは人類種の中でも、かなり異質な部類に入る。
まず性別からして、女性しか存在しない。厳密には雌雄という区別がない。
また、同族同士で子を成すことが出来ないという、種として致命的な欠陥がある。
だが彼女たちは気にしない。何故なら自分達はフェアリー族だから。
そもそも子を成すことに、あまり頓着がない。同族が増えるのは嬉しいが、それだけだ。
流石に自分から死にたいとは思わないにしろ、楽しく生きられることを第一にする。死ねば精霊に還るだけ。
そんな奇妙な精神性を持っている種族で、本当に人類種なのかどうか、知識神であるシェラとしても答えにくいところになる。
「いっせーの、で行くよー」
「えー、それってどこで行くのー?さん、にー、いち、の方がよくない?」
「だねー。わん、つー、すりー、とかでいいよねー」
「えー、それって逆じゃなーい?」
「でもさー、数えるときは、いーち、にー、だよね」
来訪者を見張る役目をしていた幼女も含め、論点そのものがズレていく。これもフェアリー族にはよくある話。
木陰に隠れるという当初の行動すら忘れ始める。
彼女たちは何かに夢中になると、歯止めが効かない。そもそも隠れて待つということが、彼女たちは苦手だったりする。
そんな彼女たちだが、何故今まで滅亡することなく生きてこれたのか。
それは精霊の守護と呼ばれる、精霊を引き寄せる力と、精霊と意思疎通が出来る点に尽きる。
危険が近づけば精霊が教えてくれる。困ったときは精霊が力を貸してくれる。
つまるところ、彼女たちは、常に自分を守ってくれる存在が傍にいるからこそ、今まで種を繋いでくることが出来た。
もっとも、種族特性上、果てしなく不老に近い彼女たちは、最後の1人が死なない限り、種を繋ぎ続けることが可能なのだが。
この地上で、精霊の存在が失われたとされている理由の一つに、フェアリー族が人里から姿を消したことが起因の一つになっている。
精霊と心を通わせられるものが少なくなり、人類がフェアリー族を通さなければならなくなると、心無き者がフェアリー族を捕らえようとした。
その危機を精霊が知らせると、彼女たちはこぞって人里から離れ、今の迷いの森に住み着いた。
それが精霊との繋がりを更に人類から引き離すことになり、ついには精霊という存在が人類の意識から消えてしまった。
この真実を知る者は、既にアクイリックには存在しない。
だが今この時、その真実に近づこうとしている者が、フェアリー族の里に辿り着こうとしていた。
◆◆◆
えーと……多分あれだよな?フェアリー族って。
なんかもめてるけど、あれって隠れてるつもりだったりすんの?
そんなに人数は多くない。30人もいないくらいか。
みーんな幼女にしか見えんのだけども、そういう種族だってことは一応知ってる。現物を見るのは初めてだけど。
俺が見える妖精を、幼くして、大きくしてみました、って感じだ。ラピュータを幼くしたら、こんな感じに見えそう……かな?
さてどうしたものか。警戒させない程度の距離で一旦立ち止まり、考える。
エルフの里を出てからおよそ30分。そこにフェアリー族の里があった。
この30分という距離は、今の身体にかけられる負荷を限界近くまで振り絞って走り続けた結果なので、参考記録だろう。
本来ならば、妖精にして「俺なら半日」という距離があったはずなので、普通なら「歩いて2日」くらいの距離があったのではなかろうか。
道順なんかは全く無視して、森をなぎ倒しながら進んできたが、多分位置的には川の上流辺りになるはずだ。
どこからどこまで川が流れているか知らんから、上流と言えるのかは知らんけど。
(あの子たち、マスターを驚かせようとしてた。けど、それを忘れちゃったみたい)
(悪い子たちじゃないけど、ちょっと、お馬鹿)
珍しく妖精が呆れた感じに述べてきた。
口調ほど馬鹿にしている感じではなく、何というか、「仕方ないなぁ」みたいなニュアンスを感じる。
(あの子たちは、ずっと私たちと一緒。マスターほど、お話出来るわけじゃないけど)
(できれば優しくしてあげてほしい)
(今でもフェアリー族は、精霊が認識出来てるってことか?)
俺の問いかけに肯定の意思が伝わってきた。
フェアリー族というのは、精霊との親和性が高いのだろう。シェラやラピュータもそんなこと言ってたっけ。
妖精は自分たちとよく似てる、とも言っていた。何が似ているかはよくわからんが、それっぽい感じはする。
いや、ちょっと待て。今何か不思議なことというか、とてつもなく珍しいことを妖精が言わなかったか?
