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【コミカライズ配信中】すべてを奪われた聖女~二度目の召喚で待っていたのは処刑でした~   作者: 四葉美名


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30話 王女の企み


(えっ? ケリーさんが私を裏切った? 師匠は突然何を言いだしたの?)


 驚いて振り返ると、そこにはすでに臨戦態勢に入っているジャレドがいた。高くかかげた手には魔力が込められ、パチパチと火花が散っている。空気が震え、肌が焼けるように熱い。初めて見る師匠の本気に、私は声を出すことすらできなかった。


「ジャレド! いったいどうしたんだ!」

「は? え? お、俺が裏切った? ジャレド様は何を――」


 困惑するカイルたちに、師匠は冷たい視線を向けたまま動かない。


「ケリー。おまえ、王女に情報を流しているだろう」

「なにっ!」


(ケリーさんがアンジェラ王女に、私たちの情報を……?)


 その発言に、全員が息を呑んだ。空気が凍り、時が止まったように誰も口を開かない。ケリーさんも、目を見開き、まるで悪い夢をみたような顔で立ち尽くしている。


「え? 俺が、王女に情報を? そんな、馬鹿な!」


 ありえないといった表情で師匠の言葉を否定するが、ジャレドはケリーさんに向けた腕を下ろさない。それどころか、魔力はさらに強くうねり、今にも攻撃が放たれそうな勢いだ。


「ジャレド! ケリーは俺の仲間だ。裏切ることなんてない! だいたい王女側について、なんの得があるんだ!」


 カイルが二人の間に割って入り、師匠の腕を押さえる。自分の大切な部下で、親友でもあるケリーさんに攻撃をしようとするのが我慢ならないのだろう。


(たしかに、カイルの言うとおりよね。ケリーさんは昔からカイルや殿下と共に過ごしていて、信用できる人だ。それに師匠は、ケリーさんの何を見て裏切り者だと言ってるんだろう?)


「……たしかに、君の部下に得はないか」


 カイルの必死の行動に、ジャレドは攻撃体勢をやめ、首を傾げた。


「じゃあ、粗忽者(そこつもの)かな?」


 ケリーさんへの呼び方が、「裏切り者」から「粗忽者」に代わったけれど、まだ彼が王女に情報を渡したことを取り消す様子はない。ケリーさんもそれに気づき、誤解を解こうとあわてて話し始めた。


「お待ちください、ジャレド様! 私は本当に王女に情報を漏らしておりません!」

「え〜? だって、そこに証拠があるじゃないか」


 師匠はきょとんとした顔でケリーさんの腕を指差した。そこはさっき私が血が出ていると、指摘した箇所だ。今はハンカチが結ばれているはずだけど――。


(あれ? 血が止まってない……? ハンカチにまで滲んでる……)


 傷を負ってから何日も経っているのに、こんなに出血が続くなんておかしい。すると次の瞬間、ジャレドがスッと前に出て、ケリーさんの腕をつかんだ。


「やっぱり。これ、盗聴の魔術だね。自分でやったんじゃないなら、誰に付けられたの?」

「は? と、盗聴? 魔術? 私は魔術なんて使えませんし、傷をつけたのは、たぶんアンジェラ王女かと……」

「ジャレド、ケリーの腕に魔術がかかっているのか?」

「ん? みんなには見えないの? 今まさに魔法陣が浮かんでるじゃないか」


 師匠はそう言うけれど、魔法陣はどこにも見えない。みんなも同じようで首を振っている。それに魔法陣は普通、発動した瞬間にしか見えないはず。


(師匠にだけ見える魔法陣……? まさか!)


 私は師匠の腕をつかみ、強引に振り向かせた。


「師匠! この魔術は師匠の魔法陣を使った、エリックの仕業では?」

「……そうかも」

「思い出してください! この盗聴の魔術を作ったとき、魔法陣が師匠にだけ見えるように設定していませんか?」


 ジャレドは以前も「自分だけがかからない魔術」をよく作っていた。彼もすぐに思い当たったのだろう。顔色がサッと変わった。


「……ありえる」

「早く、この魔術を解いてください!」


 きっとこれも、あの呪いの魔術と同時に作って、エリックに破棄させたものだろう。それをまた、悪用されたのだ。


(エリックはケリーさんの話をずっと盗み聞きしていた……? それなら、私たちがケセラに到着したことも知って――)


 恐ろしい考えに、背筋が寒くなったその時、師匠が声を張り上げた。


「みんな! 盗聴を解除したよ!」


 師匠はケリーさんにかかっていた魔術を解くと、すぐさま私とアメリさんの手をつかんだ。目を閉じ、手に魔力を込めると、転移に向けて集中し始める。


「いったん今朝までいたカレブの町に戻ろう。君たち二人までなら、僕が一緒に移動できる。カイルは自分で、ブルーノは馬車で戻ってきて」

「わかった。ケリーはこのことを殿下に報告しろ。他にも傷が治らない者がいたら――」


「――見つけたわ」


 耳元に、冷たく湿った女の声が響いた。同時に、私の足元がまばゆく光り、地面に金色の魔法陣が浮かび上がる。師匠のものではない。この金色の魔力は王族の証。


「きゃあ!」

「サクラ!」


 逃げる間もなく、アンジェラ王女の手が私の腕をつかんだ。視界がぐにゃりと歪み、転移特有の浮遊感が襲う。誰かの指先がかすかにふれたが、その手は届かなかった。


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