25話 二度目の誓い
「ジャレド! その……俺とサクラは、どういう関係だったんだ?」
ジャレドはじっと俺を見つめ、しばらく沈黙した。そして、ふうっと息を吐いてから、静かに口を開いた。
「……さあね。サクラは君と最初に会った時、どんな顔をしてたの? あの子は表情に出るから、それで彼女の気持ちは十分わかるんじゃない?」
その言葉に、胸の奥がズキンと痛んだ。忘れもしない。初めて目が合った時――サクラは俺を見て、本当に嬉しそうに笑っていた。しかしそこからサクラの表情は困惑し、そして絶望へと変わった。
変えたのは、俺だ。
もし彼女が俺のことを愛していたのなら、恋人の手によって崖から突き落とされると知った時、どれだけつらかっただろう。いや、その前に俺は、彼女に剣を突きつけ傷つけた。たとえ俺がしたことをサクラが許してくれても、心が離れてしまっていてもおかしくない。
(なぜ俺は覚えていられなかったんだ……! 後悔してもしきれない……)
それでも胸の奥にある「サクラを幸せにしたい」「誰にも渡したくない」という想いを手放すことはできなかった。
「あ〜もう! カイル暗いよ! サクラはね、自分の好きな人には笑っていてほしいんだよ。だからそんな罪悪感まみれの顔でいるより、冷たくしたぶん甘やかしてあげればいい!」
そう言うとジャレドはフンと鼻で笑った。彼らしい俺への助言だ。
「なんだ、ジャレド。おまえも人の気持ちがわかるじゃないか」
からかう司教様の言葉に、彼はニヤリと笑って返した。
「なに言ってるの、伯父さん。僕は誰かに恋するのも好きだけど、人の恋路も好きなんだよ。かわいい弟子の恋なら、なおさらね」
ふふんと意味深に笑うジャレドは、茶化しながらも俺たちを応援しているのだろう。俺はその気持ちに応えるように、静かにうなずいた。
「そしたらね……カイル、聞いてる?」
目の前のサクラは、過去にこの練習場で浄化を披露した話をしている。身ぶり手ぶりを交えて話す姿は、とても愛らしい。
(嫉妬してる場合じゃない。俺もジャレドも、サクラの本当の笑顔を見たいんだ。なら俺がすべきことは、彼女を守り、記憶を取り戻すこと!)
グッと拳を握りしめ、心の中でそう誓った。
「聞いてるぞ。それで、サクラの浄化を見た俺はちゃんと謝ったのか?」
(これ以上変なことをしていないといいが……、自分の行動なのに不安だ)
「謝ってくれたよ。でもね、その前にこうしたの!」
そう言うとサクラは、両腕を下からすくい上げるように動かした。まるで小さな子どもを抱き上げて遊んでいるような仕草だ。
「こんなに美しい浄化は初めてだって褒めて、私を聖女だって認めたの。こうやって私を持ち上げたのよ」
「ほう、こうやってか?」
「きゃっ!」
過去をなぞることで、今もまた思い出になるはずだ。そう思った俺はサクラをひょいっと抱き上げ、「この後どうしたんだ?」と聞いた。
「……私が降ろしてって言って、それであなたが謝ってくれたの」
「その時、俺は君にひざまずいたか?」
「え? う、うん。そうだけど」
「そうか。じゃあもう一度、誓わせてくれ」
「へ?」
頬を赤く染めたサクラを地面に降ろすと、すぐさま足元にひざまずく。きっと過去の俺も、彼女を守りたいと誓ったはずだ。そっと彼女の手を取り、自分の額に当て、目を閉じる。サクラの手はほんの少し震えていた。
「私、カイル・ラドニーは、王から賜った剣と、神から授かった聖なる力で、あなたを命かけて生涯守ることを誓う」
ゆっくりサクラの顔を見上げると、彼女は大きな瞳にあふれんばかりの涙をため、俺を見つめていた。
「……あの時だって、そんな誓いはしなかったよ?」
立ち上がり彼女の頬にふれると、ぽろりと涙がこぼれ落ちる。赤く上気した顔に潤んだ瞳で見つめられ、俺は自然と彼女を抱き寄せた。
「それなら過去の俺は愚か者だな。まだ思い出せないが、きっと昔の俺もサクラに恋していたはずだ。だからもう一度、君を守ると誓わせてくれ。……それにもう誓ってしまったからな。取り消しはできないぞ」
彼女の乱れた髪を一房耳にかけながら笑うと、サクラは少し驚いた顔で呟いた。
「あの時と一緒……、その笑い方、好き。えへへ」
少しはしゃいだ声とともに、サクラが俺の背中にぎゅっとしがみついた。俺はゆっくりと彼女の背中に手を回し、静かに魔力を流し込む。小さく「ん……」と息を漏らしたサクラの反応に、思わずこっちまで顔が熱くなった。
「必ず、君のことを思い出してみせる」
「……うん。私もカイルに思い出してもらいたい」
どこからか鳥のさえずりが聞こえ、心地よい風がサクラの細い髪をさらさらと撫でていく。俺はさらに力をこめて彼女を抱きしめ、ゆっくりと魔力を流し込んでいった。
(恋人同士だったことを知れてよかった……。そのおかげで、サクラとの絆が深まった気がする)
俺は愛しいサクラの体温を感じながら、教えてくれたジャレドへ感謝していた。
――だが、そんな感謝の気持ちは、夜明け前に吹き飛ばされた。
ドンドンドンッ!
宿泊していた部屋の扉を、誰かが乱暴に叩いた。サクラに何かあったのかと、驚いて飛び起き、扉を開ける。
「魔法陣が完成したよ! さっ! みんなで旅にでよう~!」
立っていたのは、目をギラギラと光らせたジャレドだった。