(……今、「してほしい」って言ったよな?)
(うん。……うん?)
一同首を傾げる妖精達。自分でも不思議に思ったのか?
「精霊は意志を持たない」と言ったのは、ラピュータだった。
実際そう感じたことはなかったし、ひとりひとりに対して向き合っていたつもりだったが、こうやって「お願い」をされたことはない。
それだけフェアリー族が精霊にとって特別だということもあるだろう。しかし……
(マスター。あの子たちは、私たち。だから、いなくなったら、さみしい)
別の子の伝えてきた内容を反芻しつつ、考える。
ひとつはフェアリー族という人類種のこと。
もうひとつは、精霊という存在が俺に「お願い」をしてきた意味。
……いずれにせよ、精霊の「お願い」を聞かないわけにはいかんわな。
彼女たちは、俺が異世界に来て、ずっと助けてきてくれた、最初の仲間だし。
「強そう」
「なんかすごそう」
「えらそう」
「小学生並みの感想ありがとう。じゃなくてだな、とりあえず最後のはそうでもないだろ。初めて言われたぞそんなん」
「えっと、態度とかじゃなくて、「おにーさんが」えらそう。なんかあんまし人っぽくない」
「うん、あの狼さんと同じ。でもおにーさん、まだえらくない。えらくなりそう」
なんか、頭痛くなってきた。フェアリー族は一応人類種のはずだけど、妖精と話すより頭悪い会話してる気がする。
「精霊さんがいっぱいだから、もうえらい」
「だねー。おにーさんすごい」
「狼さんより強いかどうかは、わかんないけど」
「もう少し建設的な会話がしたい……この森に住む人類種は変なのしかおらんのか」
「変なのはおにーさんのほう。えるふさんだけど、えるふさんじゃない。人間さんっぽい?でもちょっと違う。ふしぎー?」
見た感じはとても愛らしい幼女軍団、それがフェアリー族。
着ている服は何故か皆同じで、レオタードみたいな一体型だ。色は統一されていないようだが、緑や水色が多いだろうか?あまり暗い色は使われていない。
可愛いとは思うが、見た目が見た目なので、それ以上に感想はない。ないったらない。
いかんせん3~4歳くらいの幼女ばかりで個人ごとの特徴が分かりづらい。強いて言えば髪の色が結構まちまちなことくらいだろうか。
あと髪の量が多いのか、元々髪質がそうなのか知らないけど、もこもこしてる。ネリーの猫耳のように、触りたい衝動に駆られる。
じゃなくてだな、そうじゃなくて。
なんかすごく大事なこと話してる気がするのに、そういう空気じゃないっつーか。
とりあえず近づいてみたら、いっせいに寄ってこられてわちゃくちゃされて、好き勝手に感想を述べられたわけで。
そんでもって、かなり的確に「俺」がどんな存在か、見抜かれているような……。
ちゃうねん、この際俺はどうでもええねん。
「いや、俺はエルフだ。クォーターになるけどな。人間っぽいのも、4分の1くらい人間族だからだろ、多分」
「うーん、そういうことじゃないんだけどなー。なんか、中身の問題?」
「精霊さんに好かれてる人だしー、何でもありだと思うけどねー」
「なんだろ。勇者さんと同じ感じ?でも勇者さんのお嫁さんに近いかも?」
「そういえばシズカさんに似てるかも?」
「くろえるふさんだもん。おにーさん性別間違えた?」
何やら核心を突いたことを言われてる気がするのだが、いかんせん緊張感というか、話に集中できん。
わちゃわちゃと集まってくる幼女軍団にぺたぺたとあちこち触られながら会話しているので、気になるワードがあってもそれを聞けん。
正直会話になってない気がしてならんけど。
「勇者って、シツネ・ミナモ?面識あったりする?」
「ううん。勇者さんはしらなーい。でもお嫁さんとは会ったことあるよー」
「わたしもあるー」
実際何歳なんだこいつらはと思い、面倒になってきたので近場にいる紫髪の子に【完全解析】を試みたのだが……。
名前 パリィウォRフョЯェリャー
年齢 ???歳
種族 人類種フェアリー族
職業 伝達者
称号 なし
状態 健康
Lv:なし
生命力:12/12
魔力量:459/459
筋力:8
器用さ:192
素早さ:43
魔力:232
精神力:14
運:87
魅力:120
経験値:なし
固有能力:【念話】
なんじゃこりゃ?というステータスに内心首を傾げる。
年齢については不明。これはまあいい、自分のステータスでも未だ不明な点はある。【完全解析】でも分からないことは分からない、こういうこともある。
だが名前や歪なステータス、そしてレベル欄が「なし」。ついでに汎用能力も「なし」というのは、どういうことだ?
