23話 一度目の思い出
「大丈夫ですか! 顔が真っ青です!」
「……あ、ああ。ほら、今日はみんなに責められるし、いっぱいしゃべったから疲れちゃった〜」
笑ってごまかそうとしているけど、明らかに様子がおかしい。シャツが汗でびっしょりと濡れていて、咳も止まらない。その様子を見た司教様は師匠の肩に優しく手を置き、ブルーノさんたちに指示を出した。
「ジャレドを客室へ案内してくれ。今日はみんな疲れているだろう。昼食もまだだったから休憩しよう」
そういえばいきなり師匠が現れて、そのうえ王女たちまで来たから、まだお昼を食べていなかった。そのことに気づくと、とたんにお腹が空いてくる。思わず音が鳴りそうなお腹を押さえると、それを見た殿下がクスッと笑って立ち上がった。
「では、私も王宮に帰ります。カイル、ケリーを貸してくれ。アンジェラたちの件が片付いたら、報告を兼ねてまた教会に戻すから」
「わかりました。ケリー、頼んだぞ」
「はっ!」
そのまま殿下とケリーさんは足早に部屋を出て行き、師匠も客室へ案内されていった。残った私たちは司教様の計らいで、アメリさんやブルーノさんと一緒に食事を取ることになった。
「うわ〜! 教会のシチューだ! 嬉しい!」
「サクラ様はシチューがお好きなんですか? 他にどんな好物がありますか? 私、知っておきたいです!」
懐かしい味を満喫していると、アメリさんとブルーノさんが興味津々にこちらを見た。
(最初の召喚のときも、こうやって私の好みを知りたがってたなぁ。記憶がなくてもまた親しくなれるなら嬉しい!)
「えっと、まずはこの野菜たっぷりのシチューでしょう。それからデザートのフルーツプディング。塩味の白パンも好きだよ! あと、アメリさんの大好きな野いちごジュースも!」
そう言うと、アメリさんは目をキラキラさせて喜んだ。
「私の好みまで覚えてくださっているんですね! 料理人も喜びます!」
「キッチンのミリアさんだよね! 彼女の作るお惣菜パンが大好きだって伝えてほしい!」
「ふふ。わかりました!」
今日は甘みのある黒パンだけど、もちろんこれも美味しい。毎日焼き立てのパンが食べられるなんて、日本ではできない贅沢だ。
「他にはありませんか? 私たちが以前していたことがあれば教えてください」
今度はブルーノさんが尋ねてきた。そう言われて、私は彼からもらって大事にしていたある物を思い出した。
「あのね、ブルーノさんが作る花のポプリが欲しいの。ブルーノさんの生まれた地方に咲く花で、枕に入れるとよく眠れるからって、プレゼントしてくれたんだけど……わかるかな?」
すると、ブルーノさんの優しいブラウンの瞳がパッと輝いた。
「シュリの花ですね! もちろんですとも! すぐにお作りします! うわあ……嬉しいな。サクラ様は本当に私たちと仲良くしてくれていたのですね」
二人は顔を見合わせ、幸せそうに笑った。私もその姿を見ているだけで、まるで昔に戻ったみたいで嬉しくなる。
(話せるって最高! さすがに今、二人の恋の行方までは聞けないけど、記憶が戻ったら根掘り葉掘り聞いちゃうからね!)
含み笑いをしながら隣に座るカイルを見ると、また彼の表情が沈んでいるように見えた。
「カイル? さっきからどうしたの? 体調、悪い?」
服の袖をそっと引いて様子をうかがうと、彼は苦笑しながら首を振った。
「……いや、そんなことはない。ただ今日はあまりにもいろいろあったから、情報を整理するのに疲れたんだ。そうだ、サクラ。食べ終わったなら、二人で散歩しないか?」
「うん! 行きたい!」
(そうだよね。混乱しているのは私だけじゃない。いきなり犯罪者だと思っていた私が聖女で、しかも過去に一緒に過ごしてたなんて知ったら、驚いて当たり前だよ)
「中庭に行こうか。今の時期は、花がきれいだ」
「そうだね。ちょっと外の空気を吸いたいし」
食堂を出て一階に降りると、私たちは中庭へと歩きだした。教会は召喚されてからずっと過ごしてきた場所だ。私が迷いもせず、すいすい歩いていくので、カイルは「やっぱりサクラは聖女なんだな」と呟いた。
「懐かしいな〜! あれ? あそこ……」
ふと目に入ったのは、中庭とは反対側に伸びる廊下だった。一度目の召喚でよく通ったある場所を思い出し、胸がドクンと跳ね上がる。
あそこは、あの先には――。
心臓がとくとくと早鐘を打ち、私は思わずカイルの手をつかんだ。
「カイル! こっちに来て!」
「え? どうしたんだ、急に?」
(お庭もいいけど、もっと素敵なところがあったの思い出した!)
私は戸惑う彼をぐいぐい引っ張り、その場所に連れて行く。その自分の行動さえ懐かしくて、胸の奥が熱くなった。
「ここは……?」
「ここは、私が瘴気の浄化を練習してた場所なの。それと……カイルとの思い出の場所!」
初めてカイルと出会ったあの日。私が聖女だと証明するために浄化を見せた練習場。何も変わっていないこの景色の中で彼と並ぶと、まるで時間が巻き戻ったように感じる。
私はくるりと振り返り、少し照れたように微笑むカイルに、昔話をすることにした。




