7話 違和感の正体
「まず、王女の護衛騎士は全員、俺の隊の者に代えろ。崖に着いたら俺が彼女を連れて行く。その間、アンジェラ王女が俺たちの側に来ないよう、できるだけ馬車の中で待機するよう促してくれ」
「わかりました。しかしその後、団長たちはどうするのですか? まさか、そのまま崖下にドボンなんてことはないですよね? 夜中の雨で川は激流です。いくら団長でも、さすがに……」
「それは大丈夫だ。彼女と一緒に崖から飛び降りた瞬間に転移する予定だ。むしろ心配なのは、その後のアンジェラ王女だな……」
俺が崖から飛んだ後は、ケリーが王女の相手をしなければならない。騎士団長の俺まで崖に飛び降りたとなれば、混乱を招くだけだ。しばし考え込んでいると、ケリーは真剣な顔で提案した。
「ここは侵入者の女を悪者にするのはどうでしょう。彼女には仲間がいて、騎士団長ごと連れ去られそうになったが、間一髪、転移で逃げたとか――そんな話に」
ケリーの言葉に、一気に感情が沸き立った。いつも無表情だとからかわれる俺が、苛立ちを隠せず眉間にしわを寄せていた。俺の険しい表情に違和感を覚えたのだろう。真っすぐな性格のケリーは、物怖じせず意見を述べた。
「この作戦は、いったん彼女を別の場所に留置して取り調べを続ける、ということではないのですか?」
「…………」
答えられなかった。なぜなら俺の頭には、彼女を取り調べるという考えがまったくなかったからだ。
(俺はただ彼女を連れて逃げたい一心だったのかもしれない。これでは本当に騎士失格だ……)
黙り込む俺に、ケリーは目を丸くして驚いていた。それでもまだ俺を信じてくれているのだろう。まるで俺に正気に戻れというように、強い口調で話を続けた。
「そもそも、団長がご自身の命をかけてまで、謎の侵入者を助けることの意味がわかりません。もちろん、王宮に侵入した彼女をすぐに処刑するのは反対です。その裏にどんな思惑があるのかもわからないのですから。しかし今の団長は感情で動いているように見えます。違いますか?」
俺とケリーは同い年で、騎士としてずっと共に過ごしてきた。誰よりも俺の行動や考えを理解している。彼女に対する気持ちを隠せば、これまで築いてきた信頼すら裏切ってしまうだろう。俺はふうっと息を吐くと、ケリーに向き合った。
「いや、おまえの言うとおりだ。不思議なんだが、昨日彼女が現れてからというもの、俺の頭は変なんだ」
昨日から続く彼女への好意や、頭に浮かぶ言葉をケリーに話すと、彼もまた黙り込んでしまった。しばし二人で静まり返った部屋で考え込んでいると、ケリーが何か思いついたように口を開いた。
「……もしかしたら、団長の聖魔力に関係しているのかもしれませんね」
「聖魔力?」
「はい。通常、聖魔力を持つ者には、精神関与の魔術は効きません。聖なる力が守っているからです。しかし彼女が現れてから、団長の頭には不思議な声が聞こえている……」
「ああ、しかも彼女に関することだけだ」
ケリーはうなずき、「ふむ。それならやはり……」と呟いた。
「今牢屋にいる彼女は、聖魔力に似た力を持った者。もしくは聖魔力が未覚醒なのかもしれません。もしかしたら、お互いの魔力が共鳴しているのではないでしょうか?」
「彼女と共鳴……」
彼女が悲しめば、俺も苦しくなる。助けを求められれば、救いたいと思う。彼女に触れた時に感じた幸せや、笑顔を向けられた時の喜び。それが「共鳴」というならば、一番しっくりくるのだ。
(それにしてもアンジェラ王女が言っていたように、あとから聖魔力が覚醒することはあるのだろうか。それなら王女も嘘をついていないのか?)
ますます頭が混乱しそうな考えにため息をついていると、ケリーが俺の騎士服や旅の支度を始めた。
「ですから、転移する先は聖教会付近にしてください。俺は二人が飛び降りる瞬間に馬を暴れさせ、アンジェラ王女の視線をそらします。その後、王女には団長が無事に転移して、王都に戻った可能性があると言えば、その場を離れられるでしょう」
「わかった。それでいこう。アルフレッド殿下なら理解してくれるはずだ。きっとケリーには殿下からの呼び出しがあるだろう。説明を頼めるか?」
「わかりました。では急ぎましょう!」
聖教会には結界が張られているため、直接の転移はできない。長旅にはならないだろうが、野営の必要があるだろう。それにもう時間がない。これ以上ケリーとの打ち合わせする余裕はなかった。
俺たちは取るものも取りあえず、アンジェラ王女のもとへ向かった。