他の子も何人か見てみたが、この子だけが特別ということではなく、名前が違う程度で、ほとんど変わりがない。
幸いにして、一度「見た」ものに対しては【完全解析】のヘルプが効く。「フェアリー族」について調べてみる。
フェアリー族
精霊種妖精族が個体として進化した人類種。
ヘルプこれだけかよ!ちゃんと進化してんのかよ【完全解析】!
もう【完全解析】(笑)になってるじゃねーか!
神のステータスさえ把握出来る、俺のある意味最強のスキルが、これほど役立たずとは思わなかった。
「なんかわかった?」
「なんでわかった!?」
「んー、私たちって、それなりにビンカンだから?」
「意味が分からん。どゆこと?」
しかも【完全解析】使ったのがバレてるっぽい、理由もわけわからん。
「おにーさんからは、全然悪い感じしないからいいけど、私たちってそういうの結構分かっちゃうんだよね」
「そーそー。見られそうになったらだいたい逃げちゃうもんねー」
「すたこらさっさだぜーい、いえーい!」
「いえーい!」
「OK俺が悪かった、ちょっと落ち着くから、いい加減離してくれ」
すたこらさっさ、いえーい、意味不明すぎる。
そしてそんなことを言いながらぺたぺた張り付いてくるのはそろそろやめてくれ。
何人か羽で飛んで、俺の顔まで張り付いてくるもんだから、話し辛くて仕方ないうえに、振りほどこうにも幼女なもんだし、力任せってわけにもいかないし。
しかもこの子たち生命力ごっつ低いから、下手すると死にかねん。これまでどうやって生き抜いてきたのか謎なレベルだ。
「えー、やだー」
「おにーさんいい感じだもん。なんかキモチイイしー」
「種付けしてもらおっかなー」
またきな臭くなってきたよ。俺そんなんばっか?
しかもこんな幼女相手にどうしろと?
(諦めも肝心。多分マスターから、この子たちが好きなニオイ出てる。消せないやつ)
妖精にまで諦めろ言われた。
もうやだこの森……。
◆◆
ぺたぺたされまくって、頭悪い会話を続けること小一時間、ようやく解放してくれた。
ものごっつ疲れた。
シリアスになる空気がこれっぽっちもなかったのにも関わらず、精神的疲労がハンパじゃない件。
「で?なんだっけー?」
何やらツヤツヤとしている幼女から、一通り満足したのか、出てきた言葉がそれ。流石に殴りたくなってきた。
「色々聞きたいことはあるんだが、なんか、無駄な気がしてきた」
「多分そうだねー。私たちあんまり賢くないもん」
「だからおにーさん。用件を分かりやすく、一言で!かもーん!」
かもーん。じゃねえよもう……。
昨日からもう俺のメンタルがゲシュタルト崩壊してるわ、割とマジで。精神力パラメータ仕事しろや!
頭痛を抑えつつ、今のフェアリー族に、分かりやすく、一言で用件を尋ねるための言葉を探す。
とりあえずまとめよう。
俺がそもそもこの里に来たのは、森の主に会う前に、フェアリー族から情報を収集することが目的だった。
そこで一族の事情やら何やらを聞いて、森の主に会ったとき、万が一……もしかしたら、百が一くらいの可能性かもしれないが、それに備えるつもりだった。
いつも助けてくれている妖精たちからの「お願い」もある。何よりフェアリー族は、どうやらこの世界について大変詳しいようだ、俺にとってはそれだけでも価値がある。
となれば、俺がフェアリー族に対して「したいこと」となると……。
「森から出て、一緒に暮らそう?」
「うんわかったー」
「いやちょっと待った、なんか色々言葉が足らんかった、悪かった。考え直す」
極限まで削ぎ落として、俺から出た疑問付きの一言に、あっさり頷くフェアリー族。
なんか違うよな?コレジャナイ感が酷かったぞ今。
「え?でもなんか、それっぽかったよ?」
「うん、だいたいそんな感じだよね?」
「何がどう分かるん?君たち意味不明やぞ……」
「おにーさんの思ってること。一言で分かりやすかったよ?」
これで伝わったらしい。わけわからん。
おかしい。俺の中ではもっと複雑なんだが。
「おにーさん、私たちのこと、心配してくれてるんだよね?」
「この森は危ないよーって伝えてくれてるんだよね?」
「だから「俺のところに来い!」って言ってるんだよね!かっこいー!」
おかしい。なんかだいたい合ってる気がしてきた。
この一族に関しては、俺が考えすぎなのか?考えるだけ無駄なのか?
