表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【コミカライズ配信中】すべてを奪われた聖女~二度目の召喚で待っていたのは処刑でした~   作者: 四葉美名


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
32/39

31話 最後に見つけた光


(転移してる! なぜアンジェラ王女が魔術を?)


 一瞬で景色が変わり、気づけば見知らぬ丘の上に立っていた。風が強く、遠くには小さな町が見える。


(……ここ、どこ?)

「大人しくしてなさい!」

「きゃあ!」


 アンジェラ王女に乱暴に背中を押され、私は地面に突っ伏した。倒れたのは、魔法陣が描かれた布の上。私の魔力を吸ったのか、ぼんやりと光り始めている。


(まさか……日本に帰される?)


 急いで立ち上がろうとするが、力が抜け動けない。まるで大きな掃除機で吸われているみたいに、体が魔法陣に引っ張られ、身動きができないのだ。


「はっ……はあっ……!」

(これは……魔力を抜かれてる……?)


 体全体がしびれ、めまいで頭がくらくらする。私は指先ひとつ動かせずに、ただ息を荒げるしかなかった。


「アンジェラ王女、無事成功したのですね」

「フン! こんなの簡単よ!」


 エリックだ。やはりこの魔法陣も、アンジェラ王女の転移術も、師匠が作ったものなのだろう。彼は魔力を抜かれ続ける私を見てせせら笑っている。


「なにが弟子だ。魔術も使えないくせに、ジャレドの隣で偉そうにしやがって」


 憎しみのこもった声でそう吐き捨てると、エリックは私の前にしゃがみ込んだ。気づかなかったけど、そうとう彼の恨みを買っていたらしい。


「浄化しかできないくせに、聖女だとちやほやされて楽しかったですか?」


(……この人もアンジェラ王女と一緒だ。浄化がどれだけの人を救ってきたのか知ろうともしない)


 きっとこの人は師匠に認められたかったのだろう。すれ違いがあったとはいえ、天才魔術師と名高いジャレドの弟子になったのだ。しかし、ジャレドはエリックを雑用係としてしか見ていなかった。


(それなのに魔術が使えない私が師匠なんて呼んで、ずっと一緒にいたら……)


 プライドの高い彼にとって、その光景はさぞや不愉快だったはず。エリックは私を睨みつけながら、自分がどんなに優れた人間か、俺こそがジャレドに認められるべきなんだと、わめいている。


「……だいぶ魔力が戻っていたようですね。さすが聖女様。それなら最後に、聖女らしく結界の修復をしてください」


 そう言うと、エリックは魔法陣に手を置き、魔力を流し始めた。ブンと音がして魔法陣が青く光り、いっそう強く私の魔力を吸い始める。


「くっ……」

「以前使った、忘却の魔法陣ですよ。これには魔術の痕跡が残っている。あなたが浄化せずとも、魔力を流すだけで結界に繋がるはずです」


(結界と繋がる……? まさか、私の魔力を使って……?)


「私には薄くしか見えませんが、あなたは結界の穴がはっきり見えるでしょう?」


 エリックは満足そうに笑い、空を見上げた。 たしかに遠くの空に結界の穴があり、そこから黒い瘴気が降り注いでいる。


(……ということは、あの下がケセラだ! 近いわ! カイルのもとに戻れるかも!)


 無理だとわかっていても、私は必死に体をよじった。だが、その動きを見て王女が嗤う。


「大人しくなさい。そうすれば殺したりはしないわ。そのかわり――もう一度、忘却の魔術をかけてあげる」

「今度はジャレドもこの国にいますから、あなたを覚えていてくれる人はいませんよ」


 そう言うと二人は、堪えきれないといった様子で笑い始めた。


(もう一度、忘却の魔術をかける……? じゃあ、せっかく私が聖女だって知ってもらえたのに、それがなかったことになっちゃうの? そんなの絶対に嫌!)


「んんん~!」

「無駄だ。町からはこの丘は見えない。たとえ魔術が発動したことにジャレドが気づいても、その時にはもう、君のことを忘れている」

「愛し合ってるカイルもね。残念だわ」


 二人の下卑た笑い声が遠のいていく。視界がかすみ、耳鳴りまでしてきた。


(嫌だ……絶対に、カイルに……思い出してもらうんだから……)


 ひどいめまいが襲うなか、それでも私が二人を睨みつける様子に、エリックが眉をひそめた。


「成人した騎士でも、こんなに大量に魔力を抜かれたら気絶しますよ。異世界の人間はやっかいですね」


(そんな危険なものだったなんて……。なんて人だ。でももう、限界……)


「さあ、忘却の魔術が発動しますよ」


 彼の言葉どおり、魔法陣が虹色に輝いた。光の柱が天に伸び、螺旋を描いて結界に溶けていく。そして一瞬、空全体が虹色に光り、さっきまであった結界の穴はなくなっていた。二人は満足そうにうなずき、私を見下ろす。


「これでカイルは、あなたを忘れたわ。もう助けなんて来ないのよ」

「今頃、なぜ自分たちがケセラの町にいるのか、不思議に思っていることでしょうね」


 私の魔力をすべて吸い取ったのか、魔法陣の光が消えた。ようやく体を動かせるようになり、仰向けに転がる。


(またみんなに、忘却の魔術がかかったの? 今は師匠もこの国にいる。私を覚えている人はどこにもいないの?)


 悔しくて泣いてしまいたいけど、二人の前では絶対に涙を見せたくない。それに魔力がなくなったって、私のことを忘れてしまったって、教会に行けばなんとかなるかもしれない。


(何度やり直しても、またカイルに会いたい……!)


 しかしそんな一縷の望みも、エリックの言葉でぷつりと絶たれてしまった。


「諦めなさい、元聖女様。結界の修復も終わり、あなたの役目は終わりました。いずれ瘴気もなくなるので、司教様があなたを再び召喚することもないでしょう。でもね、私は親切ですから、あなたを元の世界に帰してあげますよ」

「そ、そんな……!」


 ニヤリと笑った二人は逃げようとする私を捕まえると、両手両足を縄で縛り始める。そして新しい魔法陣を取り出し、その上に私の体を乗せ、動かないように近くの木に縄でつないだ。


(こんなのまるで生贄じゃない……!)


 私は恐怖でぶるぶると震え、声を出すことができない。それなのに目の前の二人は愉快そうに笑っている。


「さようなら、無能な元聖女」

「カイルは私が幸せにしてあげるわ」


 二人はクスクスと笑いながら魔法陣に手を置く。二人の魔力がゆっくりと流れ、私の体が光り始めた。


(もうダメ……。また日本に戻されちゃう……!)


 その時だった。

 ――ズドンッ!


「ぐわっ!」

「きゃあ!」


 突然爆風のような衝撃が走り、二人の体が吹き飛んだ。土煙の向こうで、泥だらけの王女とエリックが地面に転がっている。


 一瞬の出来事で、何が起こったのかわからなかった。見えたのは、虹色の巨大な光が二人を襲ったことだけ。


(虹色の魔力。まさか、あれは……!)


 眩い光の中、遠くから私の名を呼ぶ声が聞こえた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