かっこいー、じゃねえよ。
「分かりやすかったよー。狼さんにお別れしにいかなきゃいけないね」
「そう、それだ。狼さん、ってのは森の主……「神獣」のことで間違いないか?だったら……」
「おにーさんにお任せ!あとでついてくからだいじょーぶ!」
「丸投げするのかよ!」
「え?「俺に任せろ!」ってことじゃないの?違ったっけ?」
「だいたいそんな感じだったよね?」
「うん、そんな感じ」
およそのことを「だいたいそんな感じ」で色々済ませてしまう幼女軍団。
色々な意味で先行き不安すぎる。しかも合ってないかって言われると、否定しにくいのが困る。
話が早いのは助かるし、シンプルなのもありがたいけど、本当に大丈夫かこいつら。
(あのね、マスター。この子たち、私たちとあんまり変わらないから、マスターだったらしょうがないの)
(意味が分からんぞ?)
(私たちはマスターが好き。だからこの子たちもマスターが好き。マスターに自覚がないだけ)
(全く意味が分からんぞ!?)
(私たちにしか分かんないかもしれないけど、マスターはマスターだから)
俺が精霊に好かれやすいのは、【念話】持ちかつ【完全翻訳】のおかげで、完璧な意思疎通が可能だからだと思っていたのだが、どうやら他にもあるらしい。
妖精が言いたいことは、そういうこと、なのだろうか?
フェアリー族よりはマシな会話が出来るけど、妖精に物事を尋ねるのは難しいんだよな。
っていうか意思疎通レベルが精霊より低いフェアリー族って……。
(この子たちはお馬鹿さんだけど、マスターが思っているほど、ものわかりは悪くない)
(私たちより、ヒトの感情がよく見えるから、そんなにおかしな判断はしない)
俺の心配事を察してか、妖精からフォローが入った。
っていうか、さっきのフェアリー族のヘルプにあった内容を考えると、フェアリー族と妖精って、多分ほとんど変わらんのよな。
俺が「妖精」と評しているのは、1つの精霊の集まりがそれぞれ「妖精」という個に見えるからそうしているのであって、これまでそう呼んでいたわけだけども……どうやら元々「妖精族」という一族が、「精霊種」の中に居たらしい。
その進化した先に「人類種フェアリー族」が誕生した。となれば、どちらも大元は「精霊」ということになる。この辺りが妖精にして「私たちとあんまり変わらない」部分になるのだろう。
これはもう、精霊神に直接聞いた方が早いだろう。
何やら引越しの準備を始めたフェアリー族を放置して、【思考対話】を試みる。
森に飛ばされてからも、ラピュータとのリンクは、問題なく作用していることは確認済みだ。
(ラピュータ。お前に聞きたいことがあるんだが)
(カノー様?私に聞きたいこと、ですか?何でしょうか?)
(お前って、精霊神だよな?今更だが、精霊神ってのは、「精霊種」を持つ「種」の神って認識でいいのか?)
リンク先から流れてくるのは、戸惑いの感情。質問の意味が分からない?
(あの、カノー様。「精霊種」とは何でしょうか?)
(……お前さ、フェアリー族って、元々精霊だった、って知ってた?あと「妖精族」って知ってる?)
(えーっと……存じ上げません。精霊は精霊、としか)
なんかもうダメっぽい感じだ。あ、向こうも落ち込んでる。
そうだよなぁ、俺も忘れてたけど、ラピュータって「気が付いたら精霊神になってました」っていう、謎の神族なんだよなぁ。今思えば、ホントに神かすら怪しいんだよな……。
聞くだけ無駄かと思いつつ、疑問をもう1つ尋ねておく。
(あとさ、精霊が「お願い」することって、あるのか?)
(ありえません。もし「お願い」されたとすれば、それはカノー様だから、としか答えようがありません)
言いたいことは伝わったらしいが、妖精と同じレベルの回答しか返ってこなかった。
「精霊神」として断定してきた内容なので、まあ間違いはないのだろうが……となれば、どうなんだ、これは。
(以前にもお話しましたが、精霊が意志を持つことはありえません。意志を持ったのであれば、もう単純な「精霊」とは呼べないと思います)
なんというか、初めて精霊と出会った頃から思うことだけど、「ヒトの役に立ちたい」という思いは「意思」としても、「意志」とはまた違うものなんだろうか?
そのくらい精霊という存在があやふやだってことを言いたいんだろうけど、どうにも腑に落ちん話なんだよなぁ。
どうも召喚魔術で呼ぶ「精霊獣」も精霊神の管轄外みたいだし、「精霊種」という概念自体がないのかもしれない。今度シェラに聞いといて、とラピュータに伝えて、【思考対話】を終える。
いつでもラピュータと話が出来るようになったのはいいものの、実際のところ、神界にいる神から引き出せる情報で、地上で役に立つことってほとんどないんだよなぁ。
ラピュータを通して他の神に物事を尋ねるのは可能だけど、レスポンスがすぐに返ってくるわけでもない。
こっちと神界は時間の流れが全く別物なので、ラピュータとしては「すぐに」他の神に尋ねたとしても、俺としては数週間後であったり、下手すると年レベルで先じゃないと答えが聞けなかったりする。
そもそも【思考対話】を通すには、俺からアクションが必要なわけで、結局自力で調べるのが的確かつ早かったりするわけだ。
何にせよ、魔術のことにしろ、エルフ族のことにしろ、神界にいる神々と現状では、相当ズレがあるようだ。
歴史にも正しく伝わらない単位で時間が経過している以上、仕方ないか。
フェアリー族とまともに会話が出来るようになれば、また分かることも出てくるだろう。それがいつになるかは分かったもんじゃないが。
あ、「神獣」のこと聞き忘れた。まあいいか、ラピュータが知ってるかどうかは微妙だしなー。
◆◆
「えるふさんのところにいればいいの?」
元々たいしてモノを持たないフェアリー族があっさり引越し準備を終えると、代表として紫のフェアリー族がそう聞いてきた。
この子がリーダーってわけじゃないみたいだが、みんなで行くと物事が決まらない、という学習はしたらしい。
名前は本人曰く、「パル」という。自分でも長いうえに読めない名前だから、色々略してパル。どこをどう取ったらそうなるか知らん。
だいたいなんで自分でも読めない名前なんだと聞いたら、パルの言葉を要約しつつ、妖精にフォローしてもらった結果、「フェアリー族は最初から名前を持って産まれて来る」ということが分かった。
「個」としての意識が低い彼女たちからすると、名前はそう大事なものでもないらしい。そういう問題かどうかももう知らん。
今分かることは、フェアリー族というのはとにかくアバウトな連中だってことだ。
「今すぐってわけじゃないけど、森を出るときに外へ連れて行く予定。近々そういう機会が来ると思う。というか、何故エルフの里に?ここで待ってても構わんが」
「なんか、色々はぶけそうだから」
端的に答えるパルに、色々頭を抱えたくなる。
なんでこいつらは……いや、もういいか。もうこいつらは妖精と同じ扱いにしよう、そうしよう。
迂遠な物言いではなくて、シンプルに。考えをストレートに出そう。
「とりあえずここに居ろ。早ければ10日後くらいに迎えに来る。オーケー?」
「おっけー!いつでもいいよー!」
10日後というのは、森の主の使いがエルフの里に来る日が、それくらいになるという話を聞いたので、それを前提に設定した。
2~3日ズレが出るかもしれないが、多分フェアリー族からすれば誤差みたいなもんだろう。
ともあれフェアリー族のことは、ひとまずこれで棚上げだ。色々なことは無事森から出られた時に、また考えよう。
エルフの里に戻る最中、走りながら今後の展望を考える。
これからやるべきことはいくつかあるが、森の主である「神獣」に会わないことには先に進めない。
そこからまた問題が出てくるだろうが、今重要なことではない。今やるべきことは、割と単純なはずだ。
「神獣」に会い、リリーナとフランを連れて、森から出る。
最もシンプルかつ、最重要なポイントはここ。
それに付随しているのが、エルフ・フェアリーの両種族の件であり、重要ではあるが優先ではない。
見捨てるというわけじゃない。あくまで優先順位が違うだけだ。当然何とかしてやりたいという気持ちは持っている。
仮の話。もし「神獣」と敵対し、倒さねばならないとしたら。
コアブレイク。
俺が作った神具にして、ある一点を除けば、ごく普通の短剣。
神具ゆえの超強度を持っているものの、切れ味が特別いいわけでもない。使用者認定されているだけに、やたら手に馴染むが、それだけの短剣。
この短剣にその名を付けたのは、誰でもない俺自身。何故そんな短剣を作ったのか、そんな名前を付けたのか。
魔物のコアは強さが上に行けば行くほど強度が増す。
その中でも「特級」という強さのコアになれば、並みの武器では破壊出来ず、放置すればいずれまた復活する。
これはホウセンから言われたことだが、地上でこの特級と相対した場合、敵は倒せるにしろ止めは刺せないという。
その時のために、神界にいる間に、その手段を用意出来るだけの力を付けろ、と。
以前母さんにも聞いたが、<災害級>レベルの相手となると、普通に出回るような武器では傷一つ付けられない。
例外は父さんの元愛槍のような古代道具級くらいなもの、らしい。俺が作る武器なら、<厄災級>くらいでも問題なく割れるけど。
ではどうやってコアである魔石を破壊するかというと、複数人で魔力を絞り出し、一斉に魔法を使って壊す、というのが一般的らしい。
もっとも、<災害級>の魔石ともなれば金銭的価値も高く、壊さずに倒せるならそれにこしたことはないようだが。
とまあ、このような手段を何かしら準備しろということだ。
だが神界では、俺は魔力量以外のパラメータは変化しなかったし、戦闘経験は積めても自分の力の底上げは不可能に近かった。
【精霊魔法】という例外はあったにせよ、少なくともホウセンとの戦闘訓練において、それを主軸にしたことはない。
魔術縛りをしていたわけでもないが、当時は原始魔術もろくに使えなかったし、上級になれば目に見える弱点であるコアを剥き出しにしている魔物の方が少なかった。
ホウセンとの訓練では、まず武力で倒し、止めを刺す方法については別途用意することになった。
その結果作り出したのが、このコアブレイク。ミニッツ鋼を使用して作ったこの短剣に付与した能力は、「弱点に刺せば必殺」というもの。
それ以上の能力は持っていない。これだけで十分すぎるほど「神具」という扱いになる能力だからだ。
相手が誰であろうと関係ない。魔物であれば、コアにこの短剣さえ突き立ててしまえば、それで決まる。弱点さえ突けば、それで終わる。
そう、相手が誰であろうと関係ないのだ。
――それが、「神」と名が付くものであろうとも。
「神獣」と戦いたくない理由はいくつもある。
一番の理由は、「境界」が消えることが、まだ望ましくないということ。
いつかは超えるつもりでいる。だが、まだやるべきことが、人類側で大量に残っている。
「神獣」の存在を失うことで「境界」が消えると仮定すると、やはり、戦うことは望ましくない。
問題は、今の状況がそれを許してくれるかどうか、だが……。
「森に飛ばされてからずっと敵対視されて、結界から出ても監視を付けてきた。態度を変えてきた、ってこたぁないよなぁ……」
単純に戦うだけで済むとしても、色々不安要素がある。
「勝てるかどうか」という不安もあるが、「何事もなく」を付け加えるとなると相当怪しい。
神獣の眷属の強さでさえ、リュタンにして「負けないけど、楽が出来る相手ではない」という評価。
その主ともなれば、ガルムやリュタンより確実に格上の相手。あの二匹の強さを超えるとなると……。
走りを止める。
さっきから全速を出してはいるが、あくまで「出せる範囲」での全速に過ぎない。これ以上は負荷がかかりすぎる。
見た目では分からない、俺の身体の異常。低下したままの肉体的限界と、伸び続けるパラメータとの乖離。
やろうと思えば【限界突破】も効くだろう、出せる力はもっとある。
軋む膝に両手をつき、下を向く。
これでも超人的な体力、走力であることは自覚している。
だが、「神」と呼べる存在と戦う、となると、正直心もとない。
この状態で、本当に「神獣」に勝てると言えるのだろうか?
いや、勝てないとは思わない。だが、果たして「無事」でいられるかどうか。
どうにも激しく嫌な予感がする。穏便に事が進めば、それが一番いいのだが……。
ゼンがやたら好かれる理由の一つに、「魅力」の数値も桁外れに高いことがあります。
ついでに男女関係なく、都合よく魅力的に捉えられます。
だから中性的な見た目になっている、というゼンにとってはありがたくない理由が、少なからずあったり、なかったり。
ネタバレとして、いつまでも「男の娘」っぽいわけではない、とだけ。




